第102話 同じ塾で隣の席の女の子と、帰り道に公園に寄りました。

「あーブランコ絡まってる!!」


「前使った人がそのまんまにしてるんだろうね」


 顧問からスカウトされている話を聞いてから数日後、俺は放課後に鈴と一緒にあまり普段人が来ない公園へと来ていた。


 雑草とかはあんまりなくてそこそこ綺麗だけど、遊具は少ないな。


 数少ない遊具の1つであるブランコもこの有り様だ。


「で、陸くん大事な話ってなに?」


 鈴がブランコを解いてから座る。 表情は真剣だった。


 俺も自分が座るブランコを解いてから座る。 


 座るとギィィと耳につく音が辺りに響いた。


「俺さ、進路決めたよ」


「…………あ、進路の話!?」


「?? そうだけど……??」


 俺が進路の話を切り出すと鈴は真剣だった表情から、少しホッとしたような表情を見せた。


 あれ? なんだか俺達噛み合ってないような気がする。


「もしかして別れ話が出るのかなぁ……って」


「なんで別れ話!? 俺別れたくないよ!!」


 鈴の言葉を聞いて、俺は思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。


 どうしてそういう感じになるの!?


 もしかして俺、鈴を不安にさせるような言動をしていたのか……?


 …………駄目だ!! 心当たりがねぇ!!


「だって人目がつかないところに連れて行かれて、真剣な表情で『大事な話が放課後あるんだ。 今日大丈夫?』って聞かれたんだよ!? しかも、『ここじゃ駄目なの?』って私が聞いたら、目を逸らして罰が悪そうな顔をしながら『ここではちょっと……』なんて言われたら、悪い方に考えちゃうよ!!」


 鈴の言い分を聞いて最もだと俺は思ってしまった。


 ただ、俺は進路の話は落ち着いてしたかったし、スカウトされた〜とか話すのは、学校内でするのはなんだかいけないような気がしたんだ。


 みんな3年生になって殆どの人が初めての受験に挑もうとしてどこかピリピリしているのに、5月の段階でスカウトされた〜とか他の生徒に聞かれたら、『なんだよ春名もう高校決まったも同然じゃん。 ったく、進路決まったやつは良いよな〜』とか、僻みの目で見られるかもしれない。


 そんな考えが俺にはあったからそういう行動をとったんだけど、確かになにも知らない鈴からしたら不安になるのはしょうがないよな。


 俺も鈴と同じ立場なら不安になって、別れ話が出るのかもしれない……って思うかもしれない。


 反省しないとな。


「違うんだよ。 その言動には理由があってーーーーーーー」


 俺は鈴に理由などを説明する。


 すると、鈴は身体の力を抜いて表情を緩めた。


「良かったよ〜……それで、陸くんはどこの高校を受けるの?」


「前に言ってた□□高校だよ」


「あ、スカウトされたの□□高校なんだ」


「そうそう」


「じゃあ、私も□□高校目指そうかな」


「え、そんな簡単に決めていいの!?」


 進路ってかなり重要だと思うんだけど!!


「うちは元々高校、公立でも私立でも県立でもどこでもいいって言われてるんだ。 流石に偏差値が低すぎる高校だったら怒られるけど、□□高校ならそこそこ偏差値高いし、私の今の学力なら合格する可能性5割ぐらいだから、受けたいって言ったら受けさせてもらえると思う」


「そうなんだ……」


「寧ろ、自分の学力より少し上の□□高校受けたいって言ったら、あの鈴が上を目指そうとしてる!?って驚かれると思うよ」


 鈴はそう言ってあっけらかんと笑う。


 ま、まさかそんな簡単に進路を決めるなんて予想外だったんだけど……。


「陸くんは陸上を頑張れる環境がある□□高校に行きたい。 私は大好きな彼氏と同じ高校に行きたい。 うちの親はちょっと頭が良い□□高校に娘が入る。 みんなwin-win。 みんなハッピーだよ!!」


「そ、そっかぁ!!」


 正直、色々呆気なく決まって混乱しているんだけど、とりあえず受験で高校に受かったら鈴とまた同じ学校に通えることは殆ど決まったようなものだ。


 今はただそれを心の底から喜ぼうと思った。


「じゃあ、これから私達は□□高校受験に向けて頑張らないとね!」


「そうだね。 とりあえず今は6月にある模試に向けて勉強するかぁ」


「模試でその進路希望の学校の判定が分かるんだっけ? 私そういうのあんまりやったことないから、実は少し楽しみなんだぁ」


「あーその感覚俺もなんとなく分かるよ」


 俺は鈴とそんな話をしながらブランコを漕いで、雑談を楽しんだのだった。

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