22 敵の操縦者の女の子が空から落ちてきました
恵里菜さんの依頼でアマテラスの機体を探すため、大鳳学院に通うことになった。
「咲良、俺は運動したいから歩きで学校に行くよ」
いくら弟の振りをしていても、美少女の咲良と一緒に登校すればギャラリーに囲まれる。そうなれば友達を作ることが出来るか分からない。
「もう、響矢ったら」
残念そうな咲良とは別の道を通って、徒歩で大鳳学院へ向かった。
学校は私服OKらしい。
咲良は着物だが、俺は今まで通り洋服を着ることにする。
肩に掛けた鞄には筆記用具と狸をつっこんだ。狸は黒い前足を鞄のふちに乗せて、遊園地のカップに入った子供のように楽しそうだ。
地図を片手に歩いていく。
「これが学校? 寺みたいじゃないか」
学院は、京都の本願寺もかくやという門構えだった。
おみくじでも売っていそうな受付で手続きを済ませると、校内の探検を始める。
「御門さんとの待ち合わせまで時間あるし、いいよな」
上級生である御門さんが、学校の案内をしてくれる予定だった。
待ち合わせと言えば、前回、御門さんと待ち合わせた時は敵が攻めてきてトラブルが起こった。
しかし、普通そう何回もトラブルに巻き込まれる訳がない。
ちょっとぐらい良いだろう。
そう考えた俺を、油断していたと責めないで欲しい。
だってまたトラブルに巻き込まれるなんて、思わないじゃないか。
「おい、命が惜しかったら、私を外まで案内しな!」
突然、上から飛び降りてきた金髪の女の子が、俺を踏みつぶし、ペンで目を狙いながら脅迫してきたのだ。
「ど、どちらさま……?」
女の子は、異国の彫りが深い顔立ちをしている。肌の色は薄いチョコレート色で、舐めたら甘そうだ。
年齢は俺より少し上か。
長い金髪はいわゆる巻き巻きのドリルヘア。紺碧の瞳とあいまってお姫様のような容姿だったが、浅黒い肌と攻撃的な表情で、野生の豹のような雰囲気が上書きされてしまっていた。
はてさて、この声はどこかで聞いたような……?
「あ……カリブディス?」
「なんで私の機体を知ってる?!」
首を絞められそうになった。俺の下では狸がバタバタもがいている。
大神島を襲った敵の古神カリブディス。その操縦者は、確か張りのある女性の声をしていた。
「くそっ、このスクールには、パイロット関係者も通っているとイチジョウは言っていたな」
「ごほっ。なんで敵国の操縦者がここに?」
「そいつは私が聞きたいんだよ!」
女の子は俺の首から手を離し、オーマイガーと嘆いた。
「投降した敵国の操縦者は、拷問して情報を吐かせたら始末するのが普通さ。いくら私が世界的にも希少な
「さあ、俺には何とも……」
捕まえた敵国の操縦者が俺たちと同年代だからって、一緒に学校に通わせようだなんて、確かに普通じゃない。
「よく分からないけど、大人しく勉強する振りをして、自分の国に帰る機会を伺うってのはどうだ? 今は天岩戸も閉じちゃってて、外に出られないだろう」
「言うねえ。私が敵だって、本当に分かって言ってるのかい? 坊や」
「とりあえず
みっともなく嘆願すると、彼女はペンを鞄にしまって、俺の上から退いてくれた。
「面白いね、あんた。名前は?」
「こ…西園寺響矢」
最近ころころ名字が変わっている気がするぞ。
ここでの偽名を名乗ると、彼女は「サイオンジ、ナリヤ? サイオンジサクラの関係者か? 有名なパイロットの名前は知ってるつもりだけど」と呟いた。
「私は、アレクサンドラ」
「ええと、なんと呼べばいい? サンドラさん?」
「日本語は、さん付け、くん付け、だとか、面倒くさいねえ。どっちでもいいよ、サンドラでもアレクでも」
サンドラは外国人なのに日本語ペラペラだ。
どこで勉強したんだろうな。
「ナリヤ、あんた、私のカリブディスを撃墜したパイロットを知ってるかい? ここに来れば会えるとイチジョウが言ってたんだが」
「!!」
俺がカリブディスを撃墜したアマツミカボシの操縦者だと、サンドラは気付いていないようだ。
「し、知らないよ」
「ふーん。まあいい。ナリヤ、この機甲舎というところまで、案内してくれないかい?」
「あれ? 目的地は一緒か」
サンドラから校内図を受け取り、俺は驚いた。
御門さんとの待ち合わせ場所だ。
「よし。一緒に行こう」
俺は周囲の生徒の視線を気にしながら、待ち合わせ場所まで歩き出した。
この学校で友達を作りたかったが、外国人だとパッと分かるサンドラと一緒だと誰も声を掛けて来ない。早くも友達作ろう作戦大失敗の予感だ。
「失礼しまーす。御門先輩?」
俺は、機甲舎と書かれた建物の引き戸をガラリと開いた。
この建物は、本棟から少し離れた場所に立っていて、倉庫のような天井の高い造りになっている。内部からはガシャンガシャンと機械の音がしており、煙突からは煙が細くたなびいていた。
「おお、響矢くん! ようこそ人造神器の研究をしている機甲舎へ!」
中で、白衣を着た御門さんが手招きした。
「めくるめく古神の世界へ君を案内しよう」
「普通に学校の事を教えて下さい」
「響矢くんは冷たいなあ」
御門さんは、適当な折り畳み椅子を広げて、俺とサンドラに座るように促した。
機甲舎内部には、古神の部品らしき腕や武器のパーツが置いてあった。奥には赤く燃える炉がある。そのせいか、室内は少し暑い。
「何のつもりだい? 敵国の操縦者である私を、こんな機密がありそうな場所に入れて。あんたら何を考えてる?」
サンドラは腕組みして、御門さんに詰問する。
「なぜ私を殺さない?」
「知っているでしょう、アレクサンドラ嬢。御印を持つ操縦者を殺せば、神に祟られる。私たち日本人は、信心深い国民性でね。神の祟りがどれだけ怖いかはよく知っている」
「日本は、世界的に見ても多くの古神を有している国だね。その理由が、これか」
「我が国は、古来から多くの神を受け入れて来ました」
御門さんは、サンドラがなぜここにいるか知っているらしく、物怖じしない態度で接している。友好的と言ってもいい。敵の操縦者なのに、不思議だ。サンドラじゃないが、俺も疑問に思う。
「アレクサンドラ嬢、もう本人から紹介を受けたかもしれませんが、彼は西園寺響矢。コノハナサクヤの操縦者である西園寺咲良の弟で、最近まで体が弱いので田舎で静養していました」
「……どうも」
御門さんは、改めて俺をサンドラに紹介する。
「響矢くん、彼女は外国の古神操縦者だ。いつか
サンドラはギリシャ人なのか。
「私の国を知っているのか?!」
俺は暢気な感想だったが、サンドラは違った。
御門さんを鋭い目で見つめている。
「もちろん、存じ上げています。
「……」
「我が国は多数の古神を有し、堅牢な天岩戸結界があるがゆえに、独立を保っています。ですが、世界の他の国々の操縦者は望まぬ戦いを強いられている」
パラレル日本の歴史は、そんな事になってたのか。
魔王とは何ぞや。
天岩戸の外はいったいどうなってるんだ。
「魔王を討ち、平和な世界を取り戻すために、貴女の力を貸して下さいませんか……?」
御門さんの言葉を、サンドラは「ふん」と鼻で笑った。
「ちっぽけな島国に何ができるんだい? その内に攻め滅ぼされるのがオチさ」
「それはどうでしょうか。うちの国には今、ちょっと特別な操縦者がいましてね……」
ちょっと特別? 誰か超強い操縦者がいるんだろうか。
首をかしげる俺を悪戯っぽい目で見た後、御門さんはおもむろに語り出した。
「さて、本題に入りましょうか。新入生の二人に、早速、人造神器と古神の違いについて解説をば」
「御門さん、学校を案内してくれ」
語りたくてウズウズしている御門さんの話をぶったぎり、俺は真面目に学校の案内をして欲しいとお願いした。
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