3話

「中にお入りください」

 案内人が部屋の扉を開くとこの空間だけ異質だった。カーテンは閉め切っていて薄暗い青い照明。小さな青い光がゆらゆらと揺れている。部屋の中心部には大きな魔法陣が書かれてあり、その魔法陣の前には人工的な人一人が通れるようなゲートが設置されていて、余計異質に感じた。

「大丈夫、何も怖くありません。そこのゲートを通過するだけです」

 導き手と呼ばれる検査専属の女性は優しく言った。ゲート。これ空港とかにあった金属探知機の、ようなものに似ている気がする。私は立ち度止まり、息を飲む。ここまで来てしまったんだ。腹を括らなければ。

「緊張しています?」

「す、少し」

 笑顔を作ろうとしたが、流石に無理があった。顔が強張っているのが自分でもわかる。導き手のお姉さんはにこりと笑った。

「大丈夫です、ゲートを通過したら魔法陣の真ん中に立っていてくださいね。声をかけるまでじっとしていて下さい。大丈夫、痛みも何もありませんし、すぐに終わりますよ」

 ちらりと導き手を横目で見て、真っすぐと歩みを進めた。ゲートを通過すると何も変化はない。ゲートから機械的な音がピピ、としただけだ。魔法陣の真ん中に立つと、淡い、青い光が私の周りに集まってきた。私は両目を瞑り、祈りのポーズをした。ぱんぱんと2回手を叩いてしまったのは前世が日本人だったこともあっての咄嗟の行動だったが視線を感じ、慌ててぎゅっと自分の手を握り直した。


 どうかせめて出来ればイケメンがいいけど、普通に生活できて欲を言うなら私を楽させてくれたりしたら嬉しんだけど、とにかく素敵な相手でありますように!


「はい、終わりました」

 ゆっくりと目を開くと魔法陣の光は、失われていた。結果は魔法陣の作成者である導き手のみに伝わるそうだ。どういう仕組みかは企業秘密でわからないけれど、便利な魔法。彼女は業務的に淡々とこなすのであろうと思っていたのだが、表情が一変した。驚きのものに。仕切りに何か、手元を確認している。導き手の女性ともう一人離れたところに待機していた男性がいたのだが、駆け寄り小声で話すと、男性は驚きの眼差しで私を見ると再び導き手と会話を始めた。何を話しているのか聞き取れなかったが、何か驚いているのは、わかる。ちょっと待って。もしかして犯罪者とかだった?それとももっと別の理由?不安は募るばかりだ。

「あ、あのー」

 私の声は届いてないようである。

「あ、あのー!!」

 もう一度大きな声で呼べば、二人は顔を見合わせて、私の前まで歩いてきた。

「リリライラ・ワーグナーさん、貴女の運命のお相手が判明致しました」

「は、はい」

 ぴん、と背筋を伸ばす。


「レイ・エンファスト、彼が君の相手です」


 名前を告げられたところで会うまでは全然実感が湧かないんだけど。ん?エンファスト?この国に住んでいて名前を知らぬものなどいるのだろうか。いやただの偶然ってことも…


「この国、ファスト王国第二王子であらせられます」


 ファスト王国第二王子。


「はい…?」


 私の運命の相手は、この国の王子様だった。

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