第8話 そろそろ鉱石とかほしいよね
ケットシーは器用かつ働き者であった。
まずは、移動や輸送をしやすくするために、妖狐の里とアルラウネの里を繋ぐ道を整備する必要がある、と俺が提案すると、ケットシーは街道を整備し始めた。これで少しは移動が楽になるであろう。
「イーナ様!どうですかニャ!」
さらに、テオを中心に、何匹かのケットシーが妖狐の里に俺の病院を建ててくれた。まだまだ、設備こそ充実していないが、広さも十分ありこれなら診察や処置も出来るだろう。
「テオ!すごいよ!ありがとう!」
「ニャニャ~~」
テオは嬉しそうにお腹を見せて転がっている。やはり猫だな……
そして、妖狐の方々が、俺のために新しく服と白衣を作ってくれた。むろん、しっぽのための穴は空いていない。
ついに、診療所もオープンした。とは言っても、基本は往診である。
ルカとテオと共に里の様子を見て回ると、すっかり腹痛や下痢の流行も収まっていた。
大きかったのは、飲み水の浄化であろう。アルラウネの里で手に入れた、殺菌作用のある葉は非常に効果が高く、それだけでも大きな改善が見られた。
他によく見られる症例と言えば、子供達の擦り傷とかその程度のものであった。妖狐の里は平和そのものであった。
「イーナ様!なんかつまらないよ!」
ルカが不満を口にする。
「良いじゃない。病気なんて発生しないに、こしたことはないんだから!」
それからしばらくの間は、病院に来るものはといえば、ネズミの骨が喉に引っかかった妖狐のお爺ちゃんや、身体が痒くてたまらないケットシーなど、狐と猫に囲まれた暮らしをしていた。
「平和だなーー」
こうなると確かにルカの言うとおり、暇ではある。それにだ、病院は出来たと言っても明らかに物資は不足している。特に器具系だ。
「やっぱり、金属とか電気とか欲しいなー」
俺は無意識に呟いていたようであった。ルカが俺の言葉に反応する。
「きんぞく?でんき?」
ルカはそれが何を示しているかわからないようだった。
「金属は鉱石とかから作る固いもので、いろんなものに使える便利なものだけど、加工が難しいんだ。電気はちょっと難しいから、また今度詳しく説明するよ」
ルカはしっくりきていないようだったが、テオは鉱石について聞き覚えがあるらしい。
「なんだ、テオ。お前鉱石を知っているのか?」
「ニャ!森を抜けた山岳地帯には龍神族の街があると聞いたことがあるニャ!龍神族は近くの火山で取れる鉱石を加工する技術を持っているらしいニャ!」
――龍じゃと? 昔はよく戦ったがのう…… 最近は全く見ることもなくなったわい。 そやつはわらわと同じくらい強かったぞ!
四神並みかよ……
正直、龍は怖かったが、龍神族には非常に興味を持った。新たな技術をとりいれること、それは里の発展に大きく貢献するだろう。鉄があれば、武器だけじゃなく、いろいろな医療器具も作れる。
「なあ、提案があるんだけど……」
俺がそう言うと、ルカもテオも、俺が何を言いたいのかもう分かったような表情をしていた。
――龍神族の里にいきたいんじゃろ?
「イーナ様!行こうよ!また冒険したい!」
正直、衛生環境が少しは改善したおかげで、病気に苦しむ狐たちも大幅に減った。少しの間なら里を離れても大丈夫だろう。里の皆の衛生に対する意識も改善されてきたし……
「よし、調査に行くか!」
「やったー!」
「ニャ!」
里長に調査に行きたい旨の提案をしに行くと、是非イーナ様のお好きになさってくださいとのことだ。話がスムーズである。
こうして次の日、俺達は妖狐の里を出て、まずアルラウネの里へと向かうことにした。一応、途中で何か不測の事態が起こっても大丈夫なように、何種類かの薬は携帯している。
「ローザさん!ご無沙汰してました!」
アルラウネの里に着いた俺達はさっそく族長の元へと向かった。
「イーナ様よくぞ我らの里へ。ご足労感謝申し上げます。それで今日はどのようなご用件でしょうか?」
実は……
「なるほど、龍神族の里に行きたいと」
族長も龍神族に関しては知っていたようだ。
「ならば、里を出て妖狐の里とは反対の方向に向かえばよろしいでしょう。2~3日もすれば山岳地帯に入ると思います。しかし、山岳地帯に入ってからの詳しい道は私は存じ上げません」
どうしたものか……
「山岳地帯にはドワーフ族が住んでいます。彼らはたまに我らの里へ来るので、私もよく知っています。まずはドワーフを訪れてはいかがでしょうか?」
「ドワーフか……」
「ニャ!ドワーフの里なら任せてニャ!行ったことがあるのニャ!」
テオは頼りになる。
「では私が紹介状を書きましょう。これを族長にお渡しください」
ローザからの書簡を受け取った後は、皆でヤマトの墓標にお祈りを捧げた。あの日のことは決して忘れることはないだろう。そしてきっと隣で祈りを捧げているルカも。
アルラウネの里を離れた後、テオの案内で、森の中をひたすらに突き進んだ。夜はキャンプしながら少しイベント気分を楽しんだが、3日目にもなると、そろそろ森の景色にも飽きてきた。
それでもだんだんと木々が減っていくのは分かった。確実に出口は近づいてきてはいる。そして里を出発して3日目の昼。俺達はようやく森を抜けたようだ。
木々が減り、山肌が見える。テオ曰く、もう半日もしない間につくらしい。
ドワーフの里は山に挟まれた渓谷に存在しており、山をくりぬいた洞窟に住み着いているようだ。里に着いた俺達はとりあえず、族長の元へと向かう。
族長はふさふさしたひげが特徴的なおじいさんだった。身長は1mにも満たないであろう。小柄ではあったが、体格はずんぐりとしている。
族長に書簡を渡すと、俺達は一気にVIP待遇となった。
「イーナ様、よくぞ我らの里へ。して、龍神族の街へ行きたいのことですな。申し訳ないが、我々もどこにあるかは存じ上げませぬ。しかし、龍を見たものは何人もおります故、かくいう私も……」
話が長い。ドワーフの族長は10分近く自分の昔話を語る。
――ええい、そろそろ聞き飽きたわい!
流石にサクヤも耐えきれなかったようだ。
要約すると、ここから見える一番高い山の方で龍の目撃情報があるらしい。しかし、その地形上、なかなか天候が荒れることが多く、調査が進んでいないという。
俺達はドワーフの里で一日休んだ後、山に向けて出発した。一番高い山は一目で明らかだった。雲で大体が隠されているその山は、いかにも龍が住んでいそうな物々しい雰囲気を醸し出していた。
ドワーフの里を出て二日くらいした頃だろうか、周りにも雪が見え始めてきた。
「イーナ様!あの白い奴!なに?」
ルカは雪に興味津々そうだ。同じくテオもである。
「つめたーい!」
「ニャ!」
少女と猫が雪で戯れている。なんと雅な光景なのだろうか……
そう思っていたのもつかの間、なにやら天候が悪くなってきた。すぐに辺りは一気に吹雪始めた。
神通力を使えば、寒さはへっちゃらではあった。身体の周りに暖かい空気の膜をイメージする。しかし前は全く見えない。そして、テオは普通に凍えている。
「テオ大丈夫か?」
「ニャ……寒いニャ……」
それでも吹雪の中をしばらく歩くと、目の前にうっすらと何かの気配を感じた。良く見えないが、何か巨大なものがいる様な気がする。何がいるのか確かめようと近づくと、その正体はすぐに判明した。
「龍だ!」
あ、これは…… まずいパターンですかね……
ルカもテオもその姿に驚いて腰を抜かしてしまったようだ。
しかしなにやら妙だ。襲ってはこない。
「あのー?龍ですか?」
俺は様子をうかがうように、龍に問いかけた。
「おぬし、九尾か?」
龍は全てお見通しのようだ。
――そうじゃ!久しいのう!
「200年ぶりくらいか!なつかしいぞ!」
なにやら、妙な雰囲気になってきたぞ……
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