【6月28日】指輪の呪い

王生らてぃ

【6月28日】指輪の呪い

 右手の薬指につけた指輪。

 金色に輝く、シンプルで、それゆえに高級感の漂うデザイン。

 そんなに高いものではないけれど、わたしはそれが気に入っている。



「お揃いの指輪、作ろうよ」

「ええ?」

「ペアリングってやつ。ね、いいでしょ」



 社会人になって、はじめてもらったボーナスでわたしたちはこれを作った。

 指のサイズを採寸し、裏側にそれぞれの名前と日付けを刻印した。

 6月28日。それはわたしたちがはじめて、同じベッドで寝た日だ。



「ずっと一緒にいようね。約束だよ、この指輪に誓って」

「なに、こっ恥ずかしいこと言ってるの。いい大人になって」

「いい? この指輪で叩かれて、呪文を唱えられると、どんな言うことでも聞かなくちゃいけないの。天使は真鍮の指輪、鉄は悪魔の指輪」

「わたしはどっちなの?」

「どっちでもないよ。唯一無二のひと」



 せっかくの記念日なのに、今日はあいにくの雨模様だ。

 洗濯もできないし、外に出かけようという気にもならない。

 とりあえず昨日ためたままの食器を洗って、それから今日のスケジュールを考えよう。



「ね、次の休みはどこかに旅行に行かない?」

「旅行? 唐突だね」

「いいじゃん、わたし温泉に行きたいな。もう肩とか腰とか、ヤバくてさ」



 それからメールをチェックして、パソコンで適当に動画を見て時間を潰す。

 キーボードを打つたびに、右手の薬指の指輪が、金色に光る。

 きらきらする。曇っていても、空は明るい。



「ごめん。もういっしょには暮らせない。ごめんね……」

「ううん。決めたことだもん、仕方ないよね」

「ありがとう……でも、最後に今日だけは、いっしょにいさせて……」



 飽きてきたので、ベッドで昼寝をする。

 ベッドからはわたしのものじゃない、誰かのにおいがする。

 誰のにおいだったかな。わたしは、もうその名前を思い出せない。



「やめて……!」

「わたしのものにならないなら……あんたなんかいらない……!」

「やめ……っぐ……!」



 何気なく額の上にやった右手の、指輪がこつんとぶつかった。

 もう何年も外していないこの指輪。

 この先何十年も、永遠に外れることのない指輪だ。



 あの日、わたしは電気の消えた暗い部屋の中で、ライターの明かりを求めた。

 そして震える左手で火を点けたあと、右手の薬指の指輪を火で炙った。

 皮膚と指輪がとけてくっついて、もう二度と外すことが出来ない。

 時どき、皮がつっぱって痛いけれど、それも、心の痛さに比べれば、なんてことない。



 この指輪の後ろのイニシャル。

 もう誰も見る事ができない。



「大好きだよ」

「わたしも……」

「ね、ずっと一緒。約束だよ」



 って、そう言ったくせに。

 見捨てられたわたしはいったい、どうやって生きていけばいいの。

 答えてくれるはずのあなたは、もうどこにもいない。

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【6月28日】指輪の呪い 王生らてぃ @lathi_ikurumi

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