第3話 交差点

朝から降り始めた雨 夜になっても降り続き

傘をさして歩く二人の距離は自然と遠く

言葉もなくした 帰りの道は

車のライトが雨を照らして

幻想と喧騒のはざま


人の流れにのれないままで

追い越され

進みたいのか進みたくないのか

一歩が重くて進まない


どうして


もっと早く出逢えなかったのか


運命とは何だろう


赤信号で止まった流れ

人の群れ 私たち 最後尾


貴方は傘を閉じ

私の傘の中

一つの傘で

濡れないように

身を寄せた


傘の柄握る私の手の上

そっと重ねた貴方の冷えた手

次第に強く強く握られ

理解する

想いは同じ


帰りたくない

言えない私


帰らないでと

言えない貴方


重なった手は

私の腕へ肩へ頬へと移り

乱れた髪を耳にかけ

ピアスを揺らし


再び頬へ

震えてる?


指先から感じる振動



また流れ始めた

人の群れから取り残されて


止まったままで


青信号 


ドンッ


と通行人が私の背を押し

勢いのままに貴方の胸へ


一瞬離れた貴方のその手

背中へと回されて

広げて支える


大きなその手は


今この瞬間だけ私のものかな


片手だけ

私を包む


もう片方には

畳まれた傘


それを手放す事はしないよね


今二人を守る私の傘も


手放して雨に濡れたりしないしね


ズルいよね


二人で一緒に傘を手放せば


二人で一緒に抱き合えるのに


濡れない選択してる私たち




傘を伝って落ちる大きな雨粒

ポタリ ポタリ

また ポタリ

雫が落ちるその先を

見つめるだけの

私の視界


その奥で


貴方は傘を



手放した



見つめる私の顔をなぞって

私より頭一つ大きい貴方

傘を手放したその手で

私の顔は上に向けられ



重なる感触

呼吸が止まる


苦しくて

開いた口から

貴方は割り込み

絡み合う

熱い

想いが


何故なのか

苦しさを増し

それ故に

求め合う


貴方が欲しい

傘の中 落ちた雫



信号がまた赤に変わった



帰したくない



聞こえた気がして





私は傘を




























 

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