第84話 幕間:キラキラ王子の腹の中―①
「――では、協力はして頂けないと……」
「いくら殿下の頼みでも、無理なものは無理な話です。闘技大会は、この街の人々にとって最高の娯楽であり、生きがいだ。誉れ高き戦士と巫女を譲れなど――論外です。今年が最後である可能性がある限り、この祭りだけはこれまで以上に人々の心に残る物にしなくてはいけない。」
いつもニコニコ微笑んでいる、目じりに笑い皺が入ったおじいさん――海の都の領主から、鋭い視線が突き刺さる。
「今年で最後にしないために、お願いしているのですが? 」
「――なら海底都市にあるという証拠は? 」
「…………」
「おかえりください、殿下。私と話すよりも先に――女遊びに呆けて、至宝をろくに探しもしないと噂の聖女様の、お尻を叩いた方がよろしいのではないですか? 」
「……その噂はどこで? 」
「火のない所に煙は立たぬ、とでも言いますでしょう。」
(あのバカ……)
本当に、ミコトは余計なことをしてくれた。ただでさえ、“聖女の力もろくに使えない駄目聖女”の噂が立っていたところで……あいつがメイドに女騎士に、部屋に連れ込みまくったせいで!!
(俺だって知ったの5日前なのにな――)
ニッキーから聞くまで、知らなかったこの情報が地方まで広まっている。始めは耳を疑っていたが、あの見送りの状況を見て確信に変わった。少し目を離しただけで何がどうしてこうなった!? アルは一体何をしてたんだ!? こっちの気も知らずに、ポケッとした顔を思い出して、思わずため息が出る。
お披露目をしなかった状況も相まって、謎に包まれていた聖女の正体が――稀代の悪女になる日も早そうだ。見えない敵に隙を見せたことで、尾びれがついた噂が世を駆け巡り――2つ目の至宝を見つけた功績よりも、悪評のイメージが先行しているのだろう。
(協力しないヤツを説得している暇が勿体ない――)
駄目だと思ったらすぐに切り替える。これが俺流。真っ向勝負で作戦1つで挑んでいくなんてアホらしい。策は何重にも張り巡らすことで――面白くなってくるのだから。
〈ニッキー、プランBに行こうか。巫女の方はよろしく頼むよ。〉
〈へぇへぇ。マジであれやるのか……〉
(人々の心に残る祭りね――やってやろうじゃないか。)
古来からの伝統を――守り、伝え、受け継ぐ。
やるなら徹底的に、過去最高の祭りを作ってやるよ。筋書、演出は――俺の得意なことの一つですので。
〈そういや、若。領主の部屋漁っていたら、ついさっき、第3騎士団の方々が海の都に来たって情報が入って来たんだけど……アルのところだしうまく協力してもらえるんじゃないか? 〉
〈本当か!? 〉
プランBはプランCへ変更だ。いざというときに備えて、雇っていた傭兵チームだけでなく、騎士団チームも今回の祭りへ参加してもらおう。急遽決まった騎士団派遣――何やらきな臭いにおいはするが、国のためだ。使えるものは最大限使わせて頂く。
♢♢♢
「アル~入るぞ~。もう寝てんのか? 」
「――!? いや、寝てない。」
「――そうか。」
ベッドに腰掛け、少し落ち着かない様子のアルがいるが――何かあったのか?
正反対に、ミコトは今夜もスヤスヤと眠っている。これなら大丈夫だろう――
「よし、じゃあ出かけるぞ。」
「は? これから? どこへ?? 」
「君のお仲間のところへ――」
俺が単体で行くより、顔を知ったアルがいる方が、話が早そうだ。
「仲間だ? というかミコトは――? 」
「気持ちよさそうに寝ているし置いていく。ユキちゃんの結解があれば大抵のヤツは手出しできないだろう? 」
「だがしかし――」
モゴモゴ言う騎士様を言いくるめ、向かった先は、王国騎士団 海の支部。ユキちゃんは何やら研究していたしお留守番してもらう。あんまり夜更かしするなよ……
「カ、カルバン副団長……それに殿下!? 」
「夜分遅くにすまないね……フェイラート副団長と話をしたいのだが。」
「はい、ただいま!! 」
若くて利発そうな騎士が対応してくれた。応接室に通されて、しばらく待つ。
「……そろそろ教えてくれるんだろうな。今回の至宝の場所を。」
この男は、あまり多くのことは口にしないが、要所要所のポイントは確実に押さえてくる。そういう落ち着いたどっしり感がカッコよくて痺れるよな。同じ男として憧れる。部下に慕われているという評判も納得だ。
そんな騎士の慌てふためく顔を――一回りも年下の少年が引き出すのが非常に面白い。ミコトが関わると、アルは怒ったり真っ赤になったり、嬉しそうに食べる姿を見ては嬉しそうにしたり、何でもないことで甘やかしたり――無意識にいろんな表情をしている。俺は優しいので指摘はしないけど、貴重な様子を黙って観察させてもらおう。
(あぁ、違うな――水もか……)
昼間のアルを思い出して、フッと笑ってしまった。眉間にシワを寄せた怪訝そうな顔をされる。
(こんな風に、関わるとは思っていなかったなぁ。)
ミコトがいなければ――アルとも、ユキちゃんとも、ただ仕事が出来るヤツというだけで、それ以上にもそれ以下の関係にもならなかっただろう。つくづく不思議なご縁だ。
「何を笑っているんだ。」
「いや、ごめん。昼間のアルがかわいくって……」
「帰る……」
「ちょっ、待てよ!! ごめんって!! 」
本気で嫌そうな顔をしたアルを引き留める。
「今回の至宝のありかは、海底都市の中だと思っている。」
「海底都市ってあの……まさか!? 」
すごく嫌そうにアルが顔をしかめた。確かにアルにとっては最悪だろうな――海の底だし!!
「闘技大会の優勝者だろ? あそこに行くのは――」
「そう、だから俺たちはなんとしてでも優勝しないといけない。だから彼らに協力してもらいたいんだ。」
その言葉だけでアルは察したようだ。
ちょうどその時、部屋のドアがノックされ、フェイラート副団長が顔を出した。
「よぉ、アル! 見送ったと思ったらまたすぐ会ったな。それで、殿下――お話というのは? 」
この副団長は、朗らかでおちゃらけた雰囲気とは裏腹に目は鋭い――人の本質を見抜くかのような目だ。アルとフェイラート、どっちの副団長も敵には回したくないタイプだな。
「単刀直入に言えば、こちらの至宝探しに少し協力してもらえないかと思いまして――」
フェイラート副団長に今回の作戦について話す。
「あぁ~、事情は分かったが、ちょっと厳しいな。こっちの誘拐事件も情報が少なくて詰まっているんだ……」
「誘拐事件か……」
少年少女の誘拐事件は年々ひどくなっていく一方だ。国の混乱に乗じた悪だくみに捜査が後手後手に回り、救いの手を差し伸べられなかった事例が何度もあって非常に歯がゆい。
(子どもの笑顔を奪うなんて――)
胸糞悪くて吐気がする。しかし、用意周到なヤツらの足跡を辿って、犯人を捕まえるのも、その元締めを叩くのも――中々に難しいことで……
「早く助けないといけないしなぁ。」
気難しい顔をして、フェイラート副団長が呟く。誘拐事件には子どもの安全というタイムリミットという時間制限もかかってくるから、出来るだけ早く解決しないと……
「そんな危険な奴らがいるのか……俺らが闘技大会に出ている間のミコトの護衛はどうするんだ? ユキちゃんだけで? 」
騎士の顔をしたアルに聞かれる。初めはその予定だったけど、誘拐犯が近くにいるとしたら、綺麗な顔したその手の輩に喜ばれそうなのと、アホな顔したかわいい子のコンビなんて真っ先に………
――――カチリ
頭にピースがハマったような音がした。
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