神様に童話の良さは分からない
最弱乃飯屋
第1話 始まりはいつも突然
気がつくとそこは真っ暗な世界が広がっていた。どうやら俺は目を閉じているようだ。
記憶が曖昧でどうして俺が今瞳を閉じているのかさっぱり分からなかった。
一番最後に覚えている事は学校に居て授業を受けていた事だ。原因は分からないが俺は気絶したんだろう。
だが肝心の記憶が無い。どうして気絶したのか過程が分からない。
気絶するという事はこういう事なのだろうか?と無理矢理納得して取り敢えず目を開ける事にした。
ハブベェ!?
目を開けた俺は驚きのあまり変な声を出した。我ながら生まれて初めて聞いたぞ。
しかし驚くのも仕方ない。
目に映った世界はこの世とは思えない程に白い光で余す事なく照らしているからだ。
知らない。こんな世界は例え海外のどこかと言われても信じられる訳がない。
そう確信出来る程あり得ない景色だ。
「おお。目覚めたか少年」
後ろから声が聞こえる。女性の声だ。俺は声のする方へ振り返るとそこには確かに女性が居た。
金髪ロングで汚れが一切存在しない白のワンピース姿だ。
その顔の容姿は今まで見た事が無い美しさに加えて、女の子にもモテそうなカッコよさも持ち合わせた眩し過ぎるこの場所に合う完璧な女性だ。
男である俺が男としてカッコよさで負けた事を気にする間もなく、彼女の姿から目が離せなくなっていた。
ん?何か誤解されかねない言い方だな。
俺は決して彼女の美貌で目が奪われた訳ではない。
確かにそうなっても可笑しくないぐらい彼女は魅力的であると言える。だがそれすらもどうでもよくなるものを見つけてしまった。
「羽と天使の輪っか!?」
彼女は何と漫画やアニメなんかでよく見る天使の容姿であった。あまりの驚きに状況確認の為、俺は周りを見渡す。
そこには周りが大きな白い雲に覆われた床でこの場所は出来ているようで更に驚きは増していった。
驚きは少し恐怖でもあったかもしれない。
未知のものに遭遇した者が何の驚きもなく恐怖もなく受け入れられる筈がない。
見た事がないものという言葉だけなら人はそれを別の何かに例えさせ、その例えたものと同じ解釈をするものだ。
例えばそこに銀色のカエルがいたとする。勿論こんなカエルは見た事が無い。まさに新種だ。しかし同時に「カエルか…」ともなる。
これは既に自身の認識にあるカエルという生き物がどれぐらいの間合いなら問題ないという解釈をするので驚きはするものの恐怖はそれほど感じない筈だ。
逆にそれが未知なるものとなると話は変わってしまう。
例えば人型をしたカエルがいたとする。大きさや体色はそこらにいるようなカエルと変わりはない。
しかしそれを見た人はこう考える筈だ。
「カエル…なのか?なんだコイツ…」それは見た事ないのと同時に自身の認識にある他の何かに例える事が出来ない。
つまり存在が未知。なのでコイツにはどう対処すれば良いのか分からないという不安と気持ち悪さが恐怖として現れる。
それは天使とて同じだ。限りなく人型に近い存在ではあるがリアルな羽や輪っかは未知の存在である事を物語っている。
恐怖を感じてしまうのは必然だ。
「まあ落ち着け少年。色々混乱していると思うがお前は今死んでいて魂が昇天している。そしてここは天界だが、お前達で言う天国ってとこだ。安心したまえ」
「…そっ…そうなんですねぇ〜…」
何かが安心したまえだ。コッチはビビって仕方ない。
だが彼女の初対面の癖にいきなり上から目線で話しかけてきた事に苛つきを感じつつも少し怯えた感じで穏やかな対応をする。
まあ確かに天国と言われればこの場所も妙に納得出来たし、天使の見た目の彼女が言うのだからそうなんだろう。
改めて自分の現場適用能力の凄さを認識した。そのお陰なのか天使の事もあまり恐怖として感じてこなくなっていった。
なので死んでるって言われた事が少し癪に触ったと考えるぐらいに、ゆとりは生まれた。
「…しっかし!凄くリアルな夢だなぁ…こんなの俺の頭の中で創り出せるとか天才なのかな?これを絵に出来たら画家として売れるかもしれないなぁ」
そう。もしかしたらこれは夢なのかもしれない。あり得ない世界を見る事が出来る。
それが夢だ。そう思うと更に恐怖していた事がバカらしくなってきた。
最初に目を閉じていたのもきっと俺が眠りについていて、この夢を見れたのは恐らく今深い眠りに着いたからだろう。
「お前頭大丈夫か?馬鹿の間違いだろ」
は?何言ってんのコイツ?
唐突な暴言に俺も心の中で口が悪くなる。さっきから言葉遣いがおかしい事に気付いていないのだろうか?
天使の見た目の割にかなりキツイ性格の持ち主のようだ。
夢の中とはいえあまり他人から馬鹿にされるような見下した発言は許し難いものがある。
「…じゃあ俺は今死んでいて本当に天国にいるって事ですか?」
「いや…だからそうだと言ってるだろ」
普段の夢には無い妙な感覚が俺を少し恐怖心と焦りを抱かせた。
何度も頭の中で「夢だよな?」と自分に言い聞かせる。俺は何言ってるって思うだろうが、そう自分が思っているのだから仕方がない。
「いや…ってそれ本当なんですかね?」
「…そうか、人間はあり得ない事が起こると夢だと思いたがる奴らだったな…どれ私が一発叩いてやる。痛みがあれば納得するだろう」
「…分かりましたお願いします」
そんな簡単に死んでいたなんて事を受け入れられる筈がない。
それに夢でないなら痛くないだろうというのは、何とも古臭い理論だ。
恐怖が少し戻ってしまったが夢と決めつけたかった俺はこれが夢である事を早く証明して欲しかったので彼女の平手を受ける事にした。
さあやれ!どんとこい!そう俺は心に気合を注入する。はやく別の夢の中で自分に都合が良い場所に行きたいものだ。
そして本当に彼女から左頬に平手を受けた。大きないい音が響く、その瞬間痛みが走った。
「痛ァァァイ!はっ!?マジで痛いんだけどこれマジ!?」
我ながら気が動転していたのだろうか?言葉がおかしい事になっている事も気が付けず、とにかく言葉を発した。
これは自身を少しでも落ち着かせようとして出てきた声だったのだろう。
何故なら天使の彼女が言うように確かに俺の左頬は痛みを感じた。これは夢では無い事を証明されてしまったという事。
つまり俺は確かに死んでいるのだ。俺は力が抜けるようにその場に膝と視線を下に落とした。
あまり認めたくはないのだが、もう本当に俺は死んでいたようだ。
勿論死んだ事にショックを受けたが一つだけ納得いかない事が出来た。どうでも良いなんて言われるかもしれないが言いたい。
かなり左頬が痛い。凄く痛むんだ。何故からこの天使は、あろう事か全力で平手打ちをお見舞いしやがったのだ。
痛みを与えるだけならつねるとか、もっと優しいやり方はあった筈だがあの女は力を込めて平手打ちしたのだ。
俺は視線を彼女に向ける為、顔を上げた。
しかし、それを見越していたかのように今度は右頬に彼女の拳が叩き込まれた。
その威力は先の平手を凌駕する威力で、俺はそれに耐えられず体を地面に叩きつける事になった。
ムクリと倒されたダルマのように立ち上がるとラマに向かって大きく口を開けた。
「何するんだクソ天使ぃぃぃ!!」
涙目になり殴られた両頬を抑えながら天使の彼女に訴えかける。
もうこれは明らかな暴力だ。悪魔の所業である。
到底天使とは思えない。だからこそ、天使がそうしたので怒りが溢れ出した。
もうこの瞬間から彼から恐怖の感情は無くなった。それが馬鹿な事だったと思わんばかりの怒りだ。
怒りは俺を未知の存在である天使を人間と同じ認識に当てはめる事で、今まで向けていなかった怒りを難なく向けられるようになった。
しかしそんな激怒の俺に対して、彼女は冷静な冷たい返答をした。
「…何って叩くと言っただろ?同意しただろうお前も」
「強すぎるだろぉが!もっと優しくしろよ!」
「優しくして痛くなかったら意味ないだろ?」
なるほど。納得はいかないが確かに俺は平手打ちをする事に対して許可をした。
だから俺を叩いた。そこは百歩譲って全力で平手打ちした事は良いとして、その後だ……。
「なぁぁんでぇアンタはまたやったんだ!?しかもコ・ブ・シで!叩いていいとは許可したが殴っていいと許可はしてないだろ!!」
そこだ。俺がもっとも怒っていて知りたいのは、そこである。
「いや…お前が"マジ?"って言うからまだ信じて無いと思って更に強く痛みを与える為に殴った」
「…痛いって俺は声に出して言っただろォォォォォ!痛いよ俺は痛み感じてたんだよ!俺が"マジ"って言ったのはアンタの平手が強過ぎたからだろ!!」
「そうか、すまない」
簡単に謝りやがったこの女!
怒りが先行して大声を上げてしまったが、このあまりにも軽い謝罪で逆に冷静さが追いついてきた。
だがその空気かのように軽い謝罪を許した訳ではない。
天使へ対しての恐怖は無くなったものの、死んでいるという事が天使の言うとおりであれば今後の天界での処遇について不安がある。
このままこうして天使に対し怒りの感情を募らせても、死んだ俺が生き返る訳では無いのだろう。ならあまり彼女を不機嫌にしない方が得策だ。
「…ったく、早く冷静なれよガキかお前は!とにかくお前は死んだんだ、分かったな?」
「はい…分かりました」
まだここの世界については全く分かってない事が多過ぎる。
仮に生き返る事が出来ないとしても今後の事を考えると、ここの事を知っている彼女を怒らせると、永遠にほど近い苦しみを受けると噂の地獄に落とさせる可能性も捨てきれない。
つまり彼女を怒らせるとデメリットしか無いのでコチラは下手に出るしかない。
なので先程のように彼女に罵声を吐かれても強く反論出来ない。
「そういう訳でお前には一つ頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事…それはなんですかね?」
またいきなり何を言い出すのやら。何故俺が彼女の命令聞くことになっているのか。お願いとは随分なものだ。
大体この天使の言う事だしあんまり良い話ではなさそうだ。
「なぁ〜に凄く簡単な事さ。お前には神様が読んでいる絵本の中に入って貰いたいんだ」
「…はい?絵本の中?」
絵本の中に入る?
よく分からない日本語に困惑する。意味が分からない。
「ああ。実は私の主である神様は人間の創作した絵本に興味を持たれていてな。」
ハア…。正しく認識出来ない。
絵本に興味を持つのはいいが、それが何故俺が絵本の中に入る事になるのだろうか?
大体どうやって入るのか気になる。やはり神の謎の力なのか?
疑問ばかりか脳内に文字として大量に流れていく。
「実は我が主である神様は人の創作したものを改変させられる能力を持っている。そしてその能力を使用して、童話の世界に入って物語を改変して欲しいのだ」
やはりよく分からない力のようだ。しかしどうも、この事がやはり気になってしまう―――
「―――改変ですか?…つまりそれは…童話の内容を、僕達が勝手に作り変えるって事ですか?」
「そこの理解は早くて助かる。つまりそういう事だ少年」
マジで言ってるのかこの天使は!?
神も神で何を考えているのか分からない。
どうやら神は人が創った物や物語を作り変える事が出来るみたいで、俺を使って勝手に話を変えようと考えてるようだ。
「そんな事は作者の許可も無しに、勝手に本の内容を変えるなんて許される訳ないじゃないですか。作者が可哀相ですよ」
「そんな事、知った事かぁ!許される許されないなんて事は神様が決める事、つまり神様が絶対だ!!」
ジーザス!
狂ってやがるこの天使も神も。
あまりにも、これは職権乱用が過ぎると思っているが天界に法律があるならば、きっとその法律は神なのだろう。
独裁国家の国民達は、今の俺と同じ気持ちだったのだろうか?
おっと…この場合ジーザスなんて言ってはいけない。だって原因は神なのだから。
「なんだその疲れ切った顔は!やらないなんてまだ言うのなら罰を与えるぞ。それにまだ私の話を疑うのなら、私がお前に再び拳を降ってやってもいいぞ」
「やめて下さい!やりますから絵本中に入りますから!あと信じましたからもう殴るのはやめて!」
そう言うと彼女は「なんだつまらない奴だ」と背中を向けて歩きだした。
先程からの彼女の態度や言葉に怒りが沸騰しているお湯のようになってるのが分かる。
だか先程も言ったが彼女に歯向かってもメリットはない。ただ耐えるのみ。
「いけない忘れていた。お前は天界に来たからには先ず最初に
俺は彼女に言われるがまま、白い雲の上に立っているこの場所に、あまりにも不自然に置いてあるテーブルと椅子があるので、先に座っていた彼女の向かい側になるように座る。
すると、それを見てか彼女は俺に視線を向けると心底嫌そうな顔をして舌打ちをかました。
俺が座った場所がお気に召さなかったようだ。しかしどこに座ってもいい様な事を言ったのは、そっちだったよな?
「あ〜面倒くさい!先ずはコイツの名前と最後に亡くなった時の年齢か〜」
彼女の手にはタブレットがある。どうやらあそこある入天表とやらに必要項目を入力するようだ。
だが不思議なものだ。彼女がタブレットを触っている様は、俺のいた地上と全く同じ雰囲気に親密感を感じてしまった。
天界に入る事を
どうやら天国に行く条件として良い行いをしてきたかを調べる必要があるらしい。
そしてその基準は死後人生の善悪の行為を数値化して、規定値が超えている者のみが対象となり、入天が許されるらしい。
数値は善悪を人生総評し表すようで、多少悪い事をしてしまっても善意の数値が高く良い行いを規定値以上だった者は入天対象になり得るようだ。
そして今俺は、どうやらその数値が規定値よりも高かったので入天していたらしいが、その際に入天表を記録しなければならないんだとか。
高校でいう出席簿みたいなものだろうか?違うのだと思うが、他に良い例えを俺は知らないので妥協する。
「おい…なにキモイ顔をしているんだ?早く答えろ名前と年齢を!」
親近感を天使に少しだけ感じ始めていた俺に彼女は睨みつけた。
親密感は今ので全てが無となった。
大体そんな俺の名前と年齢なんかは、彼女も分かっているだろうから勝手に入力しといてくれよ。
それよりも真顔だった俺に対して、キモイ顔って発言は最早悪口じゃねぇか。
「そういうのって、天使は何でも認識しているものではないのですか?名前まで知らないってあり得るのですか?」
「あのな?私達天使をなんだと思ってやがるんだお前は。なんでお前の名前と年齢をイチイチ理解してなきゃならんのだ」
え?っと、あまりにも予想外の答えに声が漏れそうになる。
天使というのは、いつ、誰が、どうやって死ぬ事を理解しているものだと思っていたが間違っていたようだ。
天使の見た目が思っていた通りの姿だったので、俺は彼女達の事を知った気でいたのだろう。
取り敢えずこれ以上機嫌を損ねると面倒なので彼女の質問に早く答える。
「俺の名前は
「つまり中卒っと…」
「・・・。」
そう。俺は浦嶋次郎。もうすぐ卒業式だった。
最後の記憶は最後の授業だったのを覚えている。卒業後は楽しいキャンパスライフの筈であった。なのにも関わらず死んでしまうとは情けない。
いや。どちらかと言えば悔しい。
俺の決まっていた大学は女の子が沢山いるから、そんな可愛い子ちゃん達とのハーレムを充実させられたのだから本当に悔しくて悔しい。悔しいとしか言えない。
握っている拳に力が入り、目頭が熱くなるのも仕方がない。
「…それでは次は身長と体重、性格っと…大体でいいよこの辺は」
身長は確か175センチ。体重67キロ。性格は―――。
「―――元気で人当たりが良く、頼りにされるリーダーシップの塊でイケメン秀才スポーツマンの優しい天使のような性格です!」
「面倒くさい性格…っと」
「なぁぁぁぁんで、そ・こ・だ・け!変えるんですくわぁぁぁぁ!」
机を軽く両手で叩いて立ち上がる。
まあそこはユーモアがあるとかそういう書き方にして欲しい。だがそんな俺に彼女はおかしなものを見る目を向けてきた。
「嘘は駄目だろ?」
「…あぁ…はい…そうです。盛ってました…すみません」
早すぎる謝罪。それは口から息を吸って吐く動作よりも早く行われた。流石にこれに関しては、ぐうの音も出ない彼女の正しい回答だ。
しかし彼女には冗談が通じないのだろうか?多少なりの冗談も付き合ってもらいたいものだ。
「最後に…コイツがどうやって死んだか…かぁ」
それは俺も気になる項目だ。死因は俺も知らないからだ。
確か俺は学校にいた筈だ。それが最後の記憶だった。しかしどうやって死んだのかの記憶がない。
俺の死因の項目は記憶がないので不明だと答えようとしたが、彼女はその項目をスラスラと埋めていた。そこに少し違和感を感じた。
「天使さんはもしかして俺の死因を知ってるんですか?」
それを聞いた彼女はビクッと体を跳ね上がらせる。予想外の質問だったのだろう。ますます怪しい。
彼女は俺の死因を知っている!確信と思えるものを感じた。
「なんの事だぁ〜?別に私はお前が殺された事なんて知らないぞぉぉぉ?」
「俺は殺されたんですか?」
「んんんんん?……なんの事だぁ?」
「もう分かってるんですよ!誰かに殺されたんですよね俺は!!」
なんて事だ。俺は殺されたらしい。
だが一体誰なんだ。俺は基本的にあまり人と争う事はしなかった。悪い事だってやらなかった筈だ。
何かあるとすれば学校にそっち系の本を持ってきてバレたぐらいだ。
恨まれる事はしてこなかったし、誰に対しても親切に接してきた。だから俺が殺させる理由なんてある筈がない。
人がやりたがらない事も色々なボランティアもしてきた。死後は天国行きが確定するぐらい良人だったと自負している。
実際今は天国にいる。嬉しくはない。
ちょっと頭に血が上る事があって言葉遣いが悪くなる時はあるが、それでも誰かに殺されるなんてありえない!
「まあなんだ…世の中にはな?知らない方がいい事だってあるんだぞ少年。真実は人を恨みと憎悪に突き落としてしまうものだ。それはただ人を陥れるだけのもの…天国にいられる清らかな君を失いたくはない」
彼女が突然天使らしい事を言ってきた。先程の気の抜けた面倒な相手と接しているような対応ではなく、本当に彼女は天使であった事を再確認出来てしまう程に美しく清らかな優しい表情だった。
しかし既に彼女の本性を知っている俺には寒気しか無かった。
「覚悟は出来てますよ!誰が俺を殺したんだとしても俺は誰も恨んだりはしません!」
「本当に?」
「はい」
「犯人が誰でも?」
しつこいなぁ。なんか怪しくないかぁ?
「…ハ…イ…。」
「そっかぁ〜それなら良かったぞ!じゃあこれがタブレットで、もう一つ理由書があるからそれも目を通しておいておけ」
満面の笑みに気持ち悪さを覚えるが、取り敢えず彼女こら受け取ったタブレットから見てみる。そこには衝撃的な内容が記載されていた。
「・・・。」
死因:天使ラマによる複数の殴打で死亡。詳細は始末書又は理由書にて報告致します。
天使による殴打?始末書?
俺は天使の方を向く。すると彼女は笑みは崩さないものの冷や汗が流れていたと思う。
何となく察しつつはあったが、あくまで予想だったので半信半疑ではあったが50%から99%の確信へと変わった。
「このラマさんってどういう方なんですか?」
「その人はなぁ!とってもキュートでクールで美人でイケメンで淑女で紳士なお淑やかで勇ましい超絶優しい天使のお姉さんだ」
「...その人は今何処にいるのですか?」
「今お前の目の前にいる天使が超絶優しいお姉さん、ラマだ」
空白の時間が流れる。まるで彼女がギャグを言ってスベってしまったのかというぐらい彼女の一言で二人の会話が途切れた。
そして浦嶋はタブレットを置いて立ち上がると彼女に近づいた。
「やっぱり…テェェメェェェェェかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
今、俺の予想が100%に確定された。
途中で何となく察してはいたが、彼女がそれを言葉にしたので怒りが飽和してしまった。
この天使ラマが俺を殺した犯人だと分かった俺はラマのワンピースの襟えりを掴むと大声を上げた。
流石に怒りが爆発してしまった。自分を見失ってしまう悪い癖であるが今回は仕方ない。だってこれは理不尽過ぎて止まらないんだ。
「落ち着け!じまじろう!」
「その、じまじろうってのは俺の事か!?そんな何処かの子供向けキャラクターみたいな名前で呼ぶな人殺しがぁ!」
「待て待てこれには理由があるんだ。だから怒るならその理由書を読んでからにしてくれないか?」
そう言って胸ぐらを掴まれたままラマは一緒に渡した理由を手に取って俺の顔面に叩きつけた。
その力が強かったので、怯んだ俺は掴んでいたラマの服から手を離す。
どうやら彼女も少し頭にきたのだろう。だが怒っているのは俺の筈だ。どういう事であれ彼女が俺に怒りを見せていい訳がない。
逆ギレって奴だ。
しかし、もし彼女が何かしらの理由が本当にあって仕方なく行わざるをえない条件であったのなら、確かに彼女ばかりに怒りを向けるのは間違いだ。
まあそれでも彼女の、その態度は違う気がする。
「分かりました。それでは内容を…」
タブレットを手に取った俺は、彼女が俺を殺した理由書を読み始めた。
名:ラマ
所属:
階級:
出来事:
理由:
神様の
備考:殺害の際、目標の後頭部を3回程鉄パイプを使用し全力で叩きつけたものの目標はまだしぶとく動いておりましたので、その後5回追加で叩きつけた後に目標の魂が無事浮上する事を確認しました。
以上。理由書内容は上記にて終了致します。
「…この面倒くさい厨ニ感がハンパないこのルビは何だよ!読みづら過ぎて疲れるわ!」
「仕方ないだろう。大事な書類だからビジネスワードが必要だろう!」
ふざけたビジネス用語だ。
あまりにも適当過ぎるこのルビは厨ニとしか言えない。俺は厨ニにはならなかったが友達を見ているとそういうやからが沢山いたのを覚えている。
ソイツらもこんな感じだった。
そういう奴等は決まって何年かした後に変人としての黒歴史が後悔や恥ずかしさとして彼等を押し潰されてしまいそうになっている。天使はまさにそれだ。
だが天使のビジネス用語としてこれが正式に決められているのでこれが正常だと言うのだからタチが悪い。
厨ニ病の人間なら天界ではかなり良いビジネスマンに見えるのだろう。
いや、やはり駄目だろう。どちらかと言えば厨二病気の彼等は、悪魔崇拝や自称神・天使だから寧ろ本家からして見れば敵でしかない。皮肉なものだ。
やはり共に分かち合えるものでは無かった。
双方共に分かちがたく...。
天使・神崇拝の厨ニを除いて。
「それなら最後までルビ入れろよ!備考欄最後まで頑張れよ!」
「まあそんな大した事でも無かったからね。割と軽い感じでいいよって言われたからそう書いただけだ」
「俺は殺されたんだぞぉ!!」
さっきから怒りが止まらない。だって納得いかないんだもん。
理由書の内容もそうだ。
やたら人間や俺達の住む場所をゴミと例えているのを見ると我らを相当下に見ているようだ。まあ天界だから見下さないといけない風習が彼女達なりにあるのだろう。
俺が殺された始末書の事もあまり重大に受け止められていないのは、俺がゴミという存在と天界ではされていたからなのだろう。
それなら天界は狂った連中しかいない。せめて下界の人々にこの現状を伝えたい。神からの救いなどないと。
そんな事を思っていた時に何処からなのか電話音が聞こえた。
「…あっ、
「てんわ?」
「あー、もしもし。雑務課のラマです神様」
神様?どうやら天話とは俺が知るものに例えるなら電話の事らしく、ラマは神と通話しているようだ。
少しシュールだったのは、頭上にある天使の輪っかを掴んで、電話機のように耳に付けて口元に近づけるように話していた事だ。
よく見た事あるなぁと思いながら見ていると、何やら慌ただしいラマの様子を見て何か嫌な予感がしていた。
何度も頭を下げながら言い訳をして謝罪している様子は社畜のようだった。
「…分かりました。直ぐに…」
電話が切れるような音を出して天話による通話は終了したようだ。
通話が終わるとラマは手に持っていた輪っかを地面に叩きつけると大きな溜息を吐いた。
「ほらもうすぐだ。覚悟決めろよ!」
八つ当たりをするようにラマは俺に大声をあげる。
何故俺は彼女に怒られるのか分からないが八つ当たりなのだから理不尽なのも納得だ。
理由書にも課長とか書いてあったのを見るに管理職なのだろう。そして天界はブラックなのだと理解出来た。
だから敢えて言い返す事はしなかった。同情である。
そんなラマに哀れみの目を向けていた俺の足元が光り輝く。
俺は驚いて下を見ると足下の雲の地面に光り輝く魔法陣が現れたのだ。あまりにも唐突の出来事にラマに起きている事を聞こうとそちらを無垢が、彼女にも同様の現象が起こっていた。
「…ラマ!これは何が起こってるんだ!」
「何って今から本の中に入るんだ。この現象はその為の神の力だぞ」
「はぁ?」
この妙な温度差は、これから起こる出来事を知っている者か知らない者という差であるだろう。
当然神の使いである天使ラマはこの現象も、これから起こる事も分かっているのだろう。冷静なのも頷ける。
対する俺は何も知らない。これから起こる事も現象も、神の事だって信用出来るものなのか分からない。
焦ってしまうのも理解してもらいたい。
「あぁぁぁぁ!足がぁぁぁぁ!足がドンドン消えていくゥゥゥ!」
「変な声出すんじゃない!ちょっと本の世界に行くだけだ!」
魔法陣に照らされる俺の足がドンドン粒子状になって消えていく。ラマが言うには本の世界に転送しているから徐々にそうやって移されるのだとか。
なんて事を言われても始めての体験で自分の体がドンドン消えていくのは恐怖でしかない。
まるで怪物に食べられていく人のように大きな声を上げながら消えていく体はもう首元まできていた。
相変わらず静かにしろと言うラマであったが耳には入って来ない。やがて彼がいた雲の場所には何も無くなった。
静かになったそこは浦嶋が目を覚ます前の時の静けさがある。なんと騒がしい男か。そんな声が何処からかその場所に聞こえた気がした。
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