自分のロゴを作るときに気をつけたいこと

ちびまるフォイ

およそ人間にはマネできないほど複雑なロゴ

「い、入れ墨!?」


転校した先の学校では学生にも関わらず

みんな体のそこかしこに入れ墨を入れていた。


「あはは。これは入れ墨じゃなくてロゴだよ。

 みんな自分の友だちのロゴを入れてるんだよ」


「ホントだ……。よく見ると名前になってる……のもある」


印鑑みたいにわかりやすいロゴもアレば、

ドラゴンがデザインされていたり、

芸術的すぎて何の模様かもわからないロゴもある。


「この学校じゃ自分のロゴを持つのが普通。

 君も自分のロゴ持っておかないと友達できたとき困るよ」


「そんなLINEみたいな感じで進められてもなぁ」


自分でもロゴを準備しておこうとノートを開いた。

いくつかペンを走らせてみたもののしっくりこない。


というか、そもそも正解がわからない。


「苦労してデザインしたのにクソダサかったら嫌だしなぁ。

 他の人はいったいどんなロゴにしているか勉強しよう」


学校を歩いて生徒のロゴを見て回ることにした。

ロゴを入れる部分は人それぞれで、肩や首、手など見やすい部分にロゴもあれば

聞くと、お尻やおへそ、太ももなどマニアックな場所にロゴを入れる人もいる。

「本当に親しい人だけがロゴを見られる」という状態にしたいらしい。


「……なるほど。まったくわからない……」


多くの人のロゴを見て気づいたことは、

クラスの人気者のロゴはやっぱり多くの人が入れていた。


シンプルで洗練された人気者のロゴは、

それを体に刻むだけで「人気者グループ会員」となれる。

"他の人とは違う"という点に惹かれているのだろう。


なんだか急に自分が必死こいて自分ロゴを作ろうとしている姿がバカバカしく思えてきた。


「……友達もできやしないのになにやってんだろ。

 仮にロゴが出来たとして、誰がこれを入れるっていうんだ」


自分には人気者になれる要素なんてなにもない。

誰かが自分のロゴを入れたら"あの根暗の友達かよ"と不名誉になるんじゃないか。

なんだか申し訳ない気持ちで胃が痛む。


「もういいや。入れた人が恥ずかしくならないように

 人気者のデザインに似せたものにしちゃおう」


自分の人柄を表現する気ゼロで、人気者へ寄せたロゴが出来上がった。

ロゴが出来上がると学校の自分の机の左端に印字される。


これを見た誰かが「なにこれパクりすぎ」などと笑ってくれれば

もしかしたら友だちになれるきっかけが生まれるかもしれない。

そんな淡い期待を描いていた。


「あ! お、俺のロゴ!?」


驚いたのは自分のロゴが、まさか全然知らいない人に刻まれていたときだった。


「へへ。いいでしょこれ? B組の隼風くんのロゴなんだ」


「ソ……ソウダネーー……」


自分が大きな誤解をしていたことに気づいた。


あんなにたくさんの人が人気者の隼風くんと友達となって、

そのロゴを体に刻めるなんてチャンスは多くないはず。


みんな勝手に、隼風くんの許可もなく刻んでいるから

どいつもこいつも「人気者グループ」になっていたことに。


そして、そんな人気者特権に目がくらんだ人たちは

それがパチもんのロゴかどうかなんてわかりっこない。


「間違えて俺の机のロゴを入れちゃったんだ……!」


漢字がわからない外国人が「クールだ!」と思って、

意味を知らないままに漢字をタトゥーするように。


新入生が入るとどんどん悪い方向へとことは運んだ。


事情をよく知らない新入生は偽ロゴを人気者のと誤解。

誤解した人を見た人がそれを真似てしまう偽物パンデミック。


同じようなロゴが2種類あることを知っていてもなお

「なんかこっちのがおしゃれじゃない?」と選んで偽ロゴを入れる始末。

きっと彼らにはコーラとダイエットコーラくらいの差しかないんだ。


「どどどどどうしよう……こんなに大ごとになるなんて……!

 人気者のグループの過激派に家を焼き払われるんじゃないか……!?」


そんなつもりはなかったのに人気者のロゴをおとしめようと

自分が悪意を持ってロゴを作ったんじゃないかと思われるかもしれない。


怒り狂った人気者クラスタが自分の首をちぎり取って、

それを槍の先に取り付けて、笑いながら踊る地獄絵図が浮かんだ。


「先生もきっと人気者の味方をするに違いない。

 もうまっとうな人に助けは求められない……だったら!!」


覚悟を決めて、とある埠頭の貸倉庫へと向かった。


「坊主、てめぇ、ここがどこだかわかってるのか?」


「もちろん。ちゃんとGPSマップで調べてきたから」


「そういうことじゃねぇ。ここはオレら試供品ギャングのアジトだ。

 てめぇみたいなガキが入ってくる場所じゃないんだよ」


「それも知っている。だから来たんだ」


「なんだとぉ?」


「あんた達のロゴを俺に入れさせてほしい」


「はっはっは! 何を言い出すかと思ったら!

 オレたち試供品ギャングへ入りたいのか?」


「いや全然」

「え?」


「ロゴだけでいい。貸してほしい」


「言ってる意味がわからねぇが、何の目的だ」


「実は俺は非常に危険な集団に追わる運命にある」


学校にはびこる人気者グループという名の過激派テロリストに。


「ここのロゴが俺の体に刻まれていることがわかれば、

 みんな恐れをなして襲うこともなくなると思っている。

 だから、ここのロゴを入れさせてほしい」


スーパーの試食品や化粧の試供品、ホテルのアメニティを持って帰る

危険な試供品ギャングとつながりがあると知ったらみんな手出しできないだろう。


「ははは。おもしれぇ。勝手にうちのギャングを名乗るやつもいるのに

 お前ときたら、たったひとりで頭下げにくるとはな!

 いいぜ。うちのロゴを使わせてやる」


「ありがとうございます!」


「じゃあよく見るんだ。間違うんじゃねぇぞ」


ギャングのリーダーはタンクトップを脱いで背中を見せた。

背中にはギャング代表のマークとは別に様々な裏社会関係のロゴが刻まれている。


その中に。


「は……隼風……!?」


見覚えのある人気者のロゴを見つけてしまった。

まさかあの人気者が裏社会とつながりがあったなんて。


「どうした? 早くしろ。もういいのか?」


「あ……ああ……」


人気者が人気者で有り続ける理由。

それは仲間への信頼や貢献が為せる技だろう。


裏社会のバックボーンがあれば友達をいじめた不良どもに

こっそり報復することもわけないはず。


「も、もういいです! 失礼します!」


ギャングのロゴを入れる前に倉庫を出てしまった。

自分が偽ロゴを作ったとバレればどうなるかが怖くてたまらない。


けれど、もう遅かった。


「君だね? 僕のロゴと似たロゴを作ったのは?」


「はっ……隼風くん……!?」


人気者ネットワークで自分の所在を突き止めた隼風くんが、

多くの仲間達と引き連れて埠頭に集まっていた。


「隼風くん、そんな偽物殺しちゃおう!」

「隼風くんの評判を悪くさせようとしたのね!」

「隼風の人気にあやかろうなんて信じられねぇ!」

「そいつの家族もぶっ殺してやる!!」


過激派のメンバーは血を見ないと収まらないように怒り狂っていた。


「どうして、僕のをデザインしたのかな?」


「あばばばばばばばば」


陰キャ特有の急に話しかけられたときに言葉が出ない症の発作が出る。

隼風くんの後ろのギャラリーは鼻息荒くしている。


「偽物だと気づかずに刻んだ人もいるんだぞ!」

「こんな恥ずかしい偽物を見せびらかしていたなんて!」

「深海で土下座しろ!! 早く海に飛び込め!」


隼風くんは闘牛のような仲間たちに柔らかな流し目で答えた。


「みんな落ち着いてくれ。僕は彼を断罪したいじゃない。

 ただロゴを変えてもらいたいだけなんだ」


便器の裏の尿石汚れよりも価値のない人間に対して

こんなにも慈悲深い心がある隼風くんにみんなうっとりする。


「「「なんて優しい人っ……!」」」


女性は失神し、男性はその男らしさに女体化すら始まる。

自分のような生ゴミに抵抗の余地はない。


「それじゃ明日までにデザインを修正しておいてくれ。

 先生にはデザイン修正の依頼を出してある。

 君が明日までに学校で提出すればそのまま浸透するだろう」


「は、はい……」


「もしデザインしてこなかったら……」


隼風くんは倉庫をアゴで指した。

あとは裏稼業の仕事だと言っているのだろう。


一時は隼風くんの温情により車裂きの刑にはされなかったものの、

ロゴの修正は簡単にできるものじゃなかった。


「どうすればいいんだよ! 新しいロゴが全然思いつかない!」


もしも新しくデザインしたロゴが既存のとかぶっていたら。

またパクったと思われてしまうんじゃないか。


すでに前科がある手前、反省していないともっと怒られるんじゃないか。

漁船に乗せられて寒い海で永遠にカニ漁させられるんじゃないか。


悩んだ末にひり出したのはコピー不可能で、

誰もマネできないほど複雑で意味不明な模様だった。


「できた……これなら誰も絶対マネできない……」


部屋のカーテンの向こうが青白くなった頃。

急に訪れた眠気て机に突っ伏してしまた。


翌日は盛大に遅刻した後に、先生に新しいロゴデザインを提出した。


ロゴが学校サーバーに登録されると、

これまでの偽ロゴは上書きされて消えてしまった。


「よかった。これで何もかも解決だ……」


心身ともに平穏な学校生活がふたたび訪れた。

これでもうビクビクせずに生活ができる。


と、安心したその日の下校時だった。


歩道に幅寄せした真っ黒なワゴン車から黒いスーツとサングラスの男が出てきた。


「ちょ、ちょっと!? なんですか!?」


抵抗もまもなくワゴン車に乗せられる。

あまりの早さに抵抗する間もなかった。


ワゴン車に乗っている男たちは全員スーツの左胸に

宇宙をデザインしたようなロゴをつけている。


「あ、あなた達は誰なんですか! 俺が何をしたっていうんですか!」


男たちは懐から銃を取り出し眉間に突きつけた。




「言え! どうして宇宙人が残したミステリーサークルと

 まったく同じロゴをデザインできた!!

 まだどこにも公開されていない国家機密だぞ!!!」

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