第124話 受験勉強のストレスが溜まったので、デートで発散します。 ⑤

「肉まんホカホカであったかーい!」


「可笑しい。 これは許されないことでしょ!」


「ん〜なんのことか私にはさっぱり分かりませんな〜」


「鈴。 顔背けてないでこっち向いてよ。 せっかくの可愛い顔が見えないよ」


「いや、私後ろ姿からして可愛いから!!」


「こんにゃろ〜! 確かにそうだけどさぁ!」


「あっ痛い! 頭グリグリするのやめてぇ〜!」


 俺はコンビニの駐輪場で軽く鈴の頭をグリグリする。


 鈴は痛がっているけど、表情は楽しそうだ。


「あそこまでボコボコにされると寧ろ清々しいよ」


 結局2試合して2試合とも負けてしまった。


 しかも、俺はハンデがあったのに1ゲームも取れなかった。


 変な笑いが出てしまったよ。


「いやー経験者が初心者に負けるのは悔しいでしょ。 だから容赦なく戦ったよ」


「慈悲は、慈悲はないのですかっ……」


「えーまったくしょうがないなぁ……はい。 半分こ」


 俺が項垂れていると、鈴は悪戯っぽく笑いながら手に持っていた肉まんを半分こにする。


 肉まんからは湯気が出ていて、食欲を掻き立てられた。


「えっ。 もらっていいの?」


「いいに決まってるじゃん。 元々この肉まん、陸くんのお金で買った物なんだからさ」


 そう言って、鈴は半分こにした肉まんを俺に持たせる。


 明らかに俺の方の肉まんが大きかった。


「俺の方が大きいんだけどいいの?」


「いいのいいの」


 ぐぅぅぅぅ〜〜


 俺の横からお腹が鳴る音が聞こえる。


 そっと目を横に動かすと、鈴が顔を真っ赤にしながら下を向いていた。 身体は恥ずかしさからか、少し震えている。


 ……こ、こんな鈴も可愛いなぁ!


 俺はホッコリとした気持ちになりながら、そっと多い部分をちぎり、鈴に持たせた。


「……ありがと」


「どういたしまして」


 俺達は静かに自転車に乗りながら肉まんを食べる。 無言だったけど、別にそれが苦になることはなかった。


「し、しょうがないじゃん。 あんなに身体動かしたんだもん。 お腹減るのはしょうがないよ」


「うんうん」


「やめて! そんな優しい笑みを浮かべて私を見ないで!」


「鈴。 もう1個肉まん食べるかい?」


「いらないよ! これで充分だよ!」


 きゅるるるる……。


 鈴の方からさっきに比べると音は小さいけど、お腹の音が鳴るのが聞こえた。


「……もう1個買ってくるね」


「…………お、お願いします」


 俺は財布を持ってもう一度コンビニに入り、肉まんを買う。


 そして、買った肉まんを鈴に渡したのだった。


「あ、ありがとう。 お金払うね」


「別にいいよ」


「でも……」


「いいからいいから」


 寧ろ、こんなに可愛い鈴を見ることができてこちらこそありがとうだよ。


「…………陸くん。 今日は本当にありがとうね」


 鈴が肉まんをチマチマ食べながら話しかけてくる。 その姿はハムスターの様な愛らしさがあった。


「受験勉強で大変なのは陸くんも一緒なのに、私の為に色々考えてくれてありがとう。 後、一緒に楽しんでくれてありがとうね」


「別にどうってことないよ。 俺も久しぶりに身体を動かせて楽しかったし」


 俺は手を上にあげながら背中を伸ばす。


 うん。 スッキリしたし、気持ちが良かったな。


「……入試まで後2ヶ月ぐらいだね」


「……そうだね」


 俺達は夜空を見上げる。 冬の夜空は澄んでいて、星がよく見えるような気がした。


「よしっ! 入試まであとちょっとあとちょっと! もう少し頑張ってみますか!!」


「うん。 そうしよう」


「陸くん! ぜっったい同じ高校に行こうね!」


「……おう!」


 俺達は手を握る。 冬の寒さで冷たくなっていた手も、鈴の手を握ると暖かくなったような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る