第56話 悪いことは案外続く。

「うっし。 春名! 今日の足の調子はどうだ?」


「あんまり違和感を感じないです」


「よし! なら、今日は自転車で練習だ!」


「自転車で練習?」


 怪我した日から数日が経った。


 怪我した次の日は、先生に報告をした後、俺は部活に参加せずに帰宅した。


 それ以降の部活には出て、筋トレをしていたんだけど、自転車で練習は初めてだ。


 一体何するんだろう?


「お前たちがよく走る外周コースがあるだろ? あそこを自転車でずっと走るんだ。 自転車は学校のを貸してやる」


「分かりました」


 なんだ。 案外簡単で楽しそうな練習だな。


「ちなみに、坂道とかは足つけないで登ること。 更にいつもの外周の2倍は漕ぐこと。 これを意識してやれよ」


「……マジっすか?」


 坂道結構あるんだけど。


 しかも、アップダウン結構激しいんだけど。


 それに加えていつもの2倍? 全然楽じゃない!


「これも立派な練習だぞ。 手は抜くなよ」


「わ、分かりました!」


「ほら、これが自転車の鍵だ。 行ってこい!」


 先生は自転車の鍵を俺に渡す。


 俺は自転車が置かれている駐輪場まで行き、自転車に乗った。


 俺はペダルを一生懸命漕ぐ。


 なんだか、平日の放課後に学校のジャージを着て、自転車に乗るのは不思議な感覚だった。


 帰宅しようとしていた生徒達が、俺に注目する。


 な、なんか落ち着かないなおい。


 俺はソワソワしながらも、外周コースに入る。


 いつもと同じルート、景色なのに、いつもとは違う視点、速さを感じることが出来て、なんだか面白い。


 たまにはこんな練習もいいな。


 俺はそんなことを思いながら、外周コースを走った。


 ……坂道に足つけずに登るの、きっついなぁ。


 でも、普段とは違う部分の筋肉を使っているような気がする。


 これは、筋トレではなかなか得られない効果なんじゃないか?


 先生はこの効果があるから、自転車練習にしたのかな?


「これはこれで、なかなか楽しいな」


 俺はちょっとテンションが上がって、漕ぐスピードを速くする。


 すると、倉庫から車がバックで出てこようとしているのが見えた。


 おっと。 もし事故にでもあったら堪らないからな。


 スピードを緩めて、ちょっと離れるか。


 俺はスピードを緩めて、できるだけ車から距離を取る。


 よし。 大丈夫そうだな。


「…………えっ!?」


 そんなことを思って束の間、車は間違えてアクセルをおもいっきり踏んだのか、普通ではあり得ないスピードでバックしてくる。


 俺は気付いてすぐに逃げようとしたが、間に合わなかった。


「ぐはぁ!?」


 俺は撥ねられて、自転車から投げ出される。


 なんとか怪我をしないようにと地面についた右手から、嫌な音と感触が伝わってきた。

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