君と過ごした最後の3日
なのか はる
あと3日
「僕、あと3日で死ぬんだよね」
放課後の教室で、俺の親友
「は? 何の話?」
「だから、僕があと3日で死ぬって話」
琥珀が何食わぬ顔で答える。琥珀が? あと3日で死ぬ? 俺は反論する気にもなれず、露骨に眉をしかめる。
「うーわ、絶対信じてないでしょ」
放課後の教室には夕日が差し込み、ムッとふくれる琥珀を照らす。
「こんな分かりやすい嘘信じるバカいる?」
「いや、よく考えてみてよ……僕が
琥珀はチワワみたいな顔をしていたが、アホほどあるだろ、と俺は冷静にツッコみを入れた。そう、この男【前原琥珀】は委員長であるにもかかわらず、
委員会の日は毎週休む。朝は寝坊して学校来ない。数学はサボる。理科は寝る……
それなのに、顔がちょっとカッコいいからって女子には人気で、先生たちさえも『早退しま〜す』なんて琥珀かまふざけて言っても、キャッキャと笑いながら黙認している。本当にこの世はつくづくイケメンに甘い。
そんなことを考えていると、なんだか無性に腹が立ってきて、俺は琥珀が飲もうとしていたジュースを奪い取って、一気に飲み干した。
「あぁー! 僕の人生最後のリンゴジュース……」
琥珀が名残惜しそうに空のペットボトルを見つめる。
「その“あと3日で死ぬ設定”まだ続いてんの?」
「だから本当に死ぬんだって……」
2人しかいない教室に琥珀の声が響く。
「本当に?」
「うん」
「ガチで?」
「うん」
いつになく琥珀が真剣に頷く。
「じゃあ、仮にあと3日で死ぬのが本当だとして、何で今のお前にそんなことが分かるんだよ」
極々正論をぶつけると、琥珀は待ってましたとばかりにニヤリと笑い、事の経緯を話し始めた。
◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎
「えっーと、つまりお前は人が死ぬの日数が[あと3日]から見える体質で、今日鏡越しに自分を見たらそのカウントダウンが表示されているのが見えた……っていうことか?」
「うん、そーゆーこと!」
琥珀がキメ顔でグーサインを出す。
死ぬまでの日数が見える体質?
カウントダウンが表示される?
「うーわ、高2で厨二病のやつ初めて見た……」
俺がため息をつくと、琥珀はバシっと机を叩く。
「いや、本当なんだって〜! こればっかりは証明できないんだけど、なんか頭の上にピッて数字が表示されるんだよ!」
琥珀が身ぶり手振りで、必死に伝える。
「そろそろ精神科行ったほうがいいんじゃねーか?」
俺は呆れた風に肩をすぼめる。
「冷たい男だなぁ! まぁ信じてくれなくてもいいんだけど、協力して欲しいことがあってさー?」
「ん?なんだよ」
「実は死ぬまでにやりたいことがあって、それを叶える手伝いをしてほしい。もちろん! ただとは言わない……。もし、あと3日手伝ってくれたら、湊人が欲しがってたswitchを! プレゼントします!」
琥珀がイェーイと拍手を送る。switch ――それは発売当初から今に至るまで、俺がずっと欲しかったゲーム機だ。
「え……本当に……いいのか……?」
「もちろん! ちゃんと手伝ってくれればね?」
そう言って琥珀はドヤ顔でウインクをかます。
「うわー、まじか! やる」
そう言って俺は琥珀と握手を交わす。ここ最近はずっとswitchのためにアルバイトをしてて、ようやく半分の金額が貯まったとこだったのだ。
「じゃあ、さっそく、死ぬまでにやりたいこと発表していい?」
「おう、もちろん」
俺はしっかり頷いた。しかし、次の瞬間、俺はこの行動を後悔することになる。
「では、死ぬまでにやりたいことその1〜! 彼氏を作る! だから、湊人!
僕と付き合ってくれない?」
琥珀が少年のように無邪気に微笑む。
ん? 付き……合う……?
ハァァァァァァァァ!?!?!?!
◾︎ ◽︎ ◾︎ ◽︎
俺と琥珀が……付き合う!?
「は?」
思わず俺は、脊髄で声を発した。しかし、琥珀の表情を見た瞬間、まずった、と脳がフル回転しだす。
「あ、違う! は? じゃない! 今のは言い方悪かった。は? じゃないから、いやちょっと、もう1回ゆっくり言って」
「だから僕の彼氏になってくれない?」
すっかり人の居なくなった教室に、琥珀の声が響く。
彼氏……彼氏……彼氏……。
…………。
『ごめん、それはちょっと』と出かかった言葉をすんでのところで止める。
「あぁー、考えさせてくれ」
俺は半ば放心状態で鞄を持って教室を出た。
彼氏……かれし……カレシ……。
ゲシュタルト崩壊が始まる。
……うん、明日の朝考えよう!
俺は早々に思考を放棄して足早に家に帰った。
【
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