第十七話 お兄ちゃんお客様に厳しすぎないですか!?

「で、でも、バラバラになることで成功率が下がっちゃうんじゃ本末転倒じゃない!? 今やっとDランクでクエストがこなせるようになったってセルカちゃんが言ってたばかりなのに、突然各メンバーが一人でクエストをこなせって、流石に無茶だよ、お兄ちゃん!!」


「こ、コトミさんの言う通りです!! Dランクのクエストでさえ、私たち五人で精一杯なんです……。一人でクエストをこなすだなんて……!」


 兄はセルカの訴えかけにすぐに返答せず、しばらく沈黙した。

 何も話さない兄は不気味で、ざわざわしていたセルカのパーティもつられて口を閉じてしまった。


 青空教室がシーンと静まり返る。


 全員が口を閉じ、兄の顔を見上げると兄は再度授業を続けた。


「……先ほども言ったが、デイゴンさんには既に話してある。俺自身だけでこの案を考えたわけではない。デイゴンさんも、セルカちゃんたちの努力次第で可能だというお墨付きももらっている」


「で、デイゴンさん、それは本当でしょうか……?」


 セルカはデイゴンに問いかける。


「……マコトくんの言う通り、出来なくはない。わしも昔Aランク冒険者をやっていた時にはCランクのクエストを一人でこなしていた。わしが出来た以上、出来ないわけはない。努力次第では十分可能だと、わしは考えている」


「で、でも私たちがデイゴンさんのようになるなんて……」


 兄が言うようにデイゴンは兄が考えた戦略に同意しているようだ。

 このパーティの監督といえる二人が同じ方向にアクセルを踏み込もうとしているが、乗員であるセルカとそのパーティメンバーはまだ乗車できてない。私も乗り遅れそうになっている。


 セルカは戸惑いを隠せない。


 格下ランクのクエストであれば多少パーティメンバーを減らして臨むことは可能かもしれないが、同ランクのクエストを一人でこなすなんて、無謀である。

 ただ、その一方で自分の師であるデイゴンが背中を押してくれている。その現状を目の前に、心境はますます複雑化しているのだろう。セルカはパーティメンバーとチラチラ目線を合わせたまま、うつ向いていた。


「わしは……セルカと皆にわしの全てを教えるつもりだ。しばらくは辛い修行を強いることになるかもしれないが、それでもわしは君たちにモースの希望を託したい」


「デイゴンさん……」


 兄から聞くにデイゴンは非常に優秀な魔法使いだったらしい。

 どうやって情報を仕入れたのか分からないが、デイゴンは昔Aランク冒険者として名を轟かせていたのだとか。


 デイゴンは冒険者として活躍するものの、高齢になるとパーティメンバーも散り散りバラバラになり、デイゴンは故郷であるモースに戻ったのだ。村の用心棒をしながら、魔術教師に就任することに決め、そのままモースで骨を埋めるつもりだったらしい。


「わしはモースの村の人々を守ることが出来なかった。それはセルカちゃんや皆の親を守れなかったということだ……わしはいくら魔法を極めても、死んだ人を生き返らせることはできない。唯一わしが出来ることは、次の世代にわしの学んだことを託し、モースの復興に繋げてもらうことしかないのだよ、セルカ」


 村への強い愛と人格から住民からは強く親しまれており、彼も全ての住民の顔と名前を覚えていたという。

 だからこそ、ハーピーによって村が滅ぼされたことに責任を感じ、なおかつ生き延びてしまったことに罪悪感を感じているのだ。


 デイゴンが一通り話し終えたタイミングで兄が口を挟む。


「……セルカちゃん、君が強くなれるかどうかは君次第だ。君が今ここで『なりたい』といえば、俺たちは全力でサポートする。だが、なりたくないといえば俺たちはここまでだ。あくまでも俺はセルカちゃんに雇われたアドバイザーでしかない」


「お兄ちゃん、そんな厳しいこと言わなくても……」


「コトミ、俺は自分が変わろうとしない人に時間を使いたくない。単なる時間の無駄だ」


 先ほど突然沈黙したときと同じ空気が流れる。

 魔物に襲われているわけでも、借金取りから逃げているわけでもないのに、場に緊張感が流れる。


「セルカちゃん、――君は自分の目的のために努力出来るか? ――モースを復興するために腹を括れるか? 俺が聞いているのはそれだけだ。決して難しいことじゃない。……君が努力出来るのであれば、俺たちは君と同じぐらい、いやそれ以上の支援をすることを約束しよう」


 デイゴンは兄の言葉を聞くと笑顔で頷く。

 どうやらデイゴンは兄と一緒に腹を括る覚悟でいるようだ。


 セルカはしばし悩んだ後、隣に座ったパーティメンバーと目線を合わせる。

 笑顔ではなかったが、その表情には決心が宿っていた。


 師であるデイゴンの言葉、そして兄の言葉。

 それらを総合したで彼女らの意見は、口に出さずともまとまったようである。


 セルカはパーティを代表して、私たちに告げる。


「……わかりました。最短でAランクになってみせます」


 セルカはパーティメンバーと一緒に立ち上がり、丁寧にお辞儀をする。


「……デイゴンさん、マコトさん、宜しくお願いします!」


「「宜しくお願いします!」」


 青空の下、五人の女の子が最強の魔法使いパーティになることを宣言した、記念すべき瞬間だった。

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