第22話 モフモフ大パニック
「えぇぇぇ!!どういうこと!!!」
ずっと一緒にいた人が変身した…しかも肉食動物が目の前にいる…
ミコトの頭は大パニックだ。
「何をそこまで驚くの?」
ユキちゃんが不思議そうだ。
「そういえば言ってなかったね…アルフレッド・カルバン第3騎士団副団長はライオン獣人さんです。」
テヘヘって笑いながらジークが紹介する。
(そういうことは最初に言って!!アルも今まで時間はあったんだからいつでも言えただろ!出会って1ヶ月経つぞ!!)
頭の処理と心のツッコみが追い付かない。
「別に大したことではない。さぁ乗れ。飛ぶぞ。」
そういってアルはミコトが乗りやすいようにしゃがむ。
「いやいやいや。大事件だから!いきなり変身されたら驚くから!俺の世界獣人いないんだからな!!!」
(慣れてきたつもりだったけどビビるわ~異世界…)
「そうか…驚かせてすまなかった…さぁ乗れ。少しくらい
こいつどんだけ乗せたいんだ!とツッコみながら恐る恐るミコトはまたがる。正直、ライオンに乗るなんて某ファンタジー小説の主人公みたいでテンションが上がる。ただ、ずっと一緒に過ごしてきた青年にまたがっているという事実でドギマギしてしまう。
「そんなんじゃ途中で落ちるぞ…もっとちゃんと引っ付け。太ももでちゃんと俺の身体を挟め。ちゃんと重心を俺に預けろ。」
(うわぁぁぁぁ!恥ずかしすぎるよ!!!)
顔を真っ赤にしながらアルの指示通りに動く。どうしても脳内で人間ver.で想像してしまい、絵面のきわどさにドキドキしてしまう…
ふかふかの毛並みは正直気持ちいい、ずっと触っていたい。太ももや手のひらで感じる温かさも心地よく、全身でむぎゅっとしたくなる…
誘惑にかられるが、人としてアウトだろう。
耐えた。ミコトはかろうじて耐え、頭を目の前の壁に切り替えた。
「よし、行くか…助走の勢いで出来るだけ上まで行くから…絶対に離すんじゃねぇぞ。ちゃんとつかまってろ。」
アルは助走をつけ、壁に向かって飛びあがる。一段、また一段と、ひらりひらり、ジグザグに壁を上がっていく。足場も小さいし、上に上がれば上がるほど怖い。アルと自分の体重に足場が耐えられなかったら…そう一度思うとどんどん怖くなってく。下を見た瞬間におしまいだ…と思い、ミコトは
(あ、いい匂い…)
思わず癒されてしまった。
肩の力が少し抜ける。
「…ついたぞ。」
なんやかんやしている間にてっぺんまでついたみたいだ。
ぎゅうっとアルをつかみながら、恐る恐るミコトは顔を上げる。絶対に下のほうはみないようにしながら周りを見渡す。
ジグザグに飛んでいるうちに少し中心からずれたところに来ていた。
中心の壁の所から、白い光が漏れているように感じる。
「アル、向こうの出っ張りに移れる?」
「大丈夫だ。…さっきみたいにくっつけ。重心が低いほうが安定する…」
ええいままよ!と遠慮なく全身で抱き着いた。
こんなとこから落ちたら洒落にならないしね、ちっぽけな羞恥心なんて気にしてられない。
(それにしてもライオンの身体能力ってすごいんだなぁ)
軽く3~4mの距離を飛んでいく。さすが百獣の王。ネコ科だからか着地の衝撃もほとんどない。
(今度肉球を触らせてもらえないだろうか…)
人間切羽詰まってくると全然関係ないことを考えてしまう。
♢♢♢
光の傍の壁まで来た。ミコトはそうっと身を乗り出して壁に触れる。壁の向こうに何かがある。きっと至宝に呼ばれる感覚とはこのことだろう。根拠はないが確信できた。
「ここにあるのか?」
「そうだと思う…だけど…」
壁を上ることだけを考えて手ぶら出来てしまった。壊すための道具を何も持ってきていない。隠し扉的な感じで隙間があって指をひっかけられたりしないかな、そう期待してあちこち触ってみるが無理そうだ。
「どこらへんだ。」
「この光ってるところ!」
「光なんて俺には見えん…」
「えっ?そうなの??」
ミコトにしか見えてないらしい。となるといよいよ至宝の可能性が確信に近づいていく。
「どうしよう…一回下に戻って道具を取ってくるか…」
一度降りてまた昇ることを考えるだけで背中がゾクゾクする。高所恐怖症ではないが、これまでこんな高くまで、手すりや命綱なしにのぼったことはない。精神的にはもう限界だ。
(もっと魔法が使えて、壁を壊す術を持ってたらな…)
タラレバ話を考えていてもしょうがない。アルには申し訳ないがここは一度…ミコトが口を開こうとしたその時。
「ここの壁の向こうだな…
おい、下の奴ら気をつけろよ!!」
そういってアルが前脚を振り上げる。バリバリバリッと簡単に壁がはがれていく。
(ライオンつぇぇぇぇぇぇっ!!!)
壊された壁の中には…
透明感のある石の中で綺麗な虹色が揺らめく…万華鏡のように角度によって赤や青、緑などさまざまな色がのぞかせる、手のひら大の石があった。
その優しく弾けるような煌めきを持つ宝石にミコトはそっと手を伸ばす。ミコトの片手には少し大きいそれを両手でそっと包み込む。
「おーい!どうだったー!!」
下からジークが問いかける。
「あったよー!至宝見つけたよ!!」
王城の人たち、孤児院のみんな、出会った人々は出来るだけ明るく未来を見ていた。そんな日々の中にも、1年後に訪れる災厄への恐怖を隠せない瞬間があった。そのたびに自分の無力感に歯がゆい思いをしてきたが、これで1歩、希望へと近づいた。
胸に溢れる喜びの勢いで、ミコトは下の人々に見えるように至宝を掲げ、身を乗り出す。
「………ひぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
忘れてた。20m近い高さの場所に自分がいたことを。思わず恐怖で身がすくむ。
その拍子にツルッと、ミコトの片手には少し大きかった至宝が地上へ向けて落下した…
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