第14話 ピーチボーイは鉄板です

 

 もう寝る時間だが子どもたちはお客様に興奮して眠れないようだ。

 シスターたちも手を焼いている。きっと眠ったら大好きなジークと愉快な仲間たちが帰ってしまうことを知っているのだろう。絶対に離すものかとしがみついている。


「いや。まだ眠たくない。遊ぼう。ねぇ帰らないで…」


 こんなに必死にぎゅーっとしがみつかれて、封印したはずのミコトの母性が花開く。


「仕方ないなぁ。じゃあここはひとつ、俺がとっておきの話をしてあげよう。でも約束してほしいんだ。このお話を聞いたらちゃんとベッドに入ること。お約束が出来る子だけ聞かせてあげる。まだ眠くない子はジークと一緒にお隣のお部屋ね。」


 大好きなジークと一緒だ。半分くらいの子は隣に行った。

 部屋にいる子にだけ、聞こえるような小さな声でミコトは日本で一番有名なヒーロー、果物から生まれて動物と一緒に成敗しに行く男の子の話をしてあげた。少し小さな声を聴こうと子どもたちは息をひそめ一生懸命集中する。斬新な設定に子どもたちは大満足。そして集中したことでおねむになったようだ。一人ずつハイタッチをしてベッドに潜っていく。そして気が付くと隣の部屋の子たちがこっちの様子を伺っていた。


「俺も聞きたい~」


 男の子にねだられるが、そこは心を鬼にする。


「また今度聞きにおいで。」


 と声をかけ、両手を前に出すと一人ずつハイタッチをしてベッドに入っていった。


(素直すぎる~かわいい!!)



 ♢♢♢



「すごいねぇミコっち~、子どもの扱い上手だね。」


 ジークが尊敬の目でミコトを見る。


「兄弟の世話をしていたからね…寝る前の読み聞かせは穏やかな声でゆっくりと話すのがコツ。」


 ほめられてミコトは照れ臭そうに笑う。


「ねぇアル、俺またここに来たいんだけどいい?」


 護衛としてアルはミコトが行くところについていかなくてはならない。


「別に構わん。もともと国中を旅してまわる予定なんだ。どこだろうと関係ない。ミコトが楽しんでることが一番だ。」


 フッと微笑みながら言う。そう、不愛想な男が一瞬だが笑ったのだ。孤児院でもあまり笑わずちょっと大きな男の子は筋肉目当てに寄ってくるが女の子や小さい子はアルに寄り付かなかった。普段ムスッとした男のギャップ…その笑みの破壊力は凄まじい…


「アル~!!ありがとう!!」


 気づけばミコトはアルにハグしていた。


(うわっ!やばい!!子どもと接していたから人との距離感が…どうしよう、少年って普通抱き着かないよね、多感なお年頃だもんね…)


 抱き着いたまま思わず固まる。そしてアルも思考停止して固まっている……が、そこへ


「アル~ありがとう~愛してるわ~」


「大好きよ~アル~、ずっとそばにいて~」


「うわっ!お前らやめろっ!!」


 悪ノリしたジークとニッキーさんが抱き着いてきて4人でもみくちゃになる。


(助かった~!)


「とりあえず嬢ちゃんは帰ってから寝てください。昨日のこともあるし疲れたでしょ。俺と若は嬢ちゃんが堂々と孤児院にいけるように裏工作してきます。さすがに毎日あの通路は使えないんでね。」


「ニッキー、俺のことは若じゃなくて“ジーク”って呼んでって何百回も言ってるじゃないか。」


「うるせぇ!これが俺とお前の心の距離だ!!絶対呼ばねぇっ!!」


「あの~ニッキーさん?俺、男だから嬢ちゃんはちょっと…」


「あぁ、ごめんな!なんか時折嬢ちゃんって呼びたくなるんだよな。なんでかな~。気を付けるわ。あと俺のこともさん付けしないで“ニッキー”でいいよ。」


「やーい、ニッキーのセクハラおやじ~!」


「んだと待てコルァア!!男相手に何がセクハラじゃ!!そんなん気にしてたら誰にも話しかけられなくなるわ!!」


 じゃれあうジークとニッキーを見ながらミコトはハハッと乾いた声で笑う。



(あっぶねぇぇえっ!ニッキー要注意人物!!)

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