リンボー 怒りの脱出

真山砂糖

怒りの脱出!

 俺は特殊工作員。グリーンベレーに入りたかったんだが、試験に落ちた。だからずっとフリーの傭兵をしている。今回はある企業から依頼を受けてジャングルへやって来た。

 俺は昔からジャングルが嫌いだった。蛇や昆虫がいるし、湿気が多いからだ。だから今回の仕事は、俺にとって非常に厄介なものだった。だが俺は仕事を引き受けた。娘の学費を払うためだ。娘のためなら俺は何だってできる。

 仕事の目的は、ある原住民の宗教儀式についての調査だった。その原住民はジャングルの奥深い特定の場所にいることがわかった。彼らは、周囲200メートルほどで、周りを崖に囲まれた小さな森の中で儀式を行うらしい。その森へ通じる道はただひとつ、丸太で作られた橋しかなかった。俺はその橋を渡り、その小さな森の中へ足を踏み入れた。

 俺は森の奥へ入って行った。しばらく歩くと、原住民たちが大きな石像に向かって儀式を行っていた。彼らは俺に気づいたが、儀式を続けた。俺は写真を撮った。彼らの服装、表情、儀式、石像などを。そして、儀式が終わった。彼らは、散り散りにその場から離れ去った。俺は祭壇とそこに置かれた石や木などの道具も写真に収めた。石像をいろんな角度から撮った。そして俺は帰ることにした。

 俺は来た道を戻り、森から出る唯一の橋まで来た。そこには原住民が十数名待機していた。彼らは焚火を起こし、両端に火のついた棒を振り回していた。そして、橋のすぐ手前に、地面から50センチメートルほどの高さの位置に、一本のロープが張られていた。そのロープには油が塗られて火が灯されていた。

 俺は正直、焦った。彼らが俺に敵対心を見せているのではないかと思った。しかし、誰も俺を攻撃するそぶりを見せなかった。彼らは口々に何かを言っていた。俺はよーく聞いた。

「リンボー! リンボー! ウーーーー、リンボー!」

 そう彼らは言っているように聞こえた。

 彼らの一人が、上半身を後ろに反らせながらそのロープの下をくぐった。そう、リンボーダンスだ。

 俺は無視して、ロープをまたいで通ろうとした。その途端、彼らは全方向から長い槍で俺を威嚇してきた。つまり、リンボーダンスでロープをくぐれということだった。この森から脱出するには、それしか方法はなさそうだった。俺は覚悟を決めた。

 俺は服が引っかからないように、上半身裸になり、気合を入れるために鉢巻きを頭に巻いた。そして俺は叫んだ。

「ウーーーーー! リンボー!」

 原住民も俺に合わせてリズムを取り始めた。彼らの内数名が太鼓を叩きだした。気分は一気に最高潮だ。俺は徐々に姿勢を低く落とし、後ろにのけぞった。それから少しづつ前へ進んだ、姿勢をより低くしながら。まず、膝の辺りがロープをくぐれた。次に、腹が無事に通過した。勝負はここからだった。この苦しい体勢を維持しながら前へ進まなければならない。しかし、俺の足腰はもう限界に来ていた。この時、娘の姿が頭をよぎった。あきらめるわけにはいかなかった。

「ウオーーーーー、リンボー!」

 俺は無意識に叫んでいた。原住民たちもノッテきた。太鼓のリズムが速くなり、回す木の棒も速くなった。不思議と、全身に力がみなぎってきた。俺は慎重に前へゆっくり進んだ。そして、首がロープを通過した。後少しだった。だが、鼻がちょうどロープの真下にきた時、右足が、。その瞬間、おれはもうダメだと思った。ところが、彼らが盛り上げてくるのだ。

「リンボー! リンボー! リンボー!」

 その盛り上げが俺の右足を奮い立たせた。なんとか、体勢を立て直したが、足が前に進まなかった。と同時に、怒りの感情が湧いてきた。グリーンベレーの試験に合格していれば、俺はこんな危険な仕事を引き受けていなかったはずだ。そう考えると、腹の底から怒りが込み上げてきたのだ。俺を落としたグリーンベレーめ、俺の勇士を見ろ! 原住民たちと同じく、俺も叫んでいた。

「ウオーーーーー、リンボー!」

 鼻、額、そして頭が全部、ロープをくぐった。

「うぉーーーーーー、やったぜーーー!!!」

 リンボーダンスは成功した。原住民たちも飛び上がったり抱き合ったりして非常に喜んでいた。俺は彼らに一礼してから橋を渡った。俺は儀式の森からの脱出に成功したのだ。橋を渡り終えると、彼らが怒りの形相で追いかけてきた。どうやら、石像の目にはめてあった宝石を盗んだことがバレたようだった。

 俺は全速力で逃げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

リンボー 怒りの脱出 真山砂糖 @199X

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ