第四話〈作戦前ブリーフィング〉



「さて。とうとう、我々【オリュンシア王国】が【ロマネスト帝国】と復讐せんそうする事が決定してしまった訳だが、その戦いでの俺たち『第二王女直属騎士団』の役割を発表しよう」


ここは【オリュンシア王宮】にある会議室。そこに、先ほどまでシスケラたちを東西南北に分かれて捜索していた『第二王女直属騎士団』16名が集まっていた。

理由は1つ。彼らの絶対的君主、オリュンシア国王陛下より命令を下されたからだ。今、その命令内容が、団長のトーゼルから団員へと伝えられている途中だ。


「俺たちの役割、それは……最前線だ」


「嫌すぎるぅぅぅぅぅ!!!」


自分たちの役割を知り、会議室に1人の男の叫びが響く。その主は、


「うるっせぇぞベール!うるせぇから殺す!」


金髪の青年騎士、ベールだ。そしてそのベールに噛みつくのは、赤色の髪が逆立っている、いかにも好戦的そうな男。彼の名は「ゼイロス・ハイトス」という。


「おい、静かにしろ貴様ら。団長が大事な話をしている最中だ」


騒ぐ2人を、トーゼルの横にピタッとくっついている女性騎士、副団長のスティアが叱る。


「う、うっす」


「こ、怖い……」


スティアの圧力に負け、2人は大人しくなる。


「まあ、仕方のねぇ事なんだよ。最前線は俺たちと、第二王子の騎士団だ。何故だか分かるか?」


「守るべき主がいないから……ですよね?」


トーゼルの問いに、メガネの騎士、フブキが答える。


「正解だ。だからまあ、最前線なのは割り切って、死なねぇように死なせねぇようにするぞ!」


「「「はい!!!」」」


自分たちの命も国民の命もどちらも守る。それが彼らの使命だ。


「そういえば団長。ずっと気になっていたんですが、『友好会』には「ララバ・メララ」が参加してましたよね?彼女はどうなっているんですか?」


フブキは、『友好会』にフォルテと同じく護衛として参加していた、第二王子直属騎士団所属の女騎士、ララバの行方が知らされていなかった為、気になっていた。


「ああ、その事なんだが、どうやら彼女の死体は見つかっていないようでな、行方知らずになっている」


ララバの死体は『友好会』の会場、及びオリュンシア王国領内では発見されていない。


「そうですか。彼女には謎の強さがありましたからね。上手く逃げたのかもしれない」


騎士団対抗の模擬戦でララバの戦いを見ているフブキは、彼女が逃げ出せるような強さを持っている事を知っている。実際に対戦したことはないが、フォルテが必ず負けていたので印象に残っていた。


「かもしれないな。もしララバを見つけたら、王国へ連絡してくれ。……ではこれより、具体的な作戦を説明する。静かに聞いてくれ」


そこでトーゼルは1度黙り、改めて騎士団員たちへ向き直る。


「まず、北の方に住んでいる国民を避難させながら、ロマネスト帝国領へ進軍。そして攻撃開始は今から7日後の早朝だ」


【ロマネスト帝国】は、【オリュンシア王国】の北にある。なので戦いに巻き込まれないよう、北に住んでいる国民を王都へ避難させながら、【ロマネスト帝国】へ進軍。それが、第二王女、第二王子直属騎士団の最初の動きである。


「んで攻撃開始後、戦況に応じて増援が来る手筈になっている」


「ちょっと待ってよ!僕たちと第二王子の騎士団じゃあ、人数が少なくて一瞬でやられちゃうでしょ!?」


臆病なベールが、嫌な事実を見つけてしまう。

そう。第二王女と第二王子の騎士団の人数を合わせたとしても、せいぜい40人しかいない。【ロマネスト帝国】全体にこの人数で戦争を仕掛けたら、一瞬で全滅するはず。しかし、トーゼルは気にしていない。その理由は、


「安心しろ。帝国兵の数は多いが、奴らに個人の力量はそこまで無い。お前らなら戦える。俺が保証するさ。それに、他の騎士団も別方向から隠れながら攻める。だから、用心はしても変にビビるな」


トーゼルは帝国との戦争の経験者だ。そんな彼が言うのだから、間違いないと思っていい。


「だが、もちろん強敵だっている。その中で最も気をつけるべきは、『魔女』だな」


『魔女』。それは特別な「顔」を持つ女の事で、この世界に3人しか存在しない。

『魔女』の「顔」の何が特別かと言うと、それは、目、耳、鼻、口、それぞれに特殊な能力が備わっている事だ。

『魔女』は「目」で相手の魔力量を視認し、「耳」で相手の心の声を聴き、「鼻」で相手の居場所を把握して、「口」でどこにいてもテレパシーをする事ができる。それが、『魔女』の「顔」の能力である。

しかし、これらの能力は『1人』だけにしか効かない。だが、どれも相手にすると強力な能力だ。

そんな強力な能力を持つ『魔女』が、【ロマネスト帝国】に存在する。トーゼルが相手をしても、一筋縄ではいかないだろう。


「ひぇ〜。魔女とは戦いたくないなぁ〜。美人でも嫌だよ〜」


「ハハッ!魔女なんか俺様がぶっ殺してやるよ!!!」


ベールとゼイロスが正反対の反応をする。


「ハハハッ!威勢がいいな、ゼイロス。だがな、『魔女』や『武将軍』など、俺たち騎士団長クラスの強さの奴も存在するんだ、絶対に1人で行動はしないようにしろ。そしてフブキの魔法で逐一戦況を報告し合う。これを胸にしまっとけ」


「「「はい!!!」」」


いくら腕に自信があっても、多勢に無勢だったり、自分以上の強敵と交戦する時もあるだろう。その時のための、複数人行動厳守だ。


「そして最後に1つ、戦争経験者の俺から言っておく。……お前らの中には、今回が戦争初経験の奴もいるだろう」


トーゼルの声音がさらに真剣なモノに変わり、この場にいる誰もが、静かにトーゼルの言葉に耳を傾ける。


「いいか、戦争は人死にを待ってくれねぇ。少しの油断、躊躇で誰にでも死は訪れる。だから、敵は迷わずに殺せ。そして、自国の勝利だけを考えるんだ。敵国を潰せれば、少なくとも大きな戦争は終結に近づく。大切な人を、守れるんだ」


誰だって死にたくない。だから皆、本気で殺しに来る。躊躇した方に、死が訪れるのだ。


「お前ら全員、守りたい人がいたり、守りたいモノがあるだろ??それを思えば、戦える。俺だってそうだ」


そう言いながら、トーゼルは愛する子供たちの事を思い出す。


「……」


そして、そんなトーゼルを横で見つめるスティアが、悲しそうな顔をしていた。


「戦争に勝てば、守りたいモノを守れて、平和が訪れる。そんな事実を知っちまったら、やる事は1つだよな?」


そう言って、トーゼルは大きく息を吸い、


「お前ら……必ず勝つぞ!!!!!!」


「「「はい!!!」」」


大きな声で、そう叫ぶのだった。


「今日が開戦前最後の夜だ。お前ら、各々良い夜を過ごしてくれ。では解散!!!」


トーゼルの号令で、本日の作戦会議が終了する。



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