第5話 地下の世界

・地下下水道


天井はアーチ上に作られていて、何故か足場も作られている。そのため案外広く、往来の下水道と比べれば悪くない。問題は悪臭と湿気だけだろう。

薄暗くジメ~ッとした、地下下水道を隊員達を先頭に歩いて行く。


落合:

「はぁ、ジメジメしていて陰鬱です……」


山田:

「足場はある物の、結局濡れちゃいましたしね……」


竹林:「自慢の髪が、さらにボロボロに……」


落合:

「元からボロボロじゃないですか」


竹林:「黙れクソガキ殺すぞ」


落合:

「いいですよ殺してみてください、どうやって殺すんですか?武器も無いのに。素手ですか?素手なんですか?素手なんですね?」


竹林:「このガキャァアア!!」


山田:

「宮部さん、大丈夫ですか?」


宮部:

「あ、はい大丈夫ですよ?どうしてです?」


山田:

「いやぁ宮部さん女性なので、この場所は女性的にキツいのではと、思いましてね」


宮部:

「心配ありがとうございます。でもこういう場所結構好きなんですよ、薄暗くて落ち着くというか何と言うか、ただ臭いがキツいですけど……」


山田:

「あ~、そうですか……」


落合と竹林が仲良く?喧嘩をしているのをよそに、山田は紳士的に宮部を気遣い、会話を弾ませる。少し引き気味だが。


高橋:

「青春はいい、好きな人愛する人がいるというのは、身も心も和やかにしてくれる」


隊員:「学生時代に戻りたいです……」

隊員3:「俺は戻りたくないな……良い思い出なんか無いし」

隊員2:「おいおいしてねぇの恋愛、俺なんか二股してたぜ?」

隊員:「最低じゃネェか」


山田:

「あの、俺達そう言うんじゃないんですけど……」


高橋:

「あれ?そうなのかい? 結構仲慎ましかったから、てっきり恋人関係なのかと……」


宮部:

「わ、私達そう見られていたんですね、少し恥ずかしいです……」


落合:

「馬鹿って言う方が馬鹿なんです、いい加減それに気づいたらどうなんですか?

バーカバーカバーカ」


竹林:「貴様の様なガキは、馬鹿で十分なんだよ!!このバーカバーカバーカ」


落合:

「この老害がぁああーー!!」


竹林:「この小僧がぁああーー!!」


尚も2人は仲良く喧嘩を続ける。


高橋:

「……何故こんな所に桟橋が?」


少し進んだ所に、金網状の桟橋があり何かしらの通路として使われていたようだ。

下水より高台に上った方が良いと判断し、全員金網の桟橋を渡る。

落合と倉林は尚も睨み合いながら進む。


山田:

「これ、どこまで続いてるんでしょうか?」


高橋:

「分からん、だが手入れが施されているのを見ると、良く使われているようだ」


宮部:

「使っているなら、ここの管理人なんじゃ?」


高橋:

「それも考えられるが、下水道の設備ならともかく、通路を小綺麗にしておく必要は無い筈だ」


宮部:

「ん~、例えば偉い人が良く来るとか?」


山田:

「確かにあり得る話ですけど、偉い人ならこんな所を通らせずに、もっと別の場所から入らせるのでは?」


宮部:

「あ~確かにそうですよね」


高橋:

「何がともあれ、ここは少し調べた方が良いかもしれない」

隊員:「兵長、何か落ちてます」


高橋:

「ん?何だ?………ノートか?」


先を歩いていた隊員の足下に、ノートが落ちており高橋は、それを拾いページを開く。


『下水管理人の日報

1月2日

こんな深夜に仕事があるんじゃろくに寝れやしねぇ。しかもめでてぇ正月だって言うのに仕事と来たもんだ、とんだブラック企業に勤めたもんだよ我ながら。

しかし金の羽振りも良いから余り文句も言えねぇ。なんつージレンマだ。


2月10日

最近署長をよく見かける。いつも陰険な顔して通るもんだから、こっちまで気分が重くなる。少しくらい楽しそうな顔をしてみろってんだ、署長の顔が町の顔って言ってたのは誰だっけ?まぁこの先の所は楽しい場所じゃないから、仕方ないっちゃぁ仕方ない訳だが・・・せいぜい頑張ってくれや、“市民思い”の署長さん。


4月1日

久しぶりに署長を見た。今度は傭兵を引き連れてのご遠足だ。

いつにも増して険しい顔をしていたので、場を和ませようと冗談を言ってみた。

そしたら傭兵の男に銃を向けられた。どうやら深刻な話をしていたらしく癪に障ったようだ。殺されなかったものの今度言ったら殺すと言われた。

エイブリルフールかと思ったら目がガチだった。

何なんだ?冗談も分からないのかあの“市民思い”の署長さんは。


5月12日

珍しく藤堂の旦那に出くわした。ずいぶんと久しぶりなもんで話しかけたら罵詈雑言の嵐。何なんだこの職場は?冗談も言えねぇのかよ。

まぁ藤堂の旦那は奥さんに逃げられたっつー噂だし、仕方ないわな。

でもだからと言って八つ当たりは勘弁してもらいたいもんだ。』


宮部:

「金の羽振り?下水道の管理の報酬って結構良いんですか?」


高橋:

「さぁ?分からん」


竹林:「落合報酬がいいならここに転職したらどうだ?貴様に似合いな職場だ」


落合:

「いえいえ遠慮します。竹林さんこそどうですか?貴方にぴったりな陰険な場所ですよ?」


竹林:「あん?」


落合:

「ああ?」


山田:

「ちょっと待ってください!重要なのはここです、署長がここに来てるって言う事です。署長は一体何の用でここに?」


睨み合いながら啀み合ってる落合と竹林2人に、割って入りながら山田は疑問を投げかける。割って入られた2人は手すりに体をぶつける。


宮部:

「犯人を追ってここまで来たとか?」


山田:

「しかしそれだと傭兵の意味が分かりません」


宮部:

「そうですよね…… 毎回来てるみたいな書き方ですし……」


山田:

「高橋さん、署長がKS社の協力者って言ってましたけど、具体的にどんな協力を?」


高橋:

「すまない、私はそこまで詳しく知らないんだ。大佐の方がより詳しいと思うんだが……」


山田:

「でしたら無線で詳細を聞いてください」


高橋:

「いいだろう、今詳細を………ん?」


ポケットから無線を取り出そうと身を捻った直後、バシャン と下の下水の水が跳ねる音が聞こえた。高橋は疑問に思い、下を覗き込む。


「今何か音が………」

ノーミン:「ギキー!」


高橋:

「んーー!!んぐ!んぐ!!んーーー!!」


覗き込んだ瞬間、ノーミンが水しぶきを上げながら高橋の顔面に張り付く。

高橋は苦しさの余り藻掻く。


山田:

「高橋さん!!」


宮部:

「きゃああーー!!」


落合&竹林:

「「ひぃいーー!!」」


隊員:「兵長!!」

隊員2:「兵長しっかり!!」


抵抗虚しく高橋は足を滑らせ、桟橋から下水へと落ちる。


隊員3:「高橋兵長ーーーー!!」


山田:

「大変だ!!下へ下りて高橋さんを助けましょう!」


宮部:

「行きましょう!!」


落合:

「えぇ?今来た道戻るの?てか下へ下りるの?」


山田達隊員達は顔を見合わせ頷き合い、踵を返し今来た道を走って戻って行く。

落合は渋々後を追う。


竹林:「ふん!貴様らだけで行け!!俺はここに残るぞ!」


目を瞑って腕を組み、偉そうにそう叫ぶ。


山田:

「高橋さーーん!!無事ですかーー!!」


山田達は高橋が落ちた場所まで辿り着く。高橋は皆を背にして突っ立っていた。


宮部:

「高橋さん!よかったぁ、大丈夫だったんですね」


落合:

「はぁはぁ、疲れた………」


隊員:「兵長!!よかったです。ご無事で何よりで……」

隊員2:「……兵長?」


話しかけても何も反応しない高橋に全員が首を傾げる。隊員の一人が高橋に近づき、肩を触る。


隊員3:「……兵長、一体どうしたんですか?……」


触られた高橋は、カクカクとした動きで振り返る。

そこには顔にノーミンが張り付いたままの姿があった。

ノーミンの背中が裂け、目が露出する。その目はキョロキョロと辺りを見渡す。


宮部:

「ひぃ!」


山田:

「そんな!!」


落合:

「遅かった!」


隊員3;「兵長っ!!」


キョロキョロと辺りを見渡していた目は、近くにいた隊員に焦点が合い凝視する。

直後鋭い爪で隊員を引き裂く。


隊員3:「ぎゃああーー!!」

隊員2:「くそ!!」

隊員:「衛兵!!」


隊員を殺したギョロ目のそいつは、山田達の方を見て近づいて来る。


高橋?:「ぅぅう~あがが」

隊員2:「兵長来ないでください!貴方を撃ちたくない!!」

隊員:「頼みます兵長、来ないでください!!」


銃口を向ける隊員達をよそに、そいつは高々とジャンプをして、足場にいた山田達の隣りに着地する。


山田:

「うわぁ!!こっちに来た!!」


宮部:

「嫌ああーー!!」


落合:

「あわわわ!!」


落合は腰が抜け地面に尻餅をつき、宮部は山田の後ろに隠れる。

山田は勢い余って銃を落とす。高橋だったそいつは3人に襲いかかろうと手を伸ばす。


隊員2:「兵長ーーーー!!!」


隊員は決死の覚悟と想いでサブマシンガンのトリガーを引く。

高橋だったそいつは蜂の巣にされ、痙攣しながら果てる。


隊員:「……兵長……」


山田:

「高橋さん……」


宮部:

「いい人でした……」


落合:

「でもだからと言って、襲われるのは勘弁被りたいですね……」


全員が神妙な面持ちをしていると、下水から高橋と似た、ノーミンが顔に張り付いた化け物とノーミン達が出現する。悲しみに暮れる時間も権利も、彼らに無いかのように襲って来る。


隊員:「くそ!!早速お出ましか!!」

隊員2:「しかもノミみたいな奴もおまけ付きだ!」


山田:

「こ、こいつら単独でも動けるのか!!」


落合:

「これは、ヤバい状況ですよ!!」


下水からぴょんぴょん飛び跳ねているノーミンを回避しながら、顔にノーミンが張り付いた化け物を撃ち殺して行く。だがそいつも時折飛び跳ねるので、狙いが付けづらい


落合:

「チッ!顔面凶器のくせに、ピョンピョン飛ぶ!!」


山田:

「それにしてもデカい目ですね、ドライアイにならないのかな?」


落合:

「どんな心配ですか?!」


宮部:

「目……アイ……ノーミン、ドライアイ……ノーアイ、ミンアイ………アイミンでいいですか?」


山田:

「だから何で今命名?!」

ノーミン:「ギギーー!!」


山田:

「宮部さん危ない!!」


宮部:

「きゃああ!!」


一匹のノーミンが宮部目掛けて飛んで来る。山田は宮部を庇い、覆い被さる。

ノーミンは間一髪通り過ぎるが、心無しか壁ドンになる。


山田:

「危なかった、宮部さん大丈夫ですか?」


宮部:

「え?あ、はい……その、あ、ありがとうございます……」


2人で少し見つめ合っていると、落合がイラついた口調で叫ぶ。


落合:

「2人でイチャ付かないでもらえます?!迎撃してくださいよ迎撃!!」


山田:

「イチャ付いてませんよ!」


と言ってショットガンでノーミンを避けながら、アイミンを次々撃って行く。


隊員:「こちらウォーカースリー!!ウオーカーツーが沈黙!繰り返すウォーカーツーが沈黙!!衛兵も沈黙。敵の襲撃に合っています。聞こえていますか?大佐!!」

無線:『こち………ワン………なに…………ぜんぜ…………はあく、でき………ザザザー』


隊員が無線を取り出し大佐と連絡を取ろうとするが、雑音だらけで何も聞こえない。


落合:

「連絡取れずに何の為の無線ですか?!」


隊員:「仕方ないだろ!!地下深くなんだから!」

隊員2:「皆さん!こっちに通路が、敵は我々に任せて急いで!!」


下水を挟んだ向こう側に、小さな通路がある。裸の豆電球がオレンジ色の光を放っている。隊員達がノーミン達を引きつけている間に、山田達は急いで下水を渡る。

下水から足場に上がっている最中、横から竹林が走り去りドアを閉める音がした。

落合が通路を横に曲がると、鉄製のドアがあり、ドアノブを捻っても開かない。


落合:

「あれ?開かない。竹林さん?何で鍵閉めるんですか?開けてくださいよ!

竹林さん!開けてください!竹林さん!!たけ………開けろオラァアアーーー!!」


宮部:

「落合さんの豹変が怖いです……」


山田:

「人って余裕が無いと本性表すって言いますよね、仕方ないとも言えますけど……」


隊員:「そこどいて!!」


ドアを叩いている落合を押しのけ、隊員は鍵穴に銃口を押し付け、サブマシンガンのトリガーを引く。鍵が壊れ、扉が開く。


隊員:「よし!これで中へ入れるぞ!」


落合:

「よっしゃオラー!!竹林テメェ何処だぁあーー!!」


隊員2:「早く中へ!!奴らが来る!!」


唖然としている山田と宮部の後ろから隊員が部屋へ入るのを促す。

落合は半狂乱になりながら、扉が開いたのと同時に中に入る。


入った瞬間、隊員2人が急いで扉を閉める。

薄暗い部屋は職員用だったらしく、着替え用のロッカーが多数ある。

部屋の隅の机の後ろに竹林は、縮こまって隠れていた。

落合は近づいて胸ぐらを掴む。 その光景に山田と宮部は驚愕する。


宮部:

「お、落合さん……」


山田:

「ちょ、ちょっと……」


竹林:「うぐっ!」


落合:

「殴られる覚悟出来てるか、ああ?散々コケにしやがって、元上司だからって容赦しねぇぞ?!」


竹林:「フッ」


胸ぐらを掴まれているにも拘らず、余裕綽々でニヤけ顔だ。


落合:

「何が可笑しいこの野郎。」


竹林:「醜いな。」


落合:

「何?」


竹林:「醜い。実に醜いぞ落合。鏡を見たか?俺そのものだ。」


落合:

「何を、言って………」


竹林:「勘違いするなよ?別に責めてる訳じゃない。寧ろ同類が出来て嬉しいという感情だ。人は元々醜い生き物だ。美しい筈が無い。理性やら法律やらで規制して、美しく幻想を作る。本質は醜いから、押さえつけてもいつか溢れ出す。

お前も仕事の部下という立場上、大人しくヘコヘコしていたが、俺は気づいていたぞ?反抗的な目付き、従いたく無い態度、反社会的な銃のコレクション。

俺と似た醜い人間なんだと確信した。押さえつけていた物がいつ溢れ出すのか、今か今かと待ちわびていたよ。そしたら今日のコレだ。ついに本性を現したなぁ?落合」


落合:

「ち、違う!……ぼ、僕は僕は……あんたとは……」


竹林:「違うというか?いいや違わない。お前は醜い。醜い自分を否定するな。

醜くて良いんだよ、人は皆醜いのだから。俺は自分可愛さに身の保身に走る、お前は自分の感情に流される。いいぞ、実に良い醜さだ。自分さえ良ければ良いんだからな。お前もそうだろ?」


いつのまにか落合は竹林を放し、後ずさりをしている。竹林は狂った目で近づいて来る。


落合:

「……ぼ、僕は……」


竹林:「認めてしまえよ、楽になるぞぉ?醜い醜い落合君?ヘッヘッへ……ぐは!!」


竹林は殴られ地面に情けない格好で倒れる。怒りに満ちた山田の手によって。


宮部:
「…!…」


落合:
「!」




山田の行動にあっけにとられる2人は、言葉を失う。




山田:


「揚げ足取りのつもりですか? だとしたら的外れも良い所ですよ!」



竹林:「何ぃ?」



山田:


「確かに人間は醜いでしょうよ、美しいばかりが人間じゃない。当たり前すぎて今更ですよ!!
あんたは人間の本性って言いましたね? 人間は本性の前に心を持っている!! 醜いからこそ美しく、人間らしく生きたいと思う心がね!

美しく生きる事を捨てたあんたの醜さは、あの化け物達と同じ醜さだ。いやそれ以上の醜悪さだ!!あんたの口から放たれる言葉からは悪臭がする!


落合さんは少なくとも同類じゃない。身も心も醜く肥え太ったあんたよりかは、美しく生きてるよ!」



竹林:「……そういう貴様はどうなんだ?気が晴れるから殴ったんじゃないのか?」



山田:


「これは決別だ。醜い化け物のあんたと、醜くても美しく生きると決めた俺の決別だ」




ギュッと拳を握りしめ、竹林に見せつける。




竹林:「……覚えとけよ?俺を殴った事を後悔させてやる……」



山田:


「どうやって後悔させるのか、今か今かと待ちわびておいてやるよ」




立ち上がった竹林は山田を睨んだ後、全員から少し遠くに離れる。


隊員2人は部屋にある、複数のロッカーを開け中を漁る。そこには銃弾とショットガンの弾とマシンガンの弾が、置かれていて銃の補給として入手する。


隊員:「こちらウォーカー・スリー、応答願う。繰り返す応答願う。………駄目だ」


ロッカーを漁りながら、無線で連絡を取ろうとする隊員は、それが徒労に終わると溜息を漏らす。 そんな隊員を山田が不思議そうに見る。その山田を落合達が話しかける。


落合:

「……あの、山田さん。 さっきはありがとうございます」


山田:

「え?いえいえ、感謝には及びませんよ。何と言うかその~、同族嫌悪みたいな物ですよ。ですから気にしないでください。あなたはあなたです。」


落合:

「山田さん……」


宮部:

「でも山田さん、とっても………格好良かった、ですよ?」


山田:

「いや~、何か照れますね……」


デレッとしている山田を睨みつける竹林を余所に、隊員は机の上に置いてある書類を見つける。


《下水管理人へのFAX

第1、第3水曜日にする設備のメンテナンスを、怠らないように注意されたし。

施設内は常にファンを回し、換気しておくこと。

藤堂氏と黒田氏がこの先の施設へ行くための、通路を利用するため消臭は重要。


毎月6、16日に施設で行われる、定例会議に出席するため、警察署長が利用する。

失礼のないよう敬意を持って案内すること。


その他必要に応じて、連絡する。

通行者を何事も無く、先の施設まで案内するように。


___もう一枚の書類___


被験体データ

被験体対象は女性、瞳の色は紫。

例の細胞による投与後の長期保存状態にあるが、脈拍、呼吸、 血圧、体温などのバイタルサインは全て正常。


ただし、少なからず異常が確認される。

影響が顕著なのは肌。 数年経とうとも、年齢による変化は無し。》



隊員:「……これは、何だ?」

隊員2:「どうした?誰かのラブレターでも見つけたか?」

隊員:「いやそれだったらまだ良かったよ。でもこれはそんなんじゃないな、うまく説明出来ないけどここは普通じゃない」


山田:

「……確かにそうですよね。只の下水道にしては設備が整いすぎてますし、

尚かつ奇麗な通路なんていらない筈です」


隊員達の話に割って入る山田達。2人の隙間から書類を盗み見ていたようだ。


宮部:

「この部屋の先に何かの施設があるんですかね?」


落合:

「あるとしても関係ない筈の警察の署長が、出席しなきゃいけない会議って何ですか?」


隊員:「闇の会議とか?」

隊員2:「まっさかぁ~」


落合:

「でもあり得るかもしれませんよ?黒田さんも来てるらしいので、何か良からぬ事を企んでるのでは?」


宮部:

「お、叔父さんに限ってそんな事は無いと思います!」


山田:

「そ、そうですよ。町の復興会議かもしれないじゃないですか……」


落合:

「だとしたらこんな辛気くさい所で、コソコソする必要ありませんよね?

それにこの被験体データとか物騒な文字の説明がつきません」


宮部:

「ん……」


山田:

「それは……」


直後部屋に明かりが付き、換気扇が動き始める。電気が戻ったのだろうか?


落合:

「……とりあえず先を進みましょう。何か分かるかもしれませんし、それに誰か居るようですし」


宮部:

「………そうするしか……」


山田:

「ないようですね……」


隊員:「まぁ戻れない以上、進むしか無いのは至極当然だけどね。」

隊員2:「屁理屈は終わったかい?では俺達に続いて進んでくれ。」


反対側のドアを開け、隊員達を先頭に先に進む。通路は広く壁も床も天井も人工的に、作られており施設そのものだ。バリアフリー用なのか手すりもある。


落合:

「ビンゴ。只の地下下水道じゃなかったらしい」


宮部:

「……でも一体何の為にこんな所……」


隊員:「その答えは、この先にある……とか言ってね」


山田:

「皆さん静かに!」


隊員2:「何だ?つまらなかったか?俺達の職場は冗談が言える職場だぜ?」


山田:

「いえ、何か聞こえます。」


山田のその発言に全員黙り、耳を澄ませる。すると通路の遠くから銃声や悲鳴や物音が聞こえる。


山田:

「本当に誰か居るようです」


隊員:「そのようだ、じゃあ急ごう」


全員で急いで走る。

しかし少し走った直後、横の通路からアイミンが6体通路を塞ぎながら出現する。


アイミン達:「ぁああ~ががが」

山田:

「簡単には行かせてくれないようです」


隊員2:「そのようだ!」


宮部:

「撃退しながら進むのは、ちょっと骨が入りますね……」


落合:

「でも少し楽しく感じて来ましたよ!」


竹林:「………」


マシンガンやショットガンで応戦しているうちに、アイミン達は殲滅される。

そのまま安心して進むもうと、山田が一歩進もうとした直後。


隊員:「危ない!!」


山田:

「え?うわ!!」


ドカーン と天井が爆発し瓦礫が落ちて来る。山田は間一髪の所で隊員に助けられる。通路は瓦礫が立ち塞がりコレ以上は進めない。


宮部:

「山田さん!!大丈夫ですか?」


山田:

「ああはい、なんとか、どうもありがとございます」


隊員:「どうってことないよ、仕事のうちさ」


落合:

「でもコレではっきりしました。誰かが僕達の命を狙っているのと、誰かは分かりませんが重火器のプロであるという事」


宮部:

「誰が私達を……」


落合:

「分かりません。ですが大佐達の部隊ではない、別の部隊の可能性があります」


山田:

「……別の部隊である根拠は?」


落合:

「こんな事態に自らの戦力を削ぐとは考えにくいです」


宮部:

「あ、確かに……」


隊員:「勿論さ、大佐は俺達の大佐だからな!」

隊員2:「ああ!我らの大佐は幾度の死線を潜り抜けた猛者だぜ!」


山田:

「ですけどこれ以上は進めませんので追えません。

アイミン達が湧いて来た通路を使うしか無いですね」


山田の提案に乗り通路を曲がる。 少し進むと通路は途切れて終わっている。何かの力で吹っ飛ばされた後がある。ここから向こうは再び下水道だ。


山田:

「ここからアイミン達が湧いたのか……」


宮部:

「また下水…… うぅ~鼻が曲がる……」


山田:

「もう少しの辛抱ですよ、宮部さん」


宮部:

「……はぁい」


落合:

「しかし向こうは瓦礫が塞がってもう渡れませんよ?どうしましょう?」


隊員:「さっきの部屋からここの地下下水道の地図を拝借して来た」

隊員2:「ほぉ、盗人猛々しいな」

隊員:「……コホン、この地図によるとここを右に曲がれば、上のマンホールに続く梯子があるらしい。ここから外へ出られるようだ」


宮部:

「外に出られるんですね?!やった!それじゃ早く………うわっぷ!」


山田:

「宮部さん!!」


宮部何かの力に強く引っ張られ下水に落ちる。 

山田は濡れるのを構わず下水に飛び込み、宮部を腕を引っ張り持ち上げる。 見ると宮部の足首に蔓の様な物が絡み付いている。


「何だコレは?!」


宮部:

「足……痛い!……お願い、助けて……」


山田は片手で宮部を支えながら刀を取り出し、足首に絡み付いた蔓を叩っ切る。 

絡み付いた蔓から宮部が解放された。



山田:

「宮部さん、無事で良かった」


宮部:

「山田さん……山田さん!!」


宮部が山田に抱きついた。

抱きついたと同時に、前方の壁から黒緑色の大きな球体が、蔓をムチのように撓らせながら、無数の牙が生えた口を開ける。


隊員:「何だアレは?!藻??」

隊員2:「藻?!藻なのかアレ?!」


落合:

「デカい……」


山田:

「……ノーミンが藻に寄生した、という事でしょうか……」


宮部:

「そう、みたいです……」


隊員:「助太刀するよ!!」


隊員が下水に下り、サブマシンガンで藻らしき物に向けて乱射する。

撃たれた直後蔓が隊員に向けて伸びて行き、隊員の胴体を貫く。



隊員:「ごあ!!」


宮部:

「隊員さん!!」


胴体を貫かれた隊員はさらに全身を蔓に巻かれ、引っ張られ口に放り投げられる。


山田:


「そんな!!」



宮部:


「嘘っ!!」



隊員3:「チクショウ!!」




もう一人の隊員が下水に下り、藻に向かってサブマシンガンをぶっ放す。山田と宮部がそれに続く。




竹林:「どけどけ!!」



落合:


「おあ!!」




竹林は落合を押しのけ出口があるであろう、マンホールの方向へと走り出す。押しのけられた落合は下水へ落ちる。




竹林:「俺一人だけでも生き延びてやる!!マンホールの蓋はしっかり閉めといてやるから安心しろ!」



落合:


「あの野郎!!」



竹林:「ヘッヘッヘッへ! 俺だけ生きて………ぐ!あが、あがががぁああ~!!」



落合:


「う!何だ?」




竹林を追いかけようとした瞬間、目を瞑る程の光が煌めく。 黒焦げた竹林が痙攣しながら下水の底へ沈む。感電死したようだ。
バチバチと音を鳴らしながら、黄色いヘルメットを冠り電線を体中に巻いた、アイミンが電気を放ちながら出現する。


隊員2:「次から次へと!全員水から出ろ感電死するぞ!藻もどきは君達に任せた、こっちは任せろ!!」


落合とすれ違い様に電気を放つアイミンに向けて、サブマシンガンを乱射する。

山田達は下水から足場に身を移す。


落合:

「加勢する!!」


山田:

「頼みます!!」


銃弾を雨あられのように浴びた藻もどきは萎れた。

山田達は向きを変えて電気を放つアイミンの方へ向かう。


山田:

「あのピカチュウみたいに電気を放つ奴は一体なんなんですか?」


宮部:

「あれは……アイミンの進化系だから……」


落合:

「今度は僕に決めさせてくださいよ、ライ・トールでどうです?」


宮部:

「何かカッコいいですね。」


山田:

「だから何で今なんですか?」


落合:

「新しく見つけた人が名付けていいルールの筈ですよ?」


宮部:

「筈ですよ?」


山田:

「新種発見?!」


余裕を噛ました直後、ライ・トールが電線をムチのように操り、隊員に絡ませる。


隊員3:「ぐわあああーー!!」


山田:

「隊員さーーーん!!」


感電死した隊員が力なく下水というなの海底に沈み行く。

隊員が落としたサブマシンガンを山田が拾い、ライ・トールに向ける。


「アイツを倒さない限り、俺達も隊員さん達の二の舞です!」


落合:

「本気で行きます!!」


宮部:

「勿論です!!」


山田はサブマシンガンを、宮部は拳銃を、落合はショットガンをライ・トールに向け、ぶっ放す。


ライ・トール:「ああ~ががが!」

山田:

「うっ!」


またしても電気を放つ電線をムチのように撓らせる。山田は間一髪で下に避ける。


ライ・トール:「あ~う~がが~が」

宮部:

「ひぃ!」


向かって来た電線をジャンプして避ける。


ライ・トール:「あ~がが~」

落合:

「おっと!」


上から来た電線の束を、軽やかなステップと身のこなしで避ける。銃弾の集中砲火を浴びたライ・トールは、目が破裂した後悶え苦しみ下水の底へ沈む。


宮部:

「やっと、倒したぁ~」


山田:

「ふ~疲れたぁ~」


落合:

「2人共!休んでる場合じゃないです!!来ました!」


近くの下水から大量のアイミンとノーミンが、こちら目掛けてやって来る。

本当に休む暇は与えてくれないようだ。


山田:

「急いで梯子へ!!」


慌てて3人は足場の悪い足下を気にしながら進む。

先に宮部を梯子に上らせ、後から男2人が梯子を上る。


落合:

「来た!!急いで上って!」


山田:

「マンホールを開けて!!」


下を見るとアイミンが梯子に手を賭けて、上ろうとしてくるのが見えた。

宮部は息を上げながらマンホールの蓋を押し上げる。光が差し込み、薄暗い地下を照らす。希望の光に宮部は決死の想いで、手を伸ばす。    

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