第1話『BO3、始動』
〝
能力『血液を好きなモノに変化させる』〟
「……なんだよ、それ」
また物騒な能力だな……。
これは強いのか? ……また微妙なラインを突いてきたな。とりあえず試してみるか。
貼った絆創膏を外し、机に一滴の血を垂らす。
「ペン」
声を発すると同時、垂れていた血はペンへと姿を変え、血の痕跡は無くなった。
「なるほど……これは強いんじゃないか?」
そもそもファンタジー世界において、主人公が無双するのは当たり前。
だから俺の能力が強くなければ誰も守れず、英雄なんて程遠くなる。
自信のついた俺は、一先ず必要と思われるカッターをポケットの中に仕舞い、次の報告が行われるまで待つ。
十分してアナウンスが部屋に鳴り響く。
それと同時に部屋に置かれていたテレビが点き、ピエロαが映る。
「Ladies and gentlemen! 君たちはもう自分の能力確認したかな? したよね、しちゃったよね気になるもんね! いいんだよ、人間は心が弱いんだからァ」
いつでも煽りを忘れないピエロαに苛立ちを覚えつつ、話を逃すまいとテレビを注視。
「能力だけ知ってもつまんないよね、だからとりあえずBO3してみよっか」
「な……ッ! そんな簡単に言えることなのか……?」
だが、それだけ簡単に決められるということは、きっとデメリットはないのだろう。
じゃないと割に合わない! 一回死んだからって二度目も安いわけではない!
「そうだなぁ……ルールは簡単にしようか。負けた方は死ぬより怖い拷問を与えよう。それくらいのが本気になるよね? さぁさぁもっと怒って本気出してぇ! デスゲームの開始と行こうじゃないのぉ!」
「拷問だと……ふざけ――ッ!?」
このテレビを見ていた者なら皆が怒り狂うだろう。
だけど刹那に視界は闇へと吸い込まれていった。
*
「……ここは?」
目を開けるとそこは、セ○ゲームに近い場の脇に立っていた。
ぼやける視界が戻ると、対戦相手と思われる相手も対角線に立っていて目が合った。……アイツって。
「兄ちゃんが敵かぁ? こりゃあ申し訳ねぇな、楽勝すぎて笑っちまうぜ」
別に俺の体格が小さいとか、太り過ぎとか痩せすぎているとかそんなことはない。至って普通の高校生だ。
そんな中肉中背な高校生を高笑いして馬鹿にするのは、背丈2メートルを超えレスリング体型の男だ。
だからこそ返す言葉が無く、俺は立ち尽くすしかなかった――能力が無ければな!
『血変』の能力さえ上手く使いこなせれば、俺の負けはありえねぇ!
「準備出来たァ?」
デカデカと飾られたモニターに映されたピエロα。気持ちわりぃ。
俺も相手も同時に頷くと、ピエロαは一呼吸置いて。
「しあいかいしー」
そこは英語じゃないんかい! と、ツッコミたい気持ちを抑えて俺はカッターを取り出す。
その間も余裕ぶって何もしてこない相手に、勝利を確信して指先を切り裂く。
ぽたぽたと垂れる血を見てニヤつく俺に、相手はふわぁと欠伸をして。
「自傷行為で喜ぶとかとんだドMだなぁ。さっさとかかってこいよ、兄ちゃん」
「言われるまでもないさ」
相手に向かって血を飛ばす。
不審に思った相手だが、両手を合わせるだけで特に何もしてこない。
――勝ったな!
「手裏剣!」
パッと見ただけでも十滴は飛んでいる。
何もしなければ手裏剣が突き刺さってお前の負けだ――ッ!?
「おいおい、どうした?」
飛んだ血はそのまま地面にぽたりと落ちる。
特に何も起きなかった。血は変化することなく落ちるのを見て、相手は口を開いた。
「俺の能力はなぁ『両手を合わせると半径100メートルの能力を無効化する』んだよ。ちょうどこの場は100メートルくらいだ。俺がどこに行こうが能力は無効、兄ちゃんの勝ちはないかもなぁ」
「クッ……! ピエロ、ステージを出るのは?」
「ダメに決まってるでしょーよ。一回は死んでも復活させるから安心してねー」
そりゃBO3なんだから当然だろ……いや、今はそこじゃない。
能力無しでレスリング体型に勝つことなんて出来るのか……? 普通に考えれば無理だ。負け確だ。
――あくまで〝普通〟なら、な。
一点だけ勝機に導く光が差している。
完璧な能力なんてきっと存在しない。ならば俺は付け入る隙を見つけ出して、そこを突くのみ!
「ダラァァァァァァ!」
馬鹿みたいに相手向かって突き進む。
相手は口元をニヤつかせているが、ニヤつくのは俺の方だ。なにせ相手は――
「手が使えねーんだろ!」
突っ走って殴ろうとする中、相手は蹴りを入れようとする。……まぁ、そうしかねーだろ。
蹴りか頭突き、その二択しかないのであればどちらも避けられるよう横に向かって回転し、俺はローキックを繰り出す。
「後ろは場外だ! 吹っ飛べクソナード!」
ローキックは見事腹部に当たり、俺は勝利を確信した――のは一瞬だった。
「貧弱軟弱最弱! この程度が俺に勝つために考えた案か? ……身体能力だけじゃなく頭も弱いみてぇだなぁ!」
「なんだ――とッ!?」
何が起きたのかはわからない。
わからない中一つだけわかることがある。それは、俺が〝負けた〟という事実。
「負けたらスタート地点。君は後がないよォ頑張って頑張って後ろは拷問が迫ってるねぇ」
「……クソ」
どうすればいいんだ? なにか案は出ねーのか?
ここで限界を超えて見せろよ、俺! 何か少しくらい付け入る隙はあるはずだ!
「ククク」
ぐっと睨めつける俺だが、相手は高笑いして余裕の表情。いや、馬鹿にしている感満載だ。
「何がおかしい……!」
怒りの沸点が下がった俺は、あの程度の煽りすら許容出来なくなっていた。
そんな俺を相手は一瞥すると、左手首をこちらに向けた。
100メートル近く先のものが見えるはずもなく、相手は口を開いて説明してくれた。
「レベルが2に上がっちまった。勝った俺が2にあがり、多分兄ちゃんは1のまま。世界は残酷だよなぁ?」
くつくつと肩を揺らす相手に、俺は勝ち筋が遠のいていくのを感じた。
1の時ですら勝ち目がなかったのに、2に上がったのか……? そんなの、どう勝てばいいんだよ……!
〝
能力『両手を合わせると半径1メートルの能力を無効化する』
レベルアップにより、1.1メートルへと成長〟
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