第3話『死が迫り』

 目を覚ますと、そこには立派な尻があった。

 ……え、なんで?

 しかもこの人……スカートを履いている。やべぇ、鼻血が――


「……なんなんだよ」


 なんてスケベ心は一瞬にして吹き飛び、現状を把握した俺は背筋に悪寒が走る。


「邪魔だ、どけぇ!」

「そいつは殺すべきだ!」

「関係性走らねぇが、そのまま盾になるってんならてめぇも殺すぞ!」


 何十人と囲まれた俺を庇うようにして、一人の女の子が立っている。

 その何十人は今にも能力を使って俺を殺す気満々だが、女の子一人でどうにか持ちこたえている状況だ。


「今は殺し合いよりもみんなが助かる方法を探そうよ! きっと何かあるはずだよ!」


 まだ十代前半だろうか。

 声は若々しいが切羽詰まっているのは見て取れる。

 そんな中――


「目を覚ましたぞ! ぶっ殺せ!」

「――は? 嘘だろッ!?」

「『バリアフィールド』ッ!」


 炎、氷、雷、銃弾に剣技と様々なモノが飛んできたが、彼女がどうにか抑えてくれた。

 だが、そんなのが何度も通じる訳もなく。


「に、逃げて……はや、く……」


 何が何だかさっぱりだ。

 状況把握が得意な奴でも、この状況下に置かれれば混乱するだろう。事実、俺もそうだ。

 そんな中でも一つ、たった一つだけ把握出来る事がある。


「――ッ!」

「な、何して……ん、の……?」


 俺がおもむろに取り出したカッターで指を切り裂いたのを見て、少女が声を絞り出す。

 何故殺されそうになっているのか。何故少女は護ってくれるのか。わからないことだらけだ。


 ――だからなんだ?


 わからないから少女に助けてもらう?

 命が惜しいから逃げる道を考える?


 バカ言うな。

 今の俺は――『能力者』なんだぜ!?


「突き刺され――『雷弾』ッ!」


 弾丸の形をした雷が、光速でヤツらの肩を突き刺す。……流石に殺すのはね!?


「ぐっ……」

「てぇ……」

「今だ、あっちへ!」


 俺を庇ってくれた少女を連れて、人気のなさそうな道を走り進んだ。


 *


「はぁ……はぁ……」


 息を整えて辺りを見渡すが、まったく見知らぬ地だ。

 死後……か。つまりは日本じゃねーよな。……ふむ、どこ!?

 …………いや、それよりも。


「なんかわかんねーけど、ありがとう。多分俺を助けてくれたん……だよね?」

「助けた訳じゃないよ」


 少女はそうつぶやく。

 俺の脳内を疑問の二文字が埋めつくした。命懸けで庇ってくれてたのに?

 ……更なる混乱が押し寄せたが、更に少女は紡いだ。


「もう人が死ぬのはこりごりだから」

「ツンデレ?」

「ツンでもないしデレてもない」


 ふんと明後日の方を向いてしまった少女を宥めて、俺は状況確認を行った。


「まず、なんで俺狙われてんの?」

「それは……君がだと思われてるから」

「…………は?」


 どういうことだ? 何が起きてんだよ……。

 俺は誰かを殺したことはないし、生前もきっとないはず。

 なのに俺が……殺人犯? バカバカしい。


「何かの間違いだ」

「じゃあその左手首、見せて?」

「こんなもん幾らでも見せてやる」


 見せびらかすようにして左手首を晒すと、少女は生唾をゴクリと呑み込んだ。

 ……さっきからなんなんだ? 訳わかんねーよ。


「やっぱり……」

「やっぱりってなんだよ。ほらちゃんと〝1〟じゃねーか。……1、だと?」


 そこまで言って、数分前の思考が光の速さで駆け巡る。

 確か、BO3で俺を倒したアイツ、レベルが2に上がっていたはず。

 結果として勝った俺は1のまま……なんでだ?


「き、君は?」

志賀桃香しがももか

「……そっか、志賀さんは?」


 言うと、スっと左手首を見せてくれた。……よかった、リスカしてなかった。いや、見るとこちゃうだろ。


「〝3〟……? なんでだ? なんの差だよ……」

「BO3……それはつまり、2勝したら終わりのデスゲーム。でも君は〝1〟のまま。それはつまり……対戦相手をでバトルの強制終了を行った――それが総意見」

「俺が殺人を行って早くゲームを終わらせた、そう思ったからヤツらは殺しに来たってのか……?」


 俺の問いかけに、コクリと少女が頷く。

 怒り心頭な俺だが、爆発しないのには理由がある。それは――どこか納得してしまっているからだ。


 もちろん殺しは行っていない。自分が一番理解している。

 だが、立場が入れ替われば俺もそいつを殺人犯扱いしたかもしれない。

 ……クソ、弁明のチャンスは無いのか?


「さぁ……ゲームを始めよっかー!」


 チャンスは訪れることなく、新たなデスゲームが幕を開ける――

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