第17話 同じ塾で隣の席の女の子と、相合傘をすることになりました。

「あっちゃ~雨降ってるよ最悪……」


 学校の玄関から見えたのは、雨に降られて生き生きしている花や、濡れている先生たちの車だった。


 朝は晴れていた空も今は見る影もないぐらいの曇り空だ。


 今日の天気予報では降水確率低かったはずなのについてないな。


 学校に置き傘置いてないし、カバンの中に折り畳み傘も入っていない。


 今日はこのまま濡れながら帰るしかないのか。……いや、ちょっと待てよ?


「塾に傘置いてた気がする……」


 確か前持って帰るのを忘れててそのままだったはずだ。


 どうせ塾は帰り道にあるし、ダメ元で塾に寄ってみるか。


 俺はカバンを頭の上に置き、塾まで全力で走る。


 靴が濡れて足に嫌な感触がドンドン伝わっていく。


 うわっ……帰ったら速攻で靴下脱がないと母さんに怒られるな。


 靴もびしょびしょだから明日までに乾くのかな?


 俺はそんなことを思いながら走り、塾へと入った。


 濡れている俺を見た塾長と北山先生は大丈夫?と声を掛けてきてくれて、タオルを貸してくれた。


 俺は受け取ったタオルでカバンや顔を拭いていく。 しっかり乾いたタオルで拭くと、少しだけ気持ちが楽になったような気がした。


 あ、これ持って帰ってしっかり洗濯しないといけないな。


「春名くん。 今日は自習に来たの?」


「違うんですよ北山先生。 塾に傘ないか確認しにきたんっすよ」


 俺は傘立てから自分の傘がないか探す。……おっあったあった。


「傘あったの?」


「ありました。 これでこれ以上濡れなくてすみそうです」


 俺は見つけた傘を北山先生に見せる。


 いやー良かった。 これで安心して帰ることができるよ。


 そんなことを思っていたら、後ろからドアが開く音と、松田さんの声が聞こえてきた。


「もうさいっあく!  濡れちゃったよ!」


 俺は松田さんの方に顔を向けたが、松田さんの姿を見てすぐに顔を背けた。


 雨で濡れて髪がいつもと違う松田さんにドキッとしたが、それ以上に俺はある部分に目が吸い込まれそうになった。


 ……松田さんって小動物みたいだと思ってたけど、出るところは出てるんだな。


 雨で制服が透けたり張り付いて、身体のラインがいつもよりはっきりと出ているから目に毒だ。


 ……正直、もっと見たい気持ちはあるけど、嫌われたくない、見ているのがバレたくないから松田さんの方を見ることができないや。


「あれ? 春名くんもここで雨宿り?」


 塾長からタオルを借りて、髪や体を拭いていた松田さんが、俺に気づき話しかけてくる。


「俺は置き傘ないかなって思って塾に来たんだ」


「そうなんだ。 私はちょっとここで雨宿りしようかなって思ったんだ」


 そう言いながら、松田さんは傘立てから傘を探し始めた。


「春名くんの話聞いて、もしかしたら私も置き傘してるかも!って思ったけど、やっぱりなかったよ」


 松田さんは手を頭の後ろにおいて苦笑いを浮かべる。


 松田さん傘ないんだったらこれからどうするんだろ? 雨宿りしているうちに雨が止むって感じではなさそうだけど。


 それに制服も充分には乾いてないはずだから気持ち悪いはずだ。


「どうするんだ松田? 帰れるのか? もしあれだったら塾の電話借りて親御さんに電話してもいいんだぞ」


 俺たちのやりとりを聞いていた塾長が心配そうに松田さんに聞く。


「今日お母さんもお父さんも仕事で遅いんです。 だから、電話しても迎えには来てもらえないと思います……」


 松田さんは眉間に皺を寄せてムムムッと悩んでいた。


 それを見た塾長は顎の下に手を置いて悩み始める。


 そして、周りを見始めたと思ったら俺で視線を止めた。


 いや、正確には俺が持っている傘に視線を向けているな。


「そうだ春名。 どうせなら松田を一緒の傘に入れてあげなよ。 そしたら二人とも濡れずに帰れるじゃないか!」


 塾長の話を聞いて俺と松田さんはお互いに顔を見合わせる。


 1つの傘に男女が一緒に入るってことは相合傘ってことじゃないか!


「えっとごめんね春名くん。 申し訳ないんだけど、傘に入れてくれると嬉しいな……」


 松田さんは申し訳なさと、異性の傘に入るのが照れくさいのか、少し赤い顔を俯かせながらお願いする。


 それを聞いて俺はこう返すのだった。


「はいっっっっ! 喜んでっっっっ!!」




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