第10話 大暴れしてしまいました

 


 騎士に連れられた先は城の中庭であった。

 初夏の季節柄、王城の庭も薔薇が咲き誇る。


「薔薇が見たいならわざわざあの狐おやじの所じゃなくて城で見ればいい。」


 騎士がボソッとつぶやく。


「いや、別に薔薇が見たかったわけじゃ…」


 騎士が話しかけてきたことにミコトは驚き、思わず声を返す。


「じゃあなぜすぐ断らなかった。あと少しで狐屋敷だぞ。腕もつかまれやがって。」


 騎士はなぜかイラつきながらミコトのつかまれていた腕を取り、汚れたと言わんばかりにぺちぺち払う。


(意外と口悪いなこの人…)


 何故怒られているかよくわからないが自分だって頑張ったのだ。そんなにいうことないじゃないか。だんだん感情が高ぶってきた。


「いつもフラフラヘラヘラと…怪しいかどうかの判断くらい自分で出来んのか。」


 あぁ、今のは駄目だ。自分の堪忍袋の緒が切れる音を感じた。



「わからない。あぁわからないよ!!誰が味方で誰が敵かなんて俺には全くわからないね。今は優しくても俺がずっと至宝を探せなかったら?俺のせいで国が滅亡するとしたら?俺の味方はいないだろう。全員敵じゃないか。それでもヘラヘラ笑ってすがって生きるほかないんだよ、今の俺には。この世界の常識がない、金がない、戸籍すらあるかも怪しい。身を守る、生活していく術もない。ないものばかりだ。あるのは命と使えもしない魔力と本当か嘘かわからない聖女の力。仮に世界の破滅を防げても、その先の未来をどう生きていけばいいかなんて全くわからない!!俺のすべてを笑って受け入れてくれる家族もいないんだよ!!!」



 顔が熱い、のどが痛い、自分が何を言っているかわからない。

 でも次から次に涙が溢れてくるのは感じる。情けない、恥ずかしい、うまくいかないことをこの騎士にぶつけて…抑えなきゃと思うのに止まらない。

 ミコトは嗚咽を漏らしながら泣き続けた。いつの間にか誘導されてベンチに座っている。騎士が肩を抱き寄せ、困ったようにハンカチを差し出している。そのハンカチを受け取った後もミコトの涙は止まらなかった。



 ♢♢♢


 その日の晩ミコトは熱を出してしまった。張りつめていた糸が切れたのだろう。泥のように眠り続けた。ディアナと姫様が服を交換してくれたような気がする…王妃様がさっぱりとしたおいしい果物のジュースを飲ませてくれた気がする…王と王子が代わるがわる声をかけに来てくれた気がする…そしてあの騎士が頭の上の手ぬぐいを何度も冷たいものに交換してくれた気がする…



 ♢♢♢


 次の日には熱が下がって起き上がれるようになったので授業に行こうとしたら、恐ろしい剣幕で騎士に止められた。病み上がりは怖いから今日はベッドで1日安静にしとけと言われた。


「部屋の外で見張ってるからな、何かあったら呼べ。」


 と騎士が部屋を出ていったのをいいことに魔力の教科書を読んでいたら昼食を持ってきた騎士に見つかってめちゃくちゃ怒られた。


(なぜだ。こんなに元気なのに。解せぬ…)


 午後からはミコトが余計なことをしないように部屋の中で見張られてしまった…


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