異世界転生してヒャッハー出来ると思ったら膨大な借金を押し付けられて、冒険者の経営アドバイザーにさせられるってヒドすぎませんか!?
もぐら
第一章 マイナスから異世界生活が始まるなんて信じられないですよね!?
第一話 トラックに轢かれて死ぬって、テンプレ過ぎませんか!?
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……!」
それは突然の出来事だった。
私の兄、新藤マコトは突然の不慮の事故で亡くなった。
コンビニに行くときに大型のトラックに轢かれるという、どこかのライトノベルのテンプレのような方法で短い生涯を終えた。
例え私の兄が典型的なテンプレのような死に方をしたとしても、兄は異世界へ転生しないだろうし、ここでのお別れが今生の別れ。私は確かにかなりライトノベルを嗜んでいる系の女子ではあるが、現実と空想の違いぐらいは理解しているつもりだ。
トラックに轢かれたとしても、それはただトラックに轢かれただけ。
トラックに轢かれてもふと異世界への扉が開くわけではない。
現実にはそんなフラグ的なものあるわけがないし、異世界なんて存在も私は信じていない。
私が想像するに、兄は安らかに天国でハンモックに揺られながら、私たちが向こう側に行くことを気長に待ってくれているに違いない。そうだ、そうに違いない。
「コトミちゃん、ほら、もう泣くのをやめなさい……他の人もいることでしょうし」
「えっぐ……えっぐ……すみません、お母さん……もうちょっとだけ……」
私は悲しみのあまり、棺の前で立ち上がる力がなかった。
ただ、私は知っている、兄は私たち家族だけのものではないことを。
新藤マコトはこの世界を股にかける大企業の一つであるシンドウコーポレーションの代表取締役だった。
若い敏腕経営者としてテレビで取り上げられない日はなく、それは日本の首相ですら空気になるほど、兄の存在感は大きい。日本の首相がわざわざメディアで取り上げられるためだけに兄とのツーショット画像を某有名SNSにアップしたといわれるほどだ。酷く情けないが、実際そのツーショットは万単位でシェアされた。
「……マコトさんがいないと、これからどうすれば……株価の下落が止まらない……!」
経済学者の中では「シンドウコーポレーションが潰れれば、世界経済は不況に陥るだろう」と論じる人も少なくなかった。
それもそうだ、兄は手を出した全ての事業をことごとく成功させ、人々の生活はシンドウブランドの商品で埋め尽くされていた。「マーケットシェア? やれば取れるじゃん、そんなもん」とメディアの前で言い放ち、炎上騒ぎになったこともあったが、それほどカリスマ的な経営者だったのである。
食料品、美容品、日用雑貨はもちろんのこと、水道、電気。銀行、インターネット事業、その他諸々がシンドウに埋め尽くされていた。シンドウがなければ、人々は水も飲めないし電気も使えない。もはや着る服もないので、全裸になるしかない。それほどシンドウは人々の生活とともにあったのである。
この棺も、葬儀屋も、全てシンドウコーポレーション傘下である。
まさにゆりかごから墓場まで。ぬかりはないのだ。
「マコトさまああああああ!! 私も、私もついて行きますうううう!! あなたがいない世界なんて、もういらないわあああああ!!」
ナイフを持った女性が団体となって、葬式の外で叫んでいた。
ムキムキのガードマンによって止められているが、葬式にしては場違いなぐらい騒がしい。
まあ、こんなことよくあることだ。兄の長身長で端正な顔立ちから、結婚したい芸能人ランキングでは堂々の一位だったし、熱狂的なファンクラブも数多くあった。
ヤフ〇クで兄の使った櫛が美容師に出品され、数百万円で落札された時は流石に鳥肌が立ったが、今では私も小遣い稼ぎに兄の使用済み耳かきを出品したりする。これも数十万で売れるので、割といい稼ぎになるのだ。
そんなことはどうでもいいのだ。
私の兄の使用済み綿棒がヤ〇オクで数十万で落札されたということを思い出しても仕方がない。
私はとりあえず悲しいのだ。
兄とは直接の血の繋がりはなく、私の母の再婚相手の子供が兄だった。血は繋がっていなかったものの、年の近かった兄とは遊びに行ったりもしたし、兄弟というよりも友人のような関係を気付いていた。
帰宅するたびに脱ぎたての靴下を私に投げてきたのも、当時は顔面パンチを食らわせるほど激怒したものだが、今になってはいい思い出だ。その靴下の匂いももう一生嗅ぐことはないのだろう。それこそ異世界転生でもしない限りは。
「グスン……お兄ちゃん……」
私が兄の遺体に覆いかぶさるように泣いていると、突然足元が明るくなる。
「あれ、え、え、え!? 何これ、何これ!!! きゃああああ!!!」
葬式にこんな演出はなかったよな、と考えているうちに魔法陣のような紋章から放たれる光が益々強くなる。
まさか兄の遺言で葬式は派手にしてほしいとかでも書いてあったのだろうか。
兄ならやりかねないが、それはそれで悪趣味だし第一私に向かってこんなに強い光を浴びせる理由はない。最後の最後まで私にいたずらするつもりだったのだろうか。
眩しい光に耐えられずに私は腕で目を覆いかぶせる。
しばらくすると、光がやんだようで、私は目を開けた。
暗い空間の中で青白い光が言霊のように漂っている。
これも演出なのだろうか、それにしては凝った内容である。葬式でやるレベルではない。
私が立ち上がって進んでみることにする。言霊が私を導くように道を作ってくれた。
すると、遠くに人影が見える。
「おう、コトミ、来たか!」
「お、お兄ちゃん……?」
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