第59話 同じ塾で隣の席の女の子から、クリスマスイブにデートに誘われました。 

 期末テストも終わり、脚の怪我も完治した。


 残り数日したら冬休み。


 右手の小指の骨折、右手首の捻挫もほぼ治りかけていた。


「陸、今日部活出る?」


 俺が教室で帰る支度をしていると、チアキが話しかけてくる。


 その表情はどこか気を遣っているように見えた。


「ごめん。 今日も部活休むよ」


「そっか……じゃあ、ボクもう行くね」


「うん。 行ってらっしゃい」


 俺はチアキを見送る。 ここ最近、俺はチアキ達に心配をかけている。


 なぜなら、期末テストが終わってから約1週間、一回も部活に出ていないからだ。


 理由は一応ある。 今までは頑張ろうと思えていた部活が、今は頑張ろうと思えないから、足がだんだん延びなくなってきているのだ。


 ……このままだと俺、フェードアウトしちゃいそうだ。


「……寒っ」


 俺は下駄箱で靴を履いてから外に出る。


 吐いた息は白く、寒さから無意識に口元をマフラーで隠していた。


「……先生、もう来てるのか。 こんな所にいるのばれたら怒られるな」


 俺はグラウンドから少し離れている体育館の裏から、練習風景を見る。


 今は先生が陸上部の部員に集合をかけたところだ。


「……俺、何やってんだろ」


 こんな所から練習風景を見ているなら、部活に参加すれば良いのに。


 なんで、俺は今まで出来ていたことが出来ていないんだろう?


 俺のメンタル弱すぎじゃね?


 俺の中で色々な考えが巡る。


 俺は今、すごく中途半端だ。


 陸上も中途半端で、勉強も中途半端。


 今回の期末テストだって、平均点ギリギリ60点だった。


 今まではあんなに頑張って平均点を上げたり、勉強することに意欲的だったのに、怪我が続いて気持ちが沈んだ結果、目に見えるぐらい堕落した。


 鈴にテストの平均点も抜かれてしまった。


 鈴のことが好きだと自覚したあの日、"春名はここが凄いぞ!"と言える、他人から見て感じられるような男になると決めたのに、今の俺はどうだ?


 まったく決めたことが出来ていない。


 ……自分のことが大っ嫌いになっちゃいそうだ。


「あれ? 陸くんこんなところでどうしたの?」


「鈴……」


 俺がそんなことを思っていると、体操服姿の鈴が話しかけてくる。 きっと今から部活なのだろう。


「陸くんがこんな所にいるなんて珍しいね」


「まぁ、確かに」


「……部活には出ないの?」


 鈴は陸上部の方を見ながら聞いてきた。


 それに対して俺は、前学校の廊下で会った時と同じような笑みを浮かべながら、答えるのだった。


「今日はこのあと予定があるんだ」


「そうなんだ」


「そうなんだよ」


「……」


「……」


 俺達は会話が終わって無言になる。 き、気まずい。


 俺はそんな空気に耐えられずに、早々とこの場を離れようとした。


 しかし、鈴はそんな俺を見て話しかけてきた。


「ねぇ陸くん」


「な、なに?」


 鈴は俺のことをジッと見つめる。


「陸くんはさ、クリスマスイブに予定ある?」


「な、ないけど……」


 俺はしどろもどろになりながら答える。


 そんな俺に対して、鈴はしっかりと俺の顔を見ながら、こう言ったのだった。




















「なら、クリスマスイブに私とデートしようよ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る