Guitar
――
最後に聞き取りに召還された高井は、無言のままソファに座ると、じろりと紗綾と警部を見て、肩を落とした。
「誰がやったんですか、昭代を……」
そう吐き捨てるように言うと、溜息をついてテーブルに手を置いた。
「高井さん。それについては今ちょうど調べているところですから。ここは一つ、事件を早く解決するためにもお話を聞かせてください」
警部がそう言うと、高井は頭をもたげて、力無く頷いた。なるほど、消沈しているが普段はなかなかの好男子かもしれない。山田が昭代をあきらめるのも、この男が相手なら納得がいくかもしれない。
「まず、三条さんとはいつ頃からお付き合いを?」
「大学一年の夏。俺から告白したよ。一回ライブで一緒になって一目惚れさ」
高井の返答も簡潔であった。疲れたように言葉を並べては溜息をついた。
「三条さん、今お仕事何をしているかご存じないですか?」
高井は机の上に置いた手で、指でトントンとリズムを刻み始めた。その瞳は遠くを見ているようで、どこにも焦点を持っていないように見えた。
「それは……わからない。俺はバイトをしながら音楽やってる。でもあいつはそういう様子はなかった。呼べばいつでも会ってくれた。仕事の話もしてこなかった。ひょっとして働いてないんじゃないか?」
「ご存じないと」
「ああ」
「三条さんにお姉さんがいるということはご存じでしたか?」
警部のこの質問に、高井は顔を上げると、首を横に振った。
「さっき、津野と大平から聞きましたよ。初耳だったけど、まあ納得がいきますね。あいつは言われてみれば仕草が年下、妹っぽかった。そこがかわいかったんです。俺は一人っ子ですから、妹って存在にあこがれてた。その雰囲気に惹かれたんですよ。だから、二人に言われて、ああ、なるほどと。ようやく納得がいきましたよ。もっと早く知っていたら何か違ったかもしれませんけどね」
「このバンドの結成は、三条さんが?」
「いや、それは俺からです。俺のせいで前のバンドが解散しちゃって、何もすることが無くなって。あいつも寂しそうだったから。やっぱりバンドやろうって言ったんですよ」
高井はそこで大きく溜息をつくと、両足でリズムを取るようにタンタンと床を叩いた。リズムを取っていないと落ち着いていられないのだろう。
「紗綾ちゃん、何かあるかな」
警部に聞かれて、紗綾はヒョイと居住まいを正した。
「高井さん、一つ伺ってもいいですか?」
「こちらは?」
「今回事件の捜査に協力してもらっている方です。何でも正直に答えてあげてください」
「そうですか……、それで、俺に聞きたいことは?」
紗綾はにっこり笑うと、頭を下げた。でもその眼は笑っていない。
「高井さん、何か「青い薔薇」っていうキーワードが入っている曲とか詞とか、このバンドにありませんか?」
青い薔薇、あの死体の上に乗っていた花である。確かに青い薔薇というのは歌詞や曲になりうるかもしれない。しかし、高井の返答はあまり芳しくなかった。
「青い薔薇ですか……。いやぁ、知らないですね。うちのバンドは、あまりそういう方向性じゃないというか、青い薔薇ってなんかヴィジュアル系のバンドでありそうなタイトルじゃないですか。そういうのは無かったと思います」
「このバンドの作詞って誰が担当しているんです?」
「それは昭代です。やっぱり、作詞した人の考えと歌う人の考えが一致した方が聴いていていい曲になることが多い。それに昭代は文才もありましたから。でも、あと津野も作詞はうまいです。山田は詩人みたいだけど、どうもバンドにあわなくて……」
そう言うと高井は笑って見せた。とってつけたような、ひきつった笑いである。
「何か参考になりましたか?」
「ええ、まあ、それなりに」
「そうですか。早く解決できるといいですね」
それは皮肉にさえ聞こえたが、紗綾は気にしていないのかにこにこと笑っている。警部は紗綾がこの質問をなぜしたのかがわからなかったが、紗綾の横顔は既に何かを得たようであった。
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