スキル奪取
「よし。やるぜ」
ロドンは右手に剣を握り、左手に真っ黒な筒をいくつか抱える。
「点火したらすぐ投げてくださいね。火柱はすぐに大きくなるので」
「了解だ。任せとけ」話しながらも、ロドンは飛んできた矢を弾く。
「ひっ!」
仰け反るクレス。その肩を左腕で抱き寄せるロドン。
「大丈夫だ。オレがいる限り当てさせねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
クレスは闇の中で、わずかに顔を赤らめた。
「作戦はさっき言った通りだ。いけるか?」
「はい」そう言うと、クレスは小さくジャンプし箒に乗った。息を小さく吐くと、顔つきが別人のように変わる。
いつ見ても見事なもんだなぁ、とロドンは思いつつ後ろへ座る。
「よし。出してくれ」
「了解ですっ!」
箒に乗った魔女と同乗人は森を右手に見据え、疾風のごとき速さで空を切り裂く。
ひゅう、と音を立て矢が飛来する。
「オラァァッッ!!」ロドンが撃ち落とす。草原の上に火の付いた筒を落とした。
筒は着地すると倒れ、そのまま小さな爆発音と共に黄色い火柱を噴射する。火は草原に燃え移り、光の線を描く。
森の外周を飛びながら、矢を弾いては筒を置きを二度三度繰り返した。
「あー、腕痛ぇ」
ロドンは腕をブンブン振った。
「バテてきてませんか!?」
「まだまだァ!」
なおも飛来する矢を撃ち落とす。5つ目の筒が落とされた。
「よっしゃこの辺で十分だ!
「了解ですっ!」
箒の柄先が夜空に向き、クレスとロドンは上昇する。
「やるぞ」
ロドンは小さく呟いて、紐を投げ縄のように回転させる。先端には、液体の詰まった瓶が括り付けられている。特殊な薬品で満たされた、火炎瓶だ。
「【炎魔法】!」
クレスが叫ぶと、火炎瓶からわずかに飛び出す導火線に、小さな火が点った。
ロドンは、地面に置いた灯りの位置と矢が飛んできた方角から射手の位置を割り出す。
狙いを定めて、息を吸い込んだ。
「【発射】ッ!!」
ロドンが投げた火炎瓶は赤い尾を引きながら、暗い森の中心付近へと高速で流れ落ちていく。
森の中心で小さな火柱が上がった。炎はまたたく間に燃え広がり、小さな森は巨大な焚き火と化した。
「……やりすぎじゃねぇ?」
「調合を間違えたかもしれません……」
クレスは青い液体の詰まった瓶を森の中へ投げた。心なしか、炎の勢いが弱まっていく気がする。
「……お?」
ロドンは、いくつかの人影が森から逃げていくのを捕捉した。
「クレス。あそこへ降りてくれ」
「はい!」
箒は、ロドンの指差した方へ急降下した。
◆
5人ほどの集団が、草原を駆け抜けていく。その進行方向を遮るように、ロドンとクレスは着地した。
「俺たちを撃ったのは誰だ?」
5人のうち、一人の女が弱々しく手を上げた。
「女か。それに弱そうなナリだな」
「じゃあ、これ飲んでください」
クレスが、鞄から瓶を取り出した。緑色の液体が詰まっている。
「ひっ」
女は怯えたような顔を見せた。
「あ、苦いですけど……お腹壊したりとかはしないですから!」
クレスは、瓶を手渡した。
女は恐る恐る、緑の薬品を口にする。
「うう……苦い……なにこれ……」
「自白ざ……じゃなかった」
クレスが、頭をブンブンと横に振る。
「ええと、あなたのスキルはなんですか?」
「スキルなんて……持ってないよ……転生者じゃないんだし……」
あまりの苦味に、女の顔はしわくちゃになっている。
「あれぇ?」
クレスが首を傾げた。
「じゃ、じゃあ、矢を射ったのは!?」
「矢ぁ……?何の話……?」
要領を得ない尋問に、クレスは困惑する。
「おい、コイツ
ロドンは、女のポケットから紙を引き抜いた。『クナルト商会』と記されており、下には何やら品物の名前が並んでいた。女性はどうやら商人のようだ。
「……え、貴女じゃないんですか!?」
「はい……何かあったらボスのふりをしろって……この人たちに脅されてたんです……」
女は涙をボロボロと流す。
「まず真っ先に、これを訊くべきだったな……」
ロドンは頭を掻く。
「じゃ、やったのは誰なんだ?」
ロドンは、四人の男たちの顔を順番に見定める。
「なあ、クレス」
「何でしょうか?」
「スキルを奪うときは、具体的にどうするんだっけなぁ?」
クレスは三本の指を立てた。
「3つあります。一つ、神殿で儀式をする。でもこれは渡す側の同意が必要です。次に、スキルを奪えるスキルを使う。私たちには関係ありませんね。そして……」
「そして?」
小さな魔女はニヤリと笑う。
「ブッ倒す、ですね」
「そうか。わかりやすくて助かるぜ」
ロドンは、盗賊たちを見据えた。
「こいつら全員、ブッ倒せばいいんだな」
「へっ、一人で何ができる!」
男たちは懐から短刀を取り出すと、ロドンへ襲いかかった。
ロドンは手の甲を下にして、拳を正面へ突き出した。
開かれた手には、数個の石ころが載っている。
「【発射】」
ロドンが呟いた。石ころはそれぞれ男たちの眉間めがけてぶち当たる。男たちは皆一様に、白目を剥いて仰向けに倒れた。
「これでいいか?」
ロドンは振り返り、不敵に笑う。クレスが親指を立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます