第十六話 最速でパーティランクを上げるにはどうすればいいんですか!?
「さて、今日は皆さんにお集り頂いたのは他でもない。これからのセリカちゃんのパーティの戦略について共有したいと思う。因みにデイゴンさんには既にお話済みだ。ほぼ決定事項であると認識しつつ、聞いてほしい」
「はい!!」
セルカとそのパーティメンバーご一行は元気よく返事をした。
デイゴンの家の庭に集合し、セルカのパーティメンバーと一緒に体育座りをしながら兄の授業を受ける姿勢を取る。
空の下で地面にお尻をつけながら人の話を聞くと、体育の授業を思い出してしまう。
「セルカちゃんには言ったと思うが、パーティランクを上げるためには二つの要素が必要だ。一つが成功するクエストの絶対数を増やすこと。二つ目が、受理したクエストの成功率を上げることだ」
「はい、先日の自主練の時にお伺いしました」
「審査自体は随時されている。二つの要素が十分に満たされ、クエスト管理協会の評価部隊が次のランクに挙げてもよいと判断した場合、次のランクに上がることが許されることになっている……まあ、セルカちゃんたちは既にEランクからDランクに上がっているから、ここら辺は俺たちよりも知っているだろうがな」
セルカとそのパーティメンバーは兄を見上げたまま頷く。
どうやらそれを知らないのは私だけのようだ。
「因みにDランクからCランクまで上がるのに平均で二年。CランクからBランクに上がるのは平均で三年だ。因みにBランクからAランクへあがるのは一気にハードルが上がって平均十年はかかると言われている。普通に行けば十五年はかかる」
「十五年……!」
昨日一日ずっと本を読みながら紙に落書きをしていたが、恐らくここらへんの情報収集と分析を行っていたのだろう。
ネットもないこの異世界で良くそこまで調べ上げられたな感心してしまうが、それ以上に途方もない準備期間に驚きを隠せない。
「十五年もかかるのでは……やはり難しいですね……」
Aランクまでの道のりがナイトメアモードである現実が突き付けられる。
十五年なんて待っていたら、私も三十台に突入だ。
冒険者は結局は体力仕事であり、高齢になるにつれてパフォーマンスも落ちていく。
十五年の耐久戦に勝てる冒険者はやはり少数であり、だからこそAランク以上は誰もがうらやむ称号となっているのだ。
「ああ、このままでは難しい。地道にクエストをこなしていくのであれば、十五年かかることになる。十五年だとどこかの断面でクエストは受理されてしまうだろうし、仮に中々受理されなかったとしても、ハーピーがこのまま野放しになるのも気持ちよくはない」
「ハーピーが野放しになるのは……嫌です……!」
ランクアップの難しさを噛み締めた一方で、敵討ちを一日でも早くしたいという気持ちがぶつかり合っているようだった。
デイゴンもセルカの感情を察したのか、優しい目でセルカを見つめていた。
「……ああ、このままでは無理だ。――だが、俺とデイゴンさんに任せれば五倍の速さでランクアップできる」
「ご、五倍!? Aランクまで三年ってこと!? お兄ちゃん、正気!?」
「DランクからAランクまで三年って、そんなの聞いたことありません……! ま、マコトさんは異世界からいらっしゃったのであまり感覚が沸かないのかもしれませんが、不可能です……!」
今まで比較的兄の発言に同意していたセルカも、流石に兄の発言は耳に引っかかったようだった。
「俺は異世界から来たが、全部知ってる。過去最速でDランクからAランクになったパーティは十年かかった、俺たちはその五倍を目指す。つまり、最速で二年でAランクになることを目指す」
「そんな、無茶な……!!」
セルカが驚くのも無理はないだろう。
前例がないだけではなく、記録を大幅に上書きしようと兄は言っているのだ。
人類が五十メートルを九秒台で走り切っているところを、二秒台で走り切れと言っているのだ。
もはや電車である。「人間ではなく山手線になれ」、兄のセルカへのメッセージはつまりそういうことである。
「いや、可能だ」
「そうは言うけどお兄ちゃん……どうするつもりなの?」
兄は一歩も引かなかった。
異世界の常識からすればセルカの感覚が正しいのだろうが、兄は最後まで自分の意見を曲げないつもりらしい。
「パーティ全体で一つ一つクエストをこなしていたら、不可能だ。だったら、――全員が手分けしてクエストをこなせばいい」
「手分けして五倍……って、えええええええ!? お兄ちゃん、本気で言っているの? 正気なの!?」
セルカのパーティメンバーも兄の思考を読んだようで、少しざわざわし始めた。
「見ての通り、セルカちゃんのパーティは合計で五人だ。単純に割り算をすれば一人一人が違うクエストをこなせば並行してクエストは五倍の速さで処理できる。成功すること前提だが、これならクエストの絶対数を稼げる。――五倍速の根拠はここにある」
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