暗闇で寄り添う影、二人

みなづきあまね

暗闇で寄り添う影、二人

時計を見た。絶望。20時を回っていた。部屋には私を除くと3人しか残っていないし、彼らはもう帰る準備をしていた。


女性の先輩が私を心配そうに見て、


「どうしたの?まだ帰らないの?」と心配してくれた。


「あと15分くらいで帰れそうではあるんですけどね・・・どうしても今日中にやらないといけないことがあって。」

「へー、らしくないねえ。いつもささっとやるべきことやって帰るのに。」

「今年は仕事がやってもやっても終わらなくて。帰りたいです・・・。」


私は疲労で痙攣してきた目元をマッサージしながらうなだれた。先輩の横にいた同期の男性が、


「あれ、宿直担当だっけ?夜泊まるの怖いですよ~」とちゃかしてきた。そもそも私たち社員にはそんな担当はない!


「絶対嫌・・・なんか出そうだし。」私はきっと反論した。


「じゃあ帰るね~お疲れ様!」先輩が私に手を振った。

「皆帰っちゃうの!?一人は嫌だ~」私はがらんとした部屋に叫んだ。


するとドアを出るところで私をちゃかした男性がくるっと振り向き、


「いや、まだ彼が残ってますよ。」と、別の入り口を指さした。


私が振り返ると、別のフロアに行っていた様子の男性が部屋に戻ってきた。しかもそれは私が片思いをしている男性・・・状況一転、超ラッキー!


私は帰って行った3人に笑顔で挨拶をし、残りの作業に着手した。二人きりになってすぐ、彼がこちらへ歩いてきて、私の斜め前あたりで止まった。


「帰らないんですか?」

「あと10分くらいで・・・皆帰っちゃった。帰りたいです。」

「最近人に仕事ふっちゃってますよ。やらなくちゃいけないことは沢山あって、あれもこれもやってないけど・・・。」

「ふりたいのは山々なんですけど、申し訳なくてできないんですよね。」

「まあ、確かに。」

「最後全部電気消していくの嫌だな・・・」

「10分くらいなら待ちますよ。」

「え、それは申し訳ないです!先帰っててください。」


彼の急な申し出に、心とは裏腹な言葉を思わずかけてしまった。絶対待っていて欲しい・・・。


彼は私の後ろのキャビネットに寄り掛かると、私の仕事の様子を眺めていた。

ドキドキしつつも私はやるべきことを終えた。


私が帰り支度をしている時に、彼は自分のデスクに戻り、座ってスマホをいじっていた。それを遠目から眺めていたが、最近思うことがある。


・・・前より一段とかっこよくなった?


万人受けするいわゆる「イケメン」ではないのだけれど、私は男らしい感じが好きで彼の外見はもともと好みではあった。けれどここ最近、より一層色気というか、かっこよさが増している気がしてならない。私のひいき目かもしれないけど。


「終わりました。お先に失礼します。」


私は冗談で彼を置いてきぼりにしてドアへ向かった。


「えー、酷くないですか?」


彼は笑って急いでリュックを背負うと、私に続いた。お互い別の方向に歩き、部屋のそれぞれの隅にある電気を切った。真っ暗になった部屋の向こうから、彼が歩き、私が歩み寄り、二人は真ん中のドアの前で一緒になった。そしてドアを閉め、薄暗い廊下に出た。


すぐ手がつなげる、すぐ抱きしめられる。そんな距離と雰囲気だけれど、まだそんな展開になるような関係でもないし・・・。


翌日、何度もこのことを思い出していた。考え直せば、あの時私の仕事を待っていた彼が私の真後ろのキャビネットに寄り掛かっていた時、彼に近づいてみれば何かあったのかも・・・とか、色々思ってしまったが、高望みなんだろうな、とも思った。


あんなチャンス、二度とないかも。だけどもう1回同じような体験ができるなら、恐ろしい残業もたまにはいいかも、なんて思ってしまう。

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暗闇で寄り添う影、二人 みなづきあまね @soranomame

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