第一章〈動乱のアスマガシア大陸〉
第一話〈第二王女の騎士たち〉
「これより、第二王女直属騎士団緊急報告会を始める。全員、集まってるな?」
日をまたごうとしている時刻、【オリュンシア王宮】の中にある、王族直属騎士団それぞれに分け与えられている作戦部屋にて。重苦しい雰囲気の中、そこにはたくさんの騎士たちが集まっていた。第二王女の騎士団に所属している人数は17名。今、この部屋に集まっている騎士の数は『16名』である。
「……フォルテ・ネルヴァ団員以外、揃っています」
そう、メガネを掛けた1人の騎士が報告する。
「そうか、分かった」
騎士たちの前に立つのは、第二王女直属騎士団の団長、「トーゼル・デオニス」。2メートル近い体躯とダンディな顔が特徴の彼だが、今はダンディな顔も焦りに満ちている。
「もう知っている奴もいると思うが今回、お前らに集まってもらったのは他でもない。本日、我らが主である『シスケラ・ゼウ・ディーチェ』様がご出席されていた、オリュンシア、ロマネスト、ニヴルガムの3ヵ国『友好会』にて、大事件が起きたからだ」
トーゼルが今回の事件を知ったのは3時間前。
『友好会』の終了予定時刻を過ぎてもシスケラが戻ってこなかった為、会場を確認しに行った時だ。
会場には参加者と警備以外誰も入る事が許されていなかったせいで、発見が遅れてしまった。
「まずは事件の内容を説明する。そして、現在の状況を把握し次第……
「おいトーさん!そんなの後でいいだろ!?今は何よりも、フォルテとシスケラを探す方が大事だろうが!」
トーゼルの説明に割って入ったのは、顔が怒りに満ちているレアス・ヘーレーだ。レアスは5歳の頃から一緒だったフォルテたちが心配なのだろう。だから今もフォルテたちを探すべきだと言っているが、
「黙れレアス。お前の気持ちは分かるが、今は騎士団での状況把握が先だ」
トーゼルがそれを許さない。
しかし、レアスも引き下がる事は出来ない。
「何でだよ!?俺たちはシスケラの騎士だろ!?だったら……
「シスケラ様の騎士『団』だ!1人で騎士やってるわけじゃねぇんだよ。だから話を聞け」
騎士たちの集団が、騎士『団』なのだ。せっかく集まっているのに、力を合わせない理由は無い。
「……分かったよ」
トーゼルの言葉を理解したレアスは、素直に引き下がる。
「よし。まず第一に、俺たちの主であるシスケラ様の安否についてだ。会場には死体が複数あったんだが、その中にシスケラ様はいなかった。フォルテもな。だから亡くなってはねぇはずだ」
『友好会』の会場にあった死体は、どれも身体が真っ二つに切り裂かれたモノだった。だから、誰が死んでいるかを確認する事ができた。
「だが、オリュンシア王国第二王子であられる、『メリウス・ゼウ・ディーチェ』様の死体が確認された」
自らが仕えている国の王族が亡くなってしまった事実に、騎士たちは目を瞑る。
そして60秒後、再び状況把握を開始する。
「メリウス様の他に確認された死体は、ニヴルガム公国の貴族、『ファリウス・ロギナール』とその護衛。そして、会場の警備をしていた
「次に死体、あるいは姿が見当たらなかった参加者について。まずは我らが主、『シスケラ・ゼウ・ディーチェ』様、そしてその護衛『フォルテ・ネルヴァ』だ」
彼らの護るべき対象であるシスケラの死体が見つからなかったのは、不幸中の幸いと言える。
「そしてニヴルガム公国のもう1人の貴族様、『セグエ・オズロード』とその護衛も、会場では死体が見当たらなかった。だが、その後オリュンシア市街地の裏路地にて死体が発見された。恐らく、会場から逃げ出せたが殺人犯に見つかり殺されたのだろうな」
「なるほど。団長、ロマネスト帝国の参加者は?先ほどから話に出ませんが……」
トーゼルの報告を聞き、メガネの騎士がそう尋ねる。
「あぁ。ロマネスト帝国の参加者からは、誰1人死体は確認されていない。今のところな。ニヴルガムの貴族のように後から見つかるかも知れんが……」
まだ事件が起きてからそんなに時間は経っていない。新たに見つかる事もあるだろう。
「今回の事件、ロマネスト帝国が首謀者とみて間違いないように思えますが?」
メガネ騎士が自分の考えを発言する。
「あぁ。どうやら国王様も、ロマネスト帝国の仕業と考えて動いているらしい。というのも、決定的な証拠があったんだよ」
「それは?」
「『友好会』の会場にあった死体は、どれも剣で身体を真っ二つにされていた。それに会場は水浸しだった。今回の『友好会』には、帝国で有名な『水武神・ロメン』が参加していた。ほぼ間違いなく、コイツの仕業と思って間違いねぇだろう」
トーゼルも、帝国が首謀者と考えている。だが、これはあくまで見えている事実で考えた結果だ。
「まだ断定するのは早くないですか?『水武神』として名が知れている奴が、そんなあからさまな証拠を残すとは思えません」
メガネの騎士は、『水』を扱うと知られている者がわざわざ、正体が特定されてしまう『水』を現場に残すはずが無い。そう考えているようだ。
「おう。お前の言う通りだフブキ。確定しているわけじゃねぇ。だが、今揃っているモノだとロマネストが1番怪しいってこった。それで、だ。俺たちの今後の動きはすでに決まっている」
トーゼルはそう言って、レアスの方を見る。
「俺たちは明日から手分けして、各オリュンシア王国領に赴きシスケラ様たちを探す。上からの命令が出るまでは、それに専念しろ。以上だ。今日はもう夜遅い。早く帰って明日に備えて寝ろ!解散!」
「「「はい!!!」」」
トーゼルの号令により、第二王女直属騎士団の報告会は、終了になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます