第15話 黒田総一郎
宮部:
「叔父さん!」
黒田:
「おお、誰かと思えば我が姪雅か。久しいな待っていたぞ」
宮部:
「え?待っていた?……私を、ですか?」
黒田:
「そうだ。黒田家の血を引いているのだから、どんな危機的状況に陥ろうとも
乗り越えられる筈だ。そして聡明なお前の事だ自ずと答えを探しに私を求め、 ここに来るだろうと推測した。しかしお前の様な高貴な出であるにも関わらず下賎の者と
つるみ、一人で来なかった事は落胆の評価を禁じ得ないな………」
チラッと山田達の方を見て、見下す様な視線を向ける。
その視線に気付いた山田達は黒田を睨み返す。
宮部:
「お、叔父さん。今回の事叔父さんは悪くないですよね?」
黒田:
「悪いと思う点は露程も見当たらんが?」
山田:
「じゃああなたは何の罪も無いと、そう言うんですか?」
黒田:
「罪?何故そんな事を感じなければならないのか、理解に苦しむな。
何をもって罪とする?」
落合:
「何をってとぼけんじゃねぇ! 外の惨状、研究所内の実験生物達、その他諸々全部あんたの仕業じゃないのか?!」
黒田:
「無論全て私がやった事だ、この日の革命の為に」
宮部:
「えっ………?」
山田:
「革命……。どこが………外の地獄を見てどこが革命なんですか?!
みんなあなたの革命ごっこの犠牲者なんですよ!」
黒田:
「革命に犠牲はつきものだ」
山田:
「だったらあなたが犠牲になれば良かったんだ!!」
黒田:
「私はもう犠牲を払ったぞ」
そこでハッとした。
黒田の後ろの培養液カプセルの中にいる、クイーン・ノーミンと目が合った。
赤い丸い目からは生気を感じられない、黒田の元実子。
「家族を犠牲に」と呟いて、改めてこの男の異常性を再確認した。
再確認して怒りが混み上がった。
落合:
「……そういえばあんたの奥さんに会ったよ。とんでもねぇ鬼嫁だ」
黒田:
「ほぅ、我が妻に会ったか。どうだった、美しかっただろう?」
落合:
「はぁ?美的センス狂ってんじゃねぇのか?あんな化け物を美しいって言うくらい
なら、ブスを褒め称えた方がマシだ!」
宮部:
「ブスの風評被害ですよ………。」
黒田:
「やれやれ、やはり凡俗には理解できんか。人としての進化は美しいというのに、
嘆かわしい」
山田:
「……結局あなたは何がしたかったんですか? この町を壊したかっただけですか?」
黒田:
「この町の破壊は進化の成長過程においての経緯に過ぎない、つまりは大いなる計画の一部分でしかない。 この日本に寄生虫の力が浸透すれば国としての武器となる、
その武器を使い次に世界を包括する」
落合:
「ケッ!結局世界征服かよ、悪の組織も真っ青な回りくどいやり方だぜ」
黒田:
「はぁ、これだから短絡的な思考を持つ単細胞生物は哀れだ」
落合:
「た、単細胞ぉ……。何、この………ッ!!」
怒りのまま黒田に襲いかかろうとした落合を、山田が手で制止させる。
落ち着いた声で再び黒田に向き合う。
山田:
「……じゃあ俺達の様な頭でも理解出来るように説明してくださいよ。世界征服でないのなら、世界を包括するってどういうことですか?」
黒田:
「そこの単細胞アメーバー質性ヒト科より、貴様の方がいくらか物わかりが良い
ようだな」
落合:
「ク、クソォ~………。 ど、どこまで僕を愚弄すれば………」
黒田:
「……世界は何故未だに本物の平和を、享受出来ないと思う?
それは人が愚かだからだ。愚かな人は醜く言い合い、争い戦争をし飢餓を起こす。
一部の政治家や警察は私腹を肥やし、人種の違いで諍い、性を乱し、他人や物に
依存し、殺し合い、そして何度もその歴史を繰り返す。人は学ばない地球の汚点だ。
人は何故そんなにも愚かだと思う?心がある故だからだ。心があるからこそ感情が
あり、主義主張をのたまい感情で動く。人は心に従って堕落する。そしてその堕落を正すには、次元上昇によって高次元の存在へと昇位する他ないのだ」
落合:
「……じげん、じょう……しょうい……しょうゆ………え?何て……?」
宮部:
「……つまり、さらなる高みへの進化……」
黒田:
「そう進化なのだ。堕落を正すには進化するしか道はない。寄生虫との変異変化で、感情の無い心の無い新たな進化した人類が誕生し、繁栄を極めるだろう。
差異無き同一個体となった人にもはや争いは無くなり、世界は包括されるという事だ。この私が寄生虫で世界に平和を成そうというのだよ。
しかし私とて計画が全て成功するとは思ってない、世界の規模に確証を得るには検証が必要だ。だから手始めにこの町から始めた。その次がこの国だ。その二つの成功を手にして初めて、世界に我が子達を放とう。」
黒田はただ冷ややかに淡々と言葉を発した。
山田はその言葉の意味をより深く考えようとした。
しかし考えるより前に憎しみと尊敬に近い感情が交じった声で言った。
山田:
「平和の為に心を無くし、人を捨てるくらいなら、平和なんか無くていい! 醜い感情を残して人とぶつかり合いながら、それでも人として生きてやるよ!!」
黒田:
「ならば愚者として死んでゆけ、愚か者」
宮部:
「や、やめてください叔父さん! こんなの、こんなの間違っています!」
黒田:
「まだ分からんのか?我が姪雅よ。私が演説をしたあの日お前と喧嘩をして、
何故ふて寝をしたのか忘れたのか?」
宮部:
「あれは………確か……」
黒田:
「学校のクラスの男共に酷い苛めを受け、泣いて私に相談をしただろう。
で、提案をした。『よければ私が皆殺しにしようか?』とな」
宮部:
「………非人道的だからそんな解決は駄目だ、って喧嘩をした………」
黒田:
「お前は優しすぎるのだ。人の人権を無視し虐める様な愚か者は、人権無く
殺されれば良い。それが世の中の為だ。だがお前はそれを良しとせず、
幾度も地獄を味わった。女として生まれるというリスク、男のステータスの為の
トロフィー的扱い、性差別、未だ終わらぬ男尊女卑。それらの地獄を私の手で、
無くそうというのだよ」
落合:
「え?何?激しい姪っ子萌え?」
宮部:
「叔父さん……」
山田:
「雅さん揺らいじゃ駄目です、気をしっかり!」
黒田:
「男女関係なく性差無き人の高みへ登るのだ。差異無き国に繁栄を!
既存する世界に破滅を!! 鳴らせよ雷鳴! 吹けよ強風!! 世々に轟け
私の覇道!!! 何者にもこの進化を妨げはしない! 束縛はされぬ!!」
その時だった。室内に強烈な光が注ぎ込んだかと思えば、轟音が轟いた。
窓の外を見た。天は曇天に支配され雷雨が、狩矢崎市を支配していた。
窓を打ち付ける激しい雨音。今にもガラスを割り、雨が入ってくるのではないかという勢いだ。
この男は天候すらも操るというのか。山田と落合は恐怖した。
「さぁさ足下をご覧、其処には何がある?」
人差し指で下を見ろとジェスチャーをして、宮部は足下を見る。
「其処には、己に害為した男共の死骸(しかばね)。 そのまま踏み歩け!
人の高みへと登る山は愚者共の死屍累々の山で出来ている煉獄山!!」
足下をずっと凝視したままの宮部。彼女には何か見えているのだろうか。
そんな宮部に黒田は片手を伸ばし話しかける。
「私はベアトリーチェ。煉獄山の頂上にてお前の手を引き、飛び立とう。
希望亡きこの地獄から、苛む事無き人の高みへ……。さぁ行こう、我が姪、雅よ」
虚ろな表情で顔を上げた宮部は、一歩、一歩と黒田の方へ歩き出す。
山田:
「み、雅さん!!」
落合:
「チッ………!」
山田はその場から一歩も動けず、手を伸ばして宮部の背中に語りかけ、落合は銃口を宮部の背中に向ける。緊迫の空気がその場を支配する。
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