第53話 同じ塾で隣の席の女の子と、会うのが気まずい。
「…………」
「…………」
「……えっと、二人ともなにかあった?」
北山先生が遠慮気味に俺達に聞いてくる。
でも、俺達は気まずすぎて、北山先生に答えることができなかった。
あの後、田中が集計結果を教えてくれたけど、俺はショックすぎてなにも頭に残らなかった。
立つのもやっとで、みんなになんとか教室まで連れて行ってもらったレベルだ。
本当は今日の塾には来たくなかったけど、このままズルズルいったら良くないことは分かっていたからなんとか来た。
けれど、気まずすぎてお腹が痛い。 鈴と顔が合わないのが辛かった。
「え、えっと……今日の授業はこれで終わりです。 お、お疲れ様」
北山先生の授業が終わる。 最後まで北山先生には迷惑をかけてしまった。
申し訳ないことしたな……。
俺は帰りの支度をしながら、チラッと鈴の様子を見る。 鈴も帰りの支度を始めていた。
……このままいったら今日が終わってしまう。 このままでは駄目だ。 なんとかしないと。
俺はカバンを背負って深呼吸をする。 1回、2回。 大きく息を吸って時間をかけて吐いた。
気持ちが少し落ち着き、頭の中が少しスッキリしたように感じた。
……よしっ! 声を掛けるぞ!
俺は気合を入れて鈴の方に向く。
すると、鈴もちょうど俺の方を見ていた。 お互いの視線が交差する。
予想外の出来事で少し動揺したけど、俺はなんとか声を絞り出した。
「鈴。 話したい事あるんだけど、この後時間、あるかな……?」
「……あるよ」
「なら、公園で話したいんだけどいい?」
「別にいいよ」
「なら、行こっか」
俺達は阿部さん達に、ちょっと2人で話すことがあるからと言って、先に塾を出て公園へと向かう。
阿部さんと村上さんは不思議そうな顔をしていたけど、一緒に聞いていたであろう近藤さんはニヤニヤ笑っていた。
それを見た阿部さんと村上さんが近藤さんに詰め寄っていたけど、俺の名誉の為に話してないと嬉しいな。
「それで話ってなにかな?」
公園へ入ると、鈴は自転車のサドルに少しお尻を置きながら聞いてくる。
俺は自転車から降りて、鈴の方に身体を向けながら話し始めるのだった。
「話は空き教室でのことなんだけど……鈴はどこから聞いてた感じ?」
俺は恐る恐る聞く。
すると、鈴は少し顔を赤くしながら話始めた。
「チアキ君がミニスカメイド服が似合いそうってところから」
「なら、俺が言っていたことは……」
「うん。 全部聞いてたよ」
俺は自分の顔が松田さん以上に赤くなっていることを自覚した。
全部聞かれていたのか……! 途中から聞いてたことを少し期待したけど、そんなことなかったか……!
「陸くんってさ……メイド服が好きなの?」
「うぐっ!」
「どっちかと言えばミニスカメイド服よりも、ロングスカートメイド服の方が好きなの?」
「ぐふっ!」
「同級生の女の子のメイド服姿を妄想する、変態さんなの?」
「ぐはぁ!」
俺は松田さんの言葉の刃により、メンタルがズタボロにされていく。
き、きつい。 好きな女の子に変態さんって言われるのはきつすぎる!
「ち、違わないけど違うんだ!」
「どういうこと?」
「別に俺はメイド服が特別好きなわけじゃなくて————」
「でも、好きなんでしょ?」
「す、好きだけど———————」
「私がおしとやかにスカートの端を摘まみながら、『おかえりなさいませ。ご主人様』っていう妄想をみんなにオススメするぐらいには好きなんでしょ?」
「…………」
俺は鈴になにも言えなくなってしまった。
あぁ……俺の初恋はこんなことで終わってしまうのか。
こんなことになるなら、投票なんてしなければよかった……。
俺は絶望し、悲しさから涙が出そうになる。
そんな俺を見て、鈴は慌て始めた。
「ご、ごめんごめん! 少しいじりすぎちゃったね! 大丈夫! 大丈夫だよ! 男の子たちがそういうのに興味があるのは分かってるから!」
「でも、気持ち悪いって思ったでしょ?」
「それは少し思ったけどさ、女の子が男性アイドルに、あるシュチュエーションで口説かれたいって妄想するのと同じぐらいだから、普通のことだよ! 大丈夫だよ!」
「そ、そうなの?」
なら、なんであの時、鈴は顔を真っ赤にさせながら俺のことを変態って言ったんだろう?
「た、ただ私のメイド服を妄想して、他の男の子達にも妄想させようとしたり、たくさんの男の子が私のメイド服を妄想しているのが恥ずかしくなっちゃって……」
「あ、そういうことね」
それなら確かに恥ずかしいな。
「あと、春名君が私のメイド服を妄想して、熱く語っているのが嬉し恥ずかしいというか……」
「……うん?」
聞き間違いじゃなければ、今、鈴は嬉し恥ずかしいって言ったよな?
「あ、あぁぁぁぁ~~! なんでもないなんでも!! とにかく、そんなに私は怒ってないから! ちょっと恥ずかしかっただけだから、もう大丈夫だよ!」
「そ、そうなの?」
「そうなんだよ!!!」
俺は鈴の鬼気迫る勢いに負けて、この話題をもう出さないことにした。
そして、俺達はこの後、少しだけ公園で話をしてそれぞれ家へ帰っていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます