第6話 突入


・裏路地


?:

「こっちだ!!」


誰かが宮部の伸ばした手を掴み引っ張り上げる。宮部に続き山田、落合も引っ張り上げられる。マンホールから出た直後、山田が急いでマンホールの蓋を閉める。

アイミン達が手を伸ばし、外に出ようとした所だったので間一髪だった。


宮部:

「あ、ありがとうございました。危うい所を………あっ!」


落合:

「どうも助かりました………あ!」


山田:

「あ!……大佐!!」


三木:

「君達か。マンホールから出てくるもんだからヒューミン達かと思ったよ」


山田達を助けたのは大勢の部下を率いた大佐だった。

その事実に山田達は驚きを隠せない。


山田:

「脱出用ヘリを取りに行ってたんじゃないんですか?」


三木:

「ああそれなんだが、思いのほかうまく行かなくてな。ヒューミン以外にノーミンに寄生されたであろう、動物達に手こずっているんだ。任務の一つは成功したがね」


落合:

「動物達?この近くに合った動物園から動物が逃げ出して、人を襲っていると?」


三木:

「どうやらそうらしい、事態は深刻だ」


大佐はため息をついた後、ヤレヤレとオーバーリアクションをして両肩をすくめる。


「……それで?他の者達は?」


宮部:

「そ、それが………」


山田:

「……僕達を助けて、犠牲に……」


その言葉を聞き隊員達から、驚きと悲しみの言葉が漏れる。


三木:

「……そうか、彼らがか…… 職務を全うしたんだ、彼らも本望だろう」


泣いている隊員も居て、途方に暮れ居ている隊員も居る中、大佐には変化が見られない。隊長である手前、弱みは見せられないのだろうか?


「……話は変わるが、君は確か宮部君だったね?」


宮部:

「あ、はい。 そうです、それが何か?」


三木:

「君は黒田博士のことを叔父と言ってたな、君は姪の宮部雅なのか?」


宮部:

「ええ、そうですけど……」


三木:

「そうか、君があの小さな女の子だった子か…… 大きくなった」


宮部:

「わ、私の事を知ってるんですか?」


三木:

「ああ。君は覚えていないが小さい時に会った事がある。君の父親も知っている。

だからみすみす死なせるわけにはいかない、ここが滅ぶ前に一緒に来てもらおう」


宮部:

「え?ちょっと、待って……」


山田:

「待ってください!!ここが滅ぶってどういう事ですか?!」


宮部の腕を掴み連れて行こうとする大佐の前に立ちはだかり、今の言葉に説明を求める。


三木:

「……先ほど確かな筋から情報が入った、政府がこの町を見限ったそうだ。

核爆弾を使ってここを消すようだ。使われるのは5キロトン、跡形も無くなるだろう」


落合:

「嘘だ、そんなのは嘘だ!! 日本は核を持っていない筈だ!持っていはいけないと決まってる筈だぞ?!」


三木:

「……今更アメリカの言う事を律儀に従っている国があると思うか?答えはノーだ。

昨今国々はテロの脅威に晒されている、大国の傘の中にいるが安全は保障されていない。自分の身は自分で守らねばと自衛が強化されている。日本も例に漏れず、色々な核開発が進んでいるのが現実だ。世間には公にされていないがね」


落合:

「そんな……」


三木:

「雅君一緒に来てもらえるかな?悪いようにはしない」


宮部:

「い、嫌です…… わ、私は叔父を……」


山田:

「大佐。宮部さんは俺達が死なせません。黒田さんを見つけた後、屋上で合流しましょう。確実にお連れします」


三木:

「……必ず連れて来ると約束出来るのか?」


山田:

「ええ必ず」


宮部:

「山田さん………」


落合:

「え?待って、その『達』って僕も含まれてる?」


落合が喋った直後、左右の窓という窓から大量のヒューミンがまたしても湧いてで来る。山田達と三木大佐達は二つのグループに分断される。


ヒューミン:「ぅぅう~ああ~あ」

山田:

「うわ!!また出た!」


宮部:

「と、取りあえず逃げましょう!ここでは狭すぎます!!」


落合:

「そ、そうしよう!そうしましょう!!」


三木:

「山田君!!6時だ、午後6時に滅菌作戦が始まる!!その前に確実に屋上に居てくれ!!ヘリを回す!!」


山田:

「分かりました!! その時間辺りにまた合いましょう!!」


宮部:

「6時……あと3時間………!!」


山田:

「全員走りますよ!」


腕時計を見ていた宮部の肩をポンと叩き行動を促す。背後に連射する銃声を聞きながら、山田達は大通りに出てKSコーポレーションを目指して走る。


・大通り


大量の事故車両や瓦礫を避け、ジクザグに山田達は慎重に歩きながらKS社へ目指す。先導する山田の隣りに宮部は、少し恥ずかしそうに隣りに来る。


宮部:

「………あの、山田さん……」


山田:

「はい」


宮部:

「……えっと、その……さっきはありがとうございます。

連れ去られそうになったのを、助けてくれて。……格好良かったです……」


山田:

「いやぁ~正直言って怖かったぁ~。だって銃を持った特殊部隊ですよ?

今になって手が震えて来ましたもの」


ほら と言って両手を出して震えてるのを見せる。

携帯のようにバイブレーションしているが、リズムよく小刻みに揺れている所を見るとわざとのようだ。


宮部:

「クス。 山田さんって優しいんですね」


山田:

「貴女を失いたく無かったから」


宮部:

「えっ?」


山田の突然の発言に宮部は目を丸くし、落合は盛大に吹く。


山田:

「優しいんじゃないんです、俺は自分勝手な男なだけですよ?だって宮部さんがいなくなったら男2人っきりになって、むさ苦しいじゃないですか」


宮部:

「…………」


落合:

「どんな理由ですか……」


山田:

「それに……」


目を泳がせておちゃらけた風に話していた山田は、真っすぐ宮部の目を見据えて話し始める。


山田:


「それに、宮部さん嫌がってたでしょ?嫌がる女性を無理矢理なんて納得出来ないし、見過せない。このまま見過したら俺は一生後悔すると思うから……


だからこのまま貴女を、……宮部さんを失いたくなかったんです」



宮部:


「………。……雅…」



山田:


「え?」



宮部:


「………わ、私の……名前。 ……雅で……いいです……」



山田:


「そうですか、そっちの方が呼びやすいですね」



宮部:


「………私も、太郎さんって……呼んで良いですか?」



山田:


「え?」



宮部:

「……駄目、ですか……?」



山田:


「いえ、お好きに呼んでくださって大丈夫ですよ。でもどうして?」



宮部:


「………ど、どうしてもです!じゃ、じゃあこれから……そう言う事で、よろしくお願いします///」




自分の顔が赤く火照っている事に気がついたのか、宮部は慌てて山田から顔を逸らしそのまま歩き出す。山田はきょとんとしている。




山田:


「……雅さんどうしたんだろう? 顔が赤かったけど…… 風邪かな?」



落合:


「馬鹿じゃねぇの?!!」



山田:


「へ?何で?!」




素っ頓狂なことを言った山田を飽きれ顔と見下した目で見た落合は、唾と同時に「やってられませんわ~」という言葉を道路に吐き捨てる。
山田は頭に大量の疑問符を作りながら落合の後を追いかける。


宮部:


「動かないで!!」



男:


「わっ!待った待った!! 俺は化け物じゃない人間だ!!」




先を歩いていた宮部が立ち止まり、車を漁っていた男に拳銃を向ける。

銃を向けられた男は両手を上げてあたふたするが、宮部は構わず男を撃つ。




山田:


「雅さん?!!」



落合:


「ちょ!何して……」




男は撃たれたように見えたが、男の後ろに居たヒューミンが撃たれ死亡する。

後から来た山田達はあっけにとられた後安堵する。




男:


「ヒュ~。ナイスショット! お嬢さんいい腕してるぅ~」



宮部:


「大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」



男:


「いや~大丈夫じゃないんだよな~ 俺の心が」



宮部:


「はい?」



男:


「どうやら俺の心は君に撃ち抜かれちゃったみたいでね~。君にメロメロなんだ、

責任を取ってどこかで俺とお茶しな~い?」



山田:


「……今喫茶店はどこもかしこも閉店してます。葬儀屋なら開いてますよ?」




宮部をナンパしている男に山田が割って入る。心無しか銃口を男に向けている気がする。




男:


「おっと~こついは手厳しい。彼氏直々に棺桶に入れられたんじゃ泣き寝入りどころのレベルじゃないねぇ~。こりゃ失礼~」



宮部:


「彼氏じゃまだないですけど、見ず知らずの人と一緒にお茶する程暇じゃあありません」



男:


「あちゃ~泣きっ面に蜂とはこの事だねぇ~、ま~た振られちゃったよ~。今日に入って女の子に振られるのは3回目だよ~、今日はとことんついてないなぁ~」



落合;


「あんた一体なんなんですか?」



男:


「おっとこりゃ失礼、名乗ってなかったな。俺はこういうもんだ」




そう言ってYシャツの胸ポケットから名刺を3枚取り出して全員に渡す。


男:

「俺は、池上 慎吾(いけがみ しんご) フリーのジャーナリストさ。

今後ともよろしくで~す」


山田:

「……フリーのジャーナリストぉ~?」


池上:

「おやおや~その顔は信じてないねぇ~?でも本当の事なんだな~これが。

この事件発生時に居たりしてるから、色々な情報を持ってるんだよね~」


宮部:

「色々な情報?」


池上:

「お?食いついて来たね~。簡単には教えられないんだよねぇ~、続きはホテルの中のベッドの上でしようか」


山田:

「教会の棺桶の中ってのはどうでしょうか?」


山田は良い笑顔で池上の額に銃口を押し付ける。


落合:

「………話し進まないんでさっさとその情報とやらを教えてくれます?急いでますし」


池上:

「せ、せっかちだねぇ~。ユーモアが無いと人生楽しくないよ?」


山田:

「信じられないかもしれませんけど、後3時間ちょっとでこの町はミサイルで滅ぼされるんです。これは本当の事なんです」


池上:

「あ、うん。知ってる」


山田&落合:

「「ええーーーー??!!」」


宮部:

「じゃあ何でそんな流暢にナンパなんてしてるんですか?!」


池上:

「だってこんな化け物だらけのアルマゲドンじゃ可愛い女の子との出会いなんて無いんだもん。人との縁は大切にしなきゃ」


宮部:

「だからって何でナンパなんですか、馬鹿なんですか?!」


池上:

「君激しいねぇ~。嫌いじゃないけど今日は強気な女の子しかいない日なのか?」


落合:

「で?何?情報って何?どんな情報?役に立つような情報なのか?」


池上:

「まぁそう焦りなさんな、情報というのは俺達が遭遇した化け物共の名前と特徴を、記した俺のファイルの事だ。通称『池上ファイル』」


山田:

「その通称誰が言ってんですか……」


宮部:

「でもそれで敵の分析が出来てより効率よく動けますね」


池上:

「でしょでしょ~?これ作るの結構大変だったんだから褒めて褒めて~」


池上がデレデレした表情で宮部に近づこうとしたその時、車から音がして全員その音の方向へと顔を向ける。ボンネットの上に傷だらけの犬がこちらを睨んでいる。


犬?:「ガルルルル」

山田:

「………あの、池上さん? アレは一体………何かな?」


池上:

「……寄生犬、またはケルベロスって名前の化け物だね………」


落合:

「敵じゃんよぉおおーーーー!!!」


寄生犬:「ガウアアーー!!」

山田&落合:

「「うわぁああーーー!!」」


宮部:

「きゃあああーー!!」


血塗れの裂けた口を大きく広げ、山田達目掛けて飛びかかって来るが、

連続射撃されキャウンと泣き声を上げた後地面に落ちて死亡する。

撃ったのは2丁拳銃を持った池上だ。


池上:

「女の子を襲おうなんてイケナイ犬だ。そこで永遠に伏せ」


山田:

「た、助かった……」


宮部:

「い、いきなりだったので対応出来ませんでした…」


落合:

「……そのルガーP08、何処で手に入れたんですか?」


池上:

「お?違いが分かる男か、カッコいいね~。いやね、特殊部隊の可愛い子ちゃんと知り合いになったんだよね~、それで不安だからって事で持たされたんだ」


山田:

「特殊部隊?三木大佐達の所の?」


池上:

「いんや知らないねそんな人。何かゴツイおっさんが隊長で可愛い子ちゃんが副長の部隊だったよ。あれはハーフの子かな?上玉だったね」


落合:

「別の部隊……」


池上:

「あ、もっちろん君も上玉な女の子だよ~」


宮部:

「うるさいです」


池上:

「え~一蹴とかドイヒ~。俺これでも命の恩人だと思うんだけどな~。

名前くらい教えてくれてもいいと思うんだけどな~」


宮部:

「……それもそうですね。宮部 雅です。先ほどはありがとうございました」


山田:

「山田 太郎です」


落合:

「落合 統治です」


池上:

「あ、野郎のはいいです」


山田&落合:

「「ドイヒー!!」」


池上は弾倉を取り出し銃弾を入れ直す。装填し終えた銃をカッコ付け、ポケットに仕舞いながら山田達に話かける。


池上:


「それで?君達はこれからどうするの?俺はこの車を使って待ち合わせてる友人達を乗せて、この町から脱出しようと思うんだけど………君達も乗る?」



山田:


「いえ、俺達はこの先のKS社に用があるので乗るわけにはいかないです。池上さんは急いで友人達の所へ行ってください」



池上:


「え?あんな所に用があるの?この町をこんな風にした元凶なのに向かうとか、

クレイジーだわ~」



落合:


「それを調べる為に向かうんです」



宮部:


「そうだ!!池上さん、よろしければKSコーポレーションの入り口まで、乗せてもらえませんか?」



池上:


「えぇ~?」



宮部:


「お願ぁ~い」



池上:


「……デへへ~。もぉ~しようがないなぁ~、近くまで乗せてってあげるぅ~」



山田&落合:


「「チョロ!!」」



宮部:


「やった!!池上さんありがとうございます」




宮部の提案に若干引いていた池上だったが、宮部の媚を売った猫撫で声でデレデレになり上機嫌で了承する。全員赤いスポーツカーに乗り、発進させる。
スピードは速いが事故車両が多いため、気をつけて運転している。運転の技術はプロ並みだ。




池上:


「しかし君達は運がいい。そんな装備で最初の混乱をよく生存してられたね~」



宮部:


「えっと…… 恥ずかしながら、ドロドロの恋愛ドラマに熱中してて、停電するまで気付かなかったんです……」



落合:


「イライラしてたのでサンドバックを殴り続けてました」



山田:


「寝てました」



池上:


「全員のんきか!!特にあんた、えっとアレ……何太郎さんだっけ?」



山田:


「……山田太郎です」



池上:


「そうだ山田さんだ、平日なのにずっと寝てたの?」



山田:


「………察してください」



池上:


「あちゃ~、悲惨~お疲れちゃ~ん。………ん?山田?もしかしてあんたって……」



宮部:
「きゃあああ!!!」




喋っている途中寄生犬が窓ガラスを割り、首を車内に入れ助手席に座っている宮部を噛もうとする。


寄生犬:「ガウガウガウ!!」

山田:

「雅さん!!」


ショットガンで寄生犬の頭を吹っ飛ばし宮部を助ける。

首無しになった寄生犬は走っている途中の車から外に投げ出される。


宮部:

「た、助かった……」


池上:

「あっぶなぁ~……危うい所だったねぇ~、君の可愛い顔が拝めなくなる所だったよぉ~」


落合:

「池上さん!前!前!!」


池上:

「うおおお!!」


落合が池上に前を向くよう促した瞬間、大量のカラスがフロントガラスに体当たりし張り付く。


カラス?:「カァ!カァ!カカァ!!」

山田:

「な!な、ななな、なん何ですかこれ?!!」


宮部:

「か、カラス?」


池上:

「……通称レイヴン、カラスの化け物だ!」


落合:

「最悪だぁああーーー!!」


大量に張り付いているため前が見えず蛇行運転になる、そればかりかカラス達が鋭い嘴でガラスを叩き始める。このことにより所々のガラスにヒビが入る。急いで池上はウィンカーを動かす。カラスを弾いても弾いても次から次へとカラスが張り付く。


ウィンカーを動かす力を最大にしやっとの想いでカラス達を退ける。

しかし退いた直後、目の前にKSコーポレーションの出入り口が目の前に迫る。


池上:

「うおおおおーーーー!!」


宮部:

「きゃああーーーー!!」


山田&落合:

「「いーーーやーーー!!」」


池上と宮部が叫び、山田と落合が息のあった悲鳴を上げるが車は止まらない。

気付いても既に遅く、車のスピードを落とす事無くKS社の出入り口のガラスを突き破りそのまま突っ込む。

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