第28話 空の誕生日いつだっけ?ふーん。わたしはこの日が誕生日なんだー。あー、もうすぐだねー。

 片づけをして、遥と三人で学校をでた。

「あんなに大騒ぎしてうまくいかないとは」

「本当だねー。人生は思い通りにならないね」

 わたしは大きくため息をつく。

「大げさだな」

「だって、美術展にだすやつだよー?うまくいってほしいよー」

「そういやそれって、美術部の大会みたいなものか?」

 空が美術展に食いついて、遥との会話にはいってきた。いままで散々美術展の話をしていたのに。いまさら感はぬぐえない。

「そんな感じかな。予選みたいのがあって、そのあと本選って感じ。美術展に出す方は、作ったらあとは手続きだけなんだけどね」

「本選で優勝とか決まるのか?」

「まず、予選で選ばれると、入選っていって、展示されるでしょ?で、さらに本選で選ばれれば、入賞になるんだよ。ランク付けだけど、金が優勝みたいなものかな」

「そうなのか。本選にでるのはむづかしいのか?」

「それなりにね。美術部が盛んな学校は、何人も選ばれたりするみたいだけど。あと、個人のほかに団体でもだせるんだよ」

「ふーん。団体もだすのか?」

「遥は個人プレイが好きだから個人だけでだすんだ」

「個人プレイね。ケンカにならなくていいな」

「ケンカしないよー」

「そうか?ならいいけど」

「茜とじゃ、ケンカにならない」

「ちょっとぉ、それどういう意味ー?」

「茜は子供だから」

「むきー。わたしのすっごい作品で遥をぶちのめす」

「よし、ガンバレ」

「あ」

「どうした、茜。頭痛いのか?」

「んーん。わたし思いついちゃった。いい方法。でも、うまくいくかな。ちょっと不安」

「そうか。絵の具が広がらない問題解決の糸口がつかめたんだな?」

「うん。かもしれない。準備ができたらまた空に頼むね」

「おう」

 本格的な夏が近づいている気配。わくわくするような夏になるといいな。


 今日は朝から楽しみにしていることがある。わたしの誕生日なのだ。小学校の頃は友達を招待してパーティーなんてやったけど、中学に入ってからはみんな部活があるし、誕生日でパーティーなんて子供っぽいとクールにキメているから、イベントはない。それでも、プレゼントをくれる子はいる。わたしだって、友達の誕生日にプレゼントくらい用意するようにしている。

 最近は空とまた仲良くしているから、空からプレゼントをもらえるはずだ。わたしは大いに期待している。実は、それとなく今日が誕生日であるというアピールをしていたのだ。プレゼントが用意できるように、前の週から。部活を引退しても忙しい空にやさしいわたし。

 朝、空が登校してきて、わたしの席にやってきた。

「おっす、茜」

「おはようございます」

「なんだ、かしこまって」

「まあね」

「今日誕生日だからか?」

「空、覚えてたの?」

「最近ずっとアピールしてただろ」

「てへ、バレてた?」

「隠すつもりがあったのか?」

 空の誕生日いつだっけ?ふーん。わたしはこの日が誕生日なんだー。あー、もうすぐだねー。って感じでうまくアピールできていると思ったんだけど。バレていたらしい。勘がいいやつ。

「まあ、なんだ。プレゼントを用意したから。茜の部活が終わるころに美術部にもっていくよ」

「えー、ホントー?うれしー。じゃあ、美術室で待ってるね?」

 待ってましたという気持ちを抑えて、ごく自然な対応をした。斜め後ろを振り返ると、前を向いていた美月がこちらに顔を向けた。やっぱり無言。誕生日おめでとうの言葉がもらえるかなと、ちょっとだけ期待していた。にこっとして、前に向き直る。

 いつものことだけど、一日をぼーっとして過ごした。受験生なんだから、こんなことではいけないとはわかっている。けど、やっぱり今日は特別な日だから、明日からちゃんとしようと思ってしまうのだ。わたしの中の悪魔は悪魔界で幹部クラスの実力があるに違いない。


 美術室で遥に、それとなく催促する。

「誕生日のプレゼントってさー、もらうのもうれしいけど、渡すのもけっこううれしいものだよね」

「そう?わからない」

 まったく共感する能力をもちあわせていないようだ。いつもながら遥は強敵。

「遥は、友達の誕生日プレゼントにどんなものあげたことある?」

「ない」

「あげたことないの?」

「うん。友達いないから」

 ぐっ、そうだった。遥は常々友達はいないといっているのだった。あれ?去年はどうしたんだっけ。遥にプレゼントもらわなかったっけ?というか、わたしは遥にプレゼント渡したっけ?

「ちなみに、遥の誕生日っていつだっけ」

「四月」

 しまった!遥の誕生日は四月のはじめで、始業式の前後くらいにやってくるんだった。忘れていた。わたしは遥に誕生日のプレゼントを渡していなかった。

 がーん。なんたる不覚。かくなる上は、この腹かっさばいてお詫びせねばなるまい。

「遥、こんどの土曜日、帰りにワッフルをおごらせて」

「どうしたの?宝くじでもあたった?」

「宝くじが当たってワッフルって、ケチくさいね、わたし」

「宝くじの当選金にもいろいろあるから」

「そう。そうじゃなくて、なんというか、お詫び?」

「なんの?」

「遥の誕生日を華麗にスルーしてしまったお詫び」

「気にしなくていいよ、ずっとだし。みんなそうだし」

「いいえ、わたしの気が済まないから。ぜひ、おごらせてください」

 ひとの誕生日忘れておいて、自分は祝ってもらおうなんて考えていた自分が許せない。

「そう。じゃあ、見返りに誕生日プレゼントをあげなきゃね」

 遥は誕生日を覚えていてくれた。まあ、忘れているといけないからアピールはしていたけど。いまも催促をしていたわけだけど。

 遥はスケッチブックの新しいページをだした。いろんな色の絵の具といっぱいの筆を用意して、なにやらスケッチブック上にポチポチと点を描いてゆく。どんどんカラフルになってゆく。わたしは首を傾けてなにを描いているのかなーと想像する。

「はい。誕生日おめでそう」

 遥の署名がはいって完成した絵をスケッチブックからはがして、わたしにくれる。

「おー。カラフルだし、かわいいね」

 遥は点の色の使い分けで、ハッピーバースデーと英語で描いて、その下に西暦、茜をいれてくれた。スーラの点描のようだ。

「遥ー、ありがとう。ワッフルにはアイスもつけるね」

「ちょいと描いただけのものを、そんなによろこばれると、罪悪感がある」

「そんなことないよ。わたしのために考えて描いてくれたんだから」

「そう」

「次の遥の誕生日、きっとなにかビッグなプレゼントをするよ」

「いいよ、そんなの」

「んーん、ダメ。もう決めたの」

「そうですか」

 遥のプレゼントを乾かしながら眺めて過ごす。わたしは、ケータイのカレンダーに遥の誕生日の予定をいれた。

「茜、作品はいいの?」

「ああ、作品ね。この間はいいアイデアだと思ったけど、今はもっといいアイデアないかなーと思ってるんだ」

「そう」

「ちょっとねー、サッカーの部分が弱いんだよね。もっといい考えが浮かばなかったらって感じかな」

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