過去に生きる

にこ

今と過去そして未来

「僕らで全てを過去にしよう」


 僕は彼女の手を握った。


「それってとてもつらいことじゃない?」


 あいつが死んでから3年が経つ。


「思い出を食い潰して生きていくにはもう2人とも限界だよ」


 僕らが付き合い始めてからもうすぐで1年経つ。


「そうね。でも、もう無理よ」


 僕らを淡く照らしていた月が雲に隠れる。


「そうかもしれない」


 雨上がりの独特の匂いがする。


「もう私は彼の居ない今を生きられないわ」


 彼女が僕の手を握る力を強める。


「僕も同じ気持ちだよ」


 僕らは心にあいた穴を見るように綺麗すぎる夜景を見つめている。


「私のせいであなたもダメになった」


 僕らはあれ以来同じ大きさの穴を抱えている。


「君のせいじゃないよ」


 僕らは抱えている同じ穴を塞ごうと寄り添ってきた。


「私があなたをまだここに引き留めている」


 僕らが寄り添えば寄り添うほど抱える穴は大きく、深くなっていった。


「僕が決めたことだよ」


 彼女はフェンスに手をかけてそこから見える景色を懐かしんでいる。


「前に一度3人でこの屋上に景色を見に来たよね。あの時はもっと明るかったけど」


 僕も彼女の隣に行き景色を眺める。


「あの時は昼間だったからね」


 空はいつの間にか厚い雲におおわれて光を失っている。


「欠けた翼じゃ、この穴を飛び越えられない」


 彼女が僕の方を向いて言う。僕は初めて彼女の目を見た気がする。


「そうだね。きっとあいつがいたら飛び越えられた」


 彼女の目は悲しいほど美しい。


「私たちはもう落ちることしか出来ないわ」


 フェンスを乗り越える。


「僕らの全てを過去にしよう」


 僕らは暗い世界に背を向け、穏やかに光る穴に落ちていく。






       



      

       




       私

       ね


       あ

       な

       た

       に

       感

       謝

       し

       て

       る

       の


       ほ

       ん 

       と

       よ




            僕

            も

            だ

            よ


            君

            が

            そ

            ば

            に

            い

            て

            く

            れ

            て

            良

            か

            っ

            た



       嬉

       し

       い

       わ


       そ

       う

       言

       っ

       て

       も

       ら

       っ

       て




            い

            つ

            ま

            で

            も

            一

            緒

            に

            い

            よ

            う

            三

            人

            で




       う

       ん


       い

       つ

       ま

       で

       も

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過去に生きる にこ @2niko5

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