あなたにとって、恋愛とはなんですか。

木村直輝

告白

 







告白
















放課後の校舎の陰でひっそりと咲き乱れる、

カンナの花を添えて








 あなたが今までで、一番こわかった話はなんですか。

 私が今までで、いっち番こわかったのは、私が高校の時の話。

 あれは、夏休み。男女何人かのグループで、遊びに行った時の話なんだけどね。

 夜になって、なんか男子がね。こわい話しようぜ、とか言いだして。ベタだよね。それぞれ、どっかで聞いたことがあるようなこわい話を話したの。

 みんなノリでキャーキャー言ったりして、それなりに盛り上がったし面白かったんだけどね。正直そんなにこわくなかったし、その内ネタもつきてきて。

 男子の一人がね。たしか、なんかもっとこわいのねーのかよ、とか。そんなことを言いだしたんだったと思う。

 そしたらね。一人の女子が、お化けとかそう言う話じゃないのなら、知ってるかも、って言ったの。

 その子はね、すっごく可愛くて、頭もよくて、スポーツもできてね。まさに才色兼備、とか。文武両道、って感じで。私は別に仲良くなかったんだけどね。たぶん、男子が頑張ってさそったんだろうね。私がその子と遊んだのは、たぶんそれが最初で最後だった。高校を卒業した後も、もちろん、連絡なんてとってないし。確か、すごく有名な大学に進学したんだったと思うけど。今はもう、どうしてるのかもわからない……。

 まあ、それはおいといて。もう、何でもいいから聞かせてよ、って。そんな感じになって、彼女が話し始めたの。

 あっ、もちろん。一言一句、覚えてるわけじゃないからね。そこは、目をつぶって欲しいんだけど――。

 これは、ある中学校で本当に起こった出来事なんだけど。

 ある日の放課後、とある男子。K君、ってことにしておこっか。K君がね、同じクラスの女子。今度は……、Yさんね。Yさんに呼び出されたの。

 その中学はね。三階の、視聴覚室前の廊下の辺りとかは、放課後になると基本、誰も通らなくって。その辺りに呼び出されたの。

 K君はね、別にそれまでYさんのことが好きだったわけじゃないんだけど。でも、Yさんはクラスの男子たちによく可愛いって噂されてたぐらいだったから。たぶん。正直ちょっと、まんざらでもなくって。違ってたら恥ずかしいから、誰にも言わなかったんだと思うんだけど。結構、期待しちゃったりしてたんだよね、たぶん。それでね、放課後になって。

 K君はその日、部活もなかったし。もちろん、そういう日をYさんは選んだんだけどね。まあ、だから。いつも一緒に帰る友達に、声をかけられる前に。いそいそと教室を出ていったの。

 それでね、誰にも見つからないように、時間をつぶして。

 みんなが帰った頃。約束の時間に、呼び出された場所にいったの。

 Yさんはまだ来てなくって。K君はきっと、ドキドキしてた。

 Yさんはちょっとだけ遅れてきてね。

「ごめん。待たせちゃった?」

 って、言ったの。K君は優しいから、

「あっ、いや。俺も今来たとこ」

 とか言って。本当は、ちょっと時間より早く来てたくせにね。

 それで、ちょっと二人の間に、沈黙が流れたの。

 その沈黙を破ったのは、Yさんだった。

「ごめんね、いきなり呼び出して。きてくれて、ありがとう」

「ああ、別にいいけど。話って何?」

「うん。あのね。私……」

 Yさんはそこまで言って、自分の手を自分の手でぎゅって握って。その後、制服のポケットのあたりをつかんだの。Yさんは、すっごく緊張してた。

 女子の制服のポケットってね。男子の制服のポケットと違って、あんまり大きくないの。ハンカチとかティッシュが入るぐらいで、ほんと、飾り程度。

「私、K君のこと……」

「……」

「私、K君のこと……。ずっと。ずっと、殺したかったの」

 と言うなりYさんはポケットからナイフを取り出してK君に向かって突っ込んだ。

 K君は驚きながらもギリギリのところで咄嗟によけて、ナイフはK君の脇腹をかすめた。K君のYシャツが破れて。真っ白なYシャツに小さな赤い染みが広がって、とっても綺麗だった。

 YさんはすぐにK君の方を向き直って、K君はとにかく逃げなきゃって。走りだしたの。

 静かな廊下には二人の足音が響き渡って。

 K君が振り返ると、Yさんがナイフを持って追いかけてきていて。二人の距離はどんどん縮まってくんだ。

 K君はとにかく走った。

 階段を駆け下りて、二階へ。二回には職員室がある。だから、二階へ。

 廊下に出て、職員室は目前。助かったって、たぶん、K君はその気持ちでスピードをゆるめたの。

 その瞬間。

 K君は背中に強い痛みを感じて振り返ったの。

 そこにはYさんがいて。二人の距離はもうなくなってて、ナイフがK君の背中に突き刺さってた。

 Yさんがナイフを抜くと、K君の背中からは真っ赤な血液がふきだして。

 花びらみたいに散る血液が、とっても綺麗だった……。

 K君は声もなく廊下に崩れて、Yさんは何か言ったんだけど、K君にはもうきっと、その声はとどかなかった。

 その時、校舎の陰ではね。カンナの花が、静かに、ひっそりと。綺麗に咲いてたんだ。

 ――彼女のそのお話を、私たちはみんな、静かに聞いていた。

 さっきまでみたいに、キャーキャー言ったりする人は一人もいなくって。でも、さっきまでより、みんな、こわかったんだと思う。

 彼女が話を終えた後、その沈黙を力任せに壊すように、一人の男子が言ったんだ。こわかったんだろうね。強がって。いや。つーか、その男子死んだんだろ。じゃあなんでお前がその話知ってんだよ。とか言っちゃって。

 皆から、こわかったからって揚げ足とんなよ、とか。こわい話なんて大体みんなそうじゃん、とか。散々からかわれて。別にこわくねーし、とか言って、みんなで爆笑してたんだけど。

 そんな笑い声にまぎれて、彼女がぼそって言った言葉を、私は聞き逃さなかった。

 ――私が殺したから。



――――――――――――――――――――



 この短編は、私が中学時代に書いた小説『松本仙翁』をもとに、新たに書いた短編です。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054906865844/episodes/1177354054906866429


二〇一六年 五月一八日

二〇一六年 七月 六日 最終加筆修正

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