06: daddy dearest

「新介君」

 バスを待ってると、ぼろぼろの背広を着たホームレスが話しかけてきた。弘明の親父だ。

「あの子がね、家に呼んでくれたんだ。すごく嬉しいよ」

 こいつは何ヶ月か前、公園で俺と浅彦に声をかけてきた。自分からはなにも言わなかったけど、すぐ弘明の親父だってわかった。こんなドイツ人みてえな鷲鼻、めったにいねえ。

 それ以来こいつはちょくちょく俺の視界に現れるようになった。弘明の話が 聞きたくてしょうがないって感じで。見え見えだったけど、俺はなんか可哀想だったから適当に話を合わせてた。

「浅彦君には感謝してるよ。でもあんなことになって……」

 俺は決して人の目を気にする方じゃないけど、こいつと一緒にバスに乗るってのは結構勇気がいる。ってかバス代どっからちょろまかしたんだろ。

「彼の言うように、もっと早く弘明に会っておけばよかったのかもしれない」

 格好はともかく、口調はいかにも大企業の幹部って感じ。こいつも運が悪かったんだな。

 週一くらいでこいつと話すようになっても、俺は弘明にはなにも言わなかった。おまえの生き別れの親父、今はリストラされてダンボールに住んでるぜ、なんて言えねえだろ?

 でも浅彦は言いやがった。

 最初はあいつも黙ってたんだ。なのにある日突然、唐突に、しかもゲーセンにでも誘うような感じで、

「おまえ、親父に会いたい? なら二丁目公園行こうぜ」

 その後はよく覚えてないけど、さっきのよりもっとキツイこと言った。弘明は呆然って感じで、かなりビビってたし、あいつのデリカシーのなさにもキレてたみたいだ。でもなんか結果的に今はいい感じになってるから、マジ訳わかんねえ。

「じゃあね、新介君。また会えるといいな」

 栄養失調のせいなのか、顔中の筋肉が伸びきってる片岡氏は、そう言ってバスから降りた。

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