セックス
この文章には「性的な表現⚠」・「残虐な表現⚠」が含まれています。
まだ15さいになっていない
よくわからない
セックス
永遠に終わらないかのように思えた色の無い世界に現れた、
フキノトウ風
あなたにとって、セックスとはなんですか?
私にとってセックスは、生きるためのものだった。
私が初めてセックスをしたのは、小学生の時だった。
当時、私は毎日のように、近所のおじさんの家に行っていた。
遊びに行っていたわけではない。生きるために。
お金を貰うために。その昔は、ご飯を食べるために、お風呂に入るために、洗濯物を取りに行くために、ゆっくり眠ることのできる場所を確保するために。
私はそのおじさんの家に通っていた。
私の記憶にある両親は、二人とも私と血のつながりがない。そんな二人が、私を疎ましく思うのは、当然のことだろう。
私が物心ついた頃にはもう、二人はほとんど私の面倒を見てはくれなかった。家にいてもご飯は出てこないし、湯船はいつも空っぽで、洗濯機が私の衣服を洗うことはなく、私専用の布団はどこにもなかった。雨風をしのぐことができればいい方で、家の中にすら入れないことも当たり前だった。
そんな私の生活に、いち早く気付いて、面倒を見てくれたのがそのおじさんだった。
おじさんは私に、美味しいご飯とポカポカお風呂、あったかい布団を用意してくれた。衣服を洗濯してくれたし、たまに遊んでくれたし、色んなものを与えてくれた。
その代わりに、おじさんはお酒を飲んだ後、私の裸を求めた。
私の裸を見ることを、私の裸に触れることを、私に裸を触れられることを、毎日のようにおじさんは求めた。
そして、当時の私には、それを拒むという発想などなかった。それほどの知識も選択肢も、当時の私にありはしなかったのだ。
それに、親に抱きしめられた記憶すらない私にとって、むしろそれは唯一、人のぬくもりを感じる時間だったのだ。当時の私はその時間に、喜びすら感じていたのである。
しかし、いつ頃からだったろうか。その時間は、好ましくない時間へと変わっていった。それは、月日を追うごとに強くなっていって、辛いと思った時期もあった。
それでも私は、その行為を拒むことはなかった。それはもはや当たり前で、それ以外に生きる方法などなくて。幼い私にとっての世界は、とても狭かったのだ。
それに。相変わらずその時間だけが、唯一誰かのぬくもりに触れることのできる時間だったのもまた、事実だった。その時間は私に、嫌悪感と同時に安らぎも与えてくれていたのだった。
そんな日々が何年も続いて。ある日、私は初めてセックスをした。
それからはもう、毎日のようにセックスをした。
しかし、私が小学校を卒業してしばらく経った頃、それは突如として終わりを迎えた。おじさんに、恋人ができたのだ。
それと同時に、私は一人暮らしを始めた。手続きは全部、おじさんがやってくれた。しかし、毎月私が一人で暮らしていけるほどの援助をしてくれるほど、おじさんは甘くはなかった。そんな余裕、おじさんにありはしなかった。
私は当然のように、セックスをしてお金を稼いだ。
セックスで生きてきた私には、それ以外の選択肢など、あってないようなものだったのだ。私はそうやって、生きてきたのだから。
セックスで稼いだお金でご飯を食べて、お風呂に入り、家に住んで、学校に行った。
あっという間に月日は流れ、私は高校に進学した。
何で高校なんかに行くのかと、多くの男が私に訊いた。訊かれるたびに、女子高生とセックスしたいでしょ、と私は答えた。……でも、そんなものは嘘でどうにでもなることを、本当の私は知っていた。
学校という世界だけが、私にとって唯一、普通な世界とつながれる場所だった。そこにいる時だけは、私は普通の女の子だった。全部、忘れることができた。そこが唯一の希望だった。
そして希望は、絶望を際立たせる。夜は必ずやってきた。
あれは、何度目の夜だったろうか。いつも通り、私は私を求める男のもとに向かった。
その男は、私と同い年ぐらいの少年だった。
少年は私をホテルの一室へと迎え入れると、突然、私が一カ月にいくらぐらい稼いでいるのかを訊いてきた。私がそれに答えると、少年は安っぽい鞄の中から、私が答えた額よりも少し多い額のお金を取り出した。少年はそれを私の前に置き、毎月俺があなたを買いに来るから、もうこんなことは止めるようにと言葉を添えて、連絡先を置いていった。
私は一人。お金と共にホテルの一室に取り残されて、ただただ困惑した。意味がわからなかったし、何が起こったのか理解できなかった。
その
一週間後、少年は再び私の前に現れた。少年は訳も言わずに、ただただもうこんなことは止めてくれと頭を下げて帰って行った。必ず毎月、お金を払うからと。そう言い残して。
し かし、私はセックスを続けた。ずっとそうやって生きてきた私に、今さら止めると言う選択肢など幻のようにしか映らなかった。
そんな私の前に、少年は何度も現れた。少年はしつこく、止めてくれと頭を下げ続けた。
しかし、私が変わることはなく、その内に一カ月が経った。少年は約束通り私にお金を持って来た。
それから毎月。相変わらずセックスでお金を稼ぎ続ける私のもとへ、少年はお金を持って現れた。そして、相変わらず頭を下げて帰って行った。
次第に私は、セックスする回数が減っていった。
私は今まで、セックスをしたいと思ったことなど一度してありはしなかった。しかし、今までずっと続けてきたことを止めるというのは意外に難しいもので、すぐに止めることはできなかった。
それでも、少年と出会ってから一年が経つ頃にはもう、私はセックスから解放されていた。
私がセックスをしなくなってからも、少年は毎月私にお金を持ってきた。
私はいつしか、月に数回、少年と会うのを心待ちにするようになっていた。私は少年に、好意を抱くようになっていたのだ。
今まで散々セックスをしてきた私だったが、この人とだったらセックスをしてもいいかもしれないと。そんな風にさえ、思うようになっていた。
そんなある日、少年は私に紹介したい人がいると言った。
その人は、私と同い年の少年だった。
裕福な家庭に生まれた彼は、優しく優秀な両親に育てられ、とても純粋で、それでいて強い人であった。有名な私立高校に通っていて、将来も約束されている、そんな人であった。
私とは住んでいる世界が違う。それが、彼の第一印象だった。しかし、話している内に、私と彼は驚くほど趣味が合うことに気づかされた。私は彼と、初対面だというのに時間も忘れて話し続けた。
その日の帰り道。少年は、あの人なら君を幸せにしてくれると思うと、そう言った。
それから、私は彼と二人きりで会うようになった。少年からのお金もいつしか、彼を経由して渡されるようになり、少年と会う回数は減っていった。
そしてある日、私は彼から交際を申し込まれた。
私は断った。私とあなたとでは住んでいる世界が違うと。私は汚れていると、私はその時初めて、彼に私の全てを打ち明けた。
しかし、彼はそんな私でも愛してくれると、そう言ってくれた。
私に初めて、恋人ができた。
私たちはキスすらしないまま、数か月を共に過ごした。
切なさや、もどかしさや、言葉にできない感情を。色んな初めてを、私は経験した。バレンタインや、花火や、何気ない日々を。沢山のことを、彼と共有した。
そしていつ頃からだったろうか。私は、この人とセックスがしたいと。そんな風に思うようになっていた。
私は今まで、数えきれないほどの男と、数えきれないほどセックスをしてきた。しかし、自分からセックスがしたいと思ったのは。彼が、それが、初めてだった。
私がそう思うようになってからも、彼との関係は相変わらずで。ただ並んで歩くだけで満たされるような、手をつなぐだけでも胸が高鳴るような、そんな日々を送った。
そして。私と彼がつきあって、丁度半年が経った、その日。
――私にとっての、セックスは変わった。
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二〇一六年 五月二五日
二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正
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