君と最期の365日

星月 貴音

第1話 衝撃と恐怖


「まぁ、。」


「―――――うそ。そん、な―――――。」


「残念ですが。」


「先生、あの子はまだ15なんですよ?!それなのに、あと、1年しか生きられないなんてっ!!」


 ―――――――声が聴こえる。

 これは、お母さん?あと1年って何?まだ15って、私、死ぬの?

 あと1年で、死ぬ。

 ―――――そっか。死ぬんだ、死んじゃうんだね、私。


りんさんが発症したのは、肺癌はいがんの中でも治癒ちゆがほぼ不可能と言われている小細胞性肺癌しょうさいぼうせいはいがんなんです。ですから、できる限りの処置を行っても2年持ちません。りんさんの場合、既にがんが進行しているので、頑張っても1年ほどが限界かと。

 早乙女さおとめさん、どうされますか?ご本人に、お伝えしますか?」


「いえ。あの子には、何も言わないでください。せめて、幸せに生きて欲しいから。」


「わかりました。」


 待って待って待って!

 私聞いてる!!ねぇ!聴こえちゃってるよ?!


 殺風景さっぷうけいな病室のカーテン越しに、2つの影が近づいてくる。お母さんと病院の先生だ。さっき聞いた話の所為せいでパニックにおちいっていた私は、もう何が何だかわからなくなって、目をつぶり寝たふりを決行した。


りんさんは今、鎮静剤ちんせいざいが効いているので、あと10分くらいで目が覚めると思います。それまで付きってあげてください。」


「ありがとうございました。先生。」


 え?待って?あと10分もこのままなの??もう私起きてるんだけど!

 お母さん!ありがとうじゃない!!私意識あるからね?!

 でも、今すぐ起きる勇気はないな。もうしばらくこのままでいよう。聞いてたのばれると面倒だし。


 結局、10分も寝たふりなんて続かず、6分くらいで目を開けた。

 ゆっくりと目を開くと、お母さんは窓の外の夕日を眺めてた。よく見ると、目目の周りが少し赤くれていた。泣いていたのかな?不意に、お母さんの頬がきらりと光った。やっぱり、泣いてるんだね、お母さん。私の所為せいで。


 お母さん、悲しませて、ごめんなさい。親不孝おやふこうな娘で、ごめんなさい。親孝行おやこうこうはできそうにないから、せめて、良い子にしているね。だから、許して?


 静かに鼻をすすったお母さんに、そっと声をけた。


「・・・・おかあさん?どうしたの?ここは?」


 突然声を掛けた所為で、お母さんは若干慌てて顔を擦っていた。


「目が覚めた?りん。どこか痛いところはない?大丈夫?ここは病院よ。」


「なんで?」


 私がくと、お母さんは一瞬動きを止めた後、言い聞かせるようにゆっくりと話した。話しながら肩にかかる髪を指で弄っているのは、お母さんが嘘を吐くときの癖。本人は気づいていないけど。そうだよね。言える筈ないもんね。あと1年くらいしか生きられないなんて。


「どうして病院にいるのか、覚えていないのね。凛は、喘息ぜんそく発作ほっさたおれたのよ。だから、今日は入院ね。明日検査で異常がなかったら帰れるわよ。」


「喘息・・・。」


 そうか。私は喘息ってことになったんだ。嘘吐かせてごめんね、お母さん。


「そっかぁー。そんなんだね。最近風邪気味だったから、拗らせちゃったのかな?心配かけてごめんね?お母さん。」


 ねぇ、お母さん。私、ショウサイボウセイ肺ガンって病気なんでしょ?

 癌なんだよね?1年くらいって?1年以上?それとも1年未満?本当に1年生きられるの?私は明日も生きてるの?

 ねぇお母さん!嘘吐かないでよ?!私だって、本当のことを知りたいよ!!!

 私、これからどうなるの?!怖い。怖くて怖くて仕方がないよ!

 お母さんばっかり泣かないでよ!私だって、私の方が、もっとずっと泣きたい気分なのに、ずるいよ。


「謝らなくていいのよ。あなたはゆっくりしていなさい。」


 何も知らないお母さんは、優しい笑顔を張り付けてそう言った。


「うん。ありがとう。そうさせてもらうね?」


 あぁ神様。私はこれからどうやって生きて行けばいいんでしょうか?上手く笑える自信がありません。


『7月17日。残り365日?


 今日、病院に行った。病院の先生が、肺癌はいがんだって言ってた。

 質が悪い癌だから、あと一年くらいしか生きられないって。

 

 これは、何かの夢?まだ15歳なのに。あと一年しか生きられないって、そんなこと、信じらんない。

 高校、入学したばっかなのに。

 まだ何にもしてないのになぁ。最悪だよ。

 だから、日記を書くことにした。今まで書いたことなかったけど、私が今生きているってことを残したかったのかもしれない。』

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