第14話 クイーン・ノーミン

・KSコーポレーション中央研究所


1階直通エレベーター前


17:40


辺りを気にしながら階段を、駆け下りて1階に辿り着く。

エレベーター横のレリーフにメダルを埋め込んで行く。


山田:

「『汝一切の望みを棄てよ さすれば地獄の門は開かれん』か」


呟いた直後ひと際大きな機械音がした。今まで閉まっていた開かずの扉が開かれた。

中は少しゴージャスな造りになっていて、煌びやかな装飾が施されている。

3人は中に入り最上階のボタンを押し、エレベーターを起動させる。


天井以外はガラス張りで、外の景色を羨望できる造りになっていた。


しかし外は絶景とは程遠く、絶望を眺める他無かった。

日が暮れているにも関わらず、町は赤々としている。

炎の勢いが増し町中が火の海と化していた。


目の前に立っていたビルも中から炎上し、みるみる脆く崩れ去っていく。

見ると人らしきものが次々外に放り投げ出されている。宮部は顔を逸らした。

悲痛そうな顔をしている宮部に気を使い、山田が話しかけようとした瞬間。


エレベーターが激しく縦に振動した。


山田:

「うわっ! く!何だ?!」


宮部:

「……地震?」


ガラスが割れエレベーターを揺らす主が顔を出す。


山田:

「……な、何だよアレ……」


宮部:

「ウソ、あれは………」


薬師がいた。


厳密に言えばアイリスに殺された事によって寄生菌に感染し、クリーチャーに変異した薬師の姿がそこにあった。

全身にひび割れのような亀裂が生じており、ひびの隙間から所々触手が蠢いている。しかし何より特筆すべき点は、赤黒い血によって染まった脊髄だ。


ムチのように撓らせ自由自在に動かしている。


アンデット薬師:「……ヒ……ヒヒ………ヒョォ……ヒョ~……」


落合:

「しつけぇジジィだな!!」


落合は瞬時に銃を数発ぶっ放した。しかし薬師に当たる事無く外へ放出された。

薬師は素早い動きで右へ左へと、エレベーターの淵を利用して移動する。

移動するたびにエレベーターが激しく揺れ、何かに掴まっていないと立っていられない。その所為で銃口で狙いをつけても当たらないのだ。


しびれを切らした山田が広範囲の広いショットガンに持ち替え、躊躇する事無くぶっ放した。散弾に当たった薬師はボロボロの白衣のポケットから、ダガーナイフを落としエレベーターの地面に落ちる。続けて散弾を食らわせようとしたその瞬間、脊髄がムチのように弧を描き山田の左肩を貫いた。


山田:

「ぐわぁあ!!」


宮部:

「あっ……。きゃあ!」


尻餅をついた山田に駆け寄ろうとした宮部は、体に脊髄が巻き付きドアに叩き付けられる。落合は銃からショットガンに変え狙いを定めた。

その瞬間薬師は蛇のように動き、トリガーを引くよりも前に落合の左腹部を

引っ掻いた。倒れた落合にとどめを刺そうと右手を上げた。

しかし山田のタックルにより落合は死なずに済んだ。



アンデット薬師:「……ヒョヒョ、ギョォォオオ~!!」


タックルに寄って壁に叩き付けられた薬師は雄叫びを上げ、脊髄を天井に突き刺しそれを軸にして山田に裏拳を食らわせた。

裏拳を食らった山田は勢いよく倒れ、薬師が覆い被さり両手を封じた。

成す術の無い山田の眼前に、鋭く尖った脊髄が振り下ろされる______ 


前に薬師の口から血が噴き出した。

ダガーナイフを拾った宮部が薬師の後頭部を突き刺し、口に貫通させたのだ。

仰け反って悶え苦しむ薬師の顔面を、臆する事無く蹴っ飛ばした。



宮部:

「そろそろ寝る時間よ、おじいちゃん」


外に蹴っ飛ばされ奇声を上げながら、落ちて行く薬師を見下ろしそう言った。

2人に振り返り一応大丈夫かと聞く。



山田:

「え、ええ。血は出ましたけど、もう止まりました。

ワクチンのお陰かと思います……」


落合:

「でもすごい痛みが、残ってるんですよね。なんとかならないんですかねぇ……」


2人の無事を確認した宮部はそれ以上喋る事は無く、そうこうしているうちに最上階に着いた。




・KSコーポレーション 中央研究所最上階


17:45


エレベーターから下りた3人は、酷い臭いに顔をしかめた。

下階とは比べ物にならない程、この階の状態が酷かった。

床に転がっている遺体の腐敗がさらに進んでいた。

腐臭の所為で気分を害したものの、前より腹がよじれたりはしなかった。

慣れてしまったという事だろうか。複雑な心境で通路を見渡す。


遺体の腐敗具合ならびに傷み具合からして、ここから始まったのだろうと推測出来る。遺体達が起き上がって来ない事を祈りながら、通路を進んだ。

通路の突き当たりに、大実験室と書かれた部屋に辿り着く。


3人はそのまま入って行った。



・中央研究所最上階 最深部



実験室は広く、天井部が高い部屋だった。

壁一面に様々な機材が置いてあり、中央部には四角形の窓が複数ある、巨大な筒状の培養液カプセルがその存在を放っていた。

そのカプセルから視線を感じた。


よく見ると人間の赤ちゃんくらいの、大きさのある寄生虫が3人を、じ~っと見つめていた。落合は床に散らばっている書類を踏みながらその寄生虫を凝視した。



落合:

「……何だ、あれは………」


山田:

「………アレが、ノーミンを生み出したクイーン・ノーミン……?」


?:

「ご名答」


何処からとも無く声がした。3人が身構えた直後、培養液カプセルの影から声の主が姿を現す。白髪をオールバックにし、紫のネクタイを締め、黒のジャケットの上に

白衣を着込んだオシャレな、初老の男性が立っていた。



落合:

「あんたは……」


山田:

「………黒田、総一郎」


黒田:

「如何にも、私が黒田総一郎だ」



そう答えた男は、いたずらがバレた時の様ないたずらっ子のような、

薄ら笑みを浮かべる。 

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