4話
検査後に豪華な部屋に案内され、目の前には高級そうな紅茶と、ケーキまで用意されてしまった。固まるしかない。紅茶を一気飲みした。美味しい!村でこんなに香りのよい紅茶飲んだことない!戻したカップがかちゃん、と音を立てた。お腹も空いたし、折角だからケーキを頂こう。こんな状況でなければもっと美味しく味わえたんだろうな。ふわふわのホイップクリームに包まれたケーキの中に入っている苺、甘酸っぱくて美味しい。
レイノルド・エンファスト ファスト王国第二王子。
彼の事を知らない国民がいるだろうか。レイノルド様はこの国の英雄的存在だ。今から二年前、この街に大量の魔物達が押し寄せた。原因は不明。明かされてはいない。しかしそんな時たった十五歳で指揮を取り、被害も最小限に抑え見事打倒したのだ。死人は、でなかったと聞く。噂に尾ひれがついているとは思うけど、一人勇ましく魔物達を蹴散らしたそうだ。
武術、魔力もSランクでおまけに学問も優秀。まさに完璧で私の人生では一生関わることはない筈の人間だ。
そんな人が、私の運命の相手?
夢ではないだろうか。騙されているのでは。物思いにふけっていると扉が開き、職員の女性が一人入室してきた。
「大変お待たせ致しました。本日はお帰りになって結構です。明日、再び来訪して頂きたいのですが宜しいでしょうか」
「……大丈夫です」
「大切なお話がございますので必ず来てください」
「わかりました」
待たされたのに、結局帰されるのね。でも今はその方が私も一人で色々と考えられる。
「あの、すみません…私のお相手って、何かの手違いってことは…」
「それはあり得ません。パトナ適正検査に間違いはございません」
はっきりと言い切られてしまった。
「本日は宿にお泊り予定でしょうか?まだでしたらこちらで手配致しましょう」
「い、いえ、親戚の家を頼るので大丈夫です!」
「承知致しました。ですがお一人でこの街を歩かせる訳にも行きません。護衛の者を連れて参りますので」
「ご、護衛!?そんな必要ありません!」
私は両手を小さく左右に振った。
「いいえ、貴女様に何かあったら私達は─」
「だったら俺が付いていくぜ」
室内に、男性の声が響いた。銀髪に淡い緑色の瞳を持った若い青年。私は驚きのあまり瞼を数回瞬かせると彼の名を呼んだ。
「レイ……?」
「久しぶりだな。こんなところで会えるとは思っていなかったぞ!」
青年は、レイは私の前まで歩いてくると、にっこりと笑った。
「ど、どうして、貴方がこんなところに!?」
「まあ募る話は後だ。それに俺なら問題ないだろ?」
職員の女性は何か言いたげな視線をレイに向けていたが、言葉を飲み込んだように見えた。
「…はい、よろしくお願い致します」
「よし、街を案内してやるよ、ほら、行こうぜ」
「え、あ、ちょ、ちょっと!、す、すみません失礼します!」
レイは私の手を掴み、部屋の外へと連れ出してくれた。
「ちょっと待って!ねえ!」
「とりあえず外行こうぜ」
レイの掌にしっかりと包まれた私の右手。男の子の大きな手に、とくんと小さく胸が高鳴って、意識した。
王立研究所を出て少し道なりに街を歩いたところで、レイは私に話しかけてきた。
「訊きたい事ありまくりな顔してんな」
「当たり前よ!だってこんなこと!夢見たいなことが現実に起きるなんて!」
興奮気味に話した私にレイは少し驚いたようで、私も少し恥ずかしくなって、口を閉じた。彼の名前はレイ。レイ・テトラー。同じ村の出身で私の幼馴染だ。数年前、王都へ引っ越してしまった。
「俺も驚いたけどな」
「私だって本当に驚いた!とても嬉しい!貴方とは…村で別れたあの日以来だったから、手紙だって出したのに返事くれなかったし」
レイは困ったように笑った。
「悪かったよ。十二歳の時こっちに来てから俺も色々と忙しかったんだ」
身長だって昔は同じくらいの背丈だったのに、今は彼の方が高い。大人の男性だ。服装は全身黒を基調としたもので、左の腰には剣まで装備している。銀髪がより、綺麗に見える。
「おじさんやおばさんは元気?」
「元気元気!すげー元気!パワー有り余ってんじゃねーかってくらいにな。今は別々に暮らしてるけど」
「そっか。護衛…研究所で警備員のお仕事をしているの?」
「いや、たまたま日雇いの仕事を請け負ったらお前と会ったんだよ。普段はあちこち別の街に行って旅をしながら魔物退治の依頼を受けたり、まあ色々だな」
「そうなんだ。なんだかレイらしい」
私は笑みを零した。昔から旅に出てみたいってよく言ってたことを思い出した。冒険ごっこ、していたっけ。今日は近くの川辺まで探検だって二人で行ったりして。懐かしい。
「お、やっと笑ったな」
「私、そんなに顔強張ってた?」
もう一度、私はレイに困ったように笑ってみせる。
「ああ。あそこにいる理由なんて一つしかねーだろ」
「…うん」
レイはそれ以上、何も言わなかった。
「よし、これから街を案内してやるよ!時間あるだろ」
「ええもちろん、お願いできるなら」
「任せとけよ、詳しいんだ俺」
でもこれって、デートだよね。幼馴染との再会は嬉しい。彼は気にしていないよね。と心の中で少しだけ残念に思いながら、私達は街へと繰り出した。
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