CCネカマ姫仮想世界に舞い降りる!

不知火読人

第一章 アイリス仮想世界に立つ

第1話 ザンサム平原の戦い

「それで敵軍の様子はどうなっているんですか?」

 ボクは将軍であるギルドマスターマスターと軍師のキキさんに尋ねる。


「我が方に参陣したプレイヤーは千名ちょっと、レイドにして40ほど、

 敵軍は2万。小太郎達の報告によると大半は農民などのNPC、精鋭として狩人や

 警備兵を徴収した連中が3千程、魔族はいるようですが、魔族の部隊はなく本陣で指揮官と共に結構な数のが軍議を荒らしているそうです。それと敵勢力に味方したプレイヤーは王都とこちらに分かれたようですが、こちらに着陣している者はレイド二つ分ほどです、姫様」

 我々のギルドマスターであり他のギルドとの交渉や補給の確保を一手に引き受けて

 くれているギルドマスターマスターからそう報告が上がる。


 それに対して鷹揚に頷くと、

「キキさん、こちらの戦い方は予定通りで構いませんか?」


 そう彼女に問いかけると、眼鏡をかけた白髪ポニーテールの爆乳猫耳族は

「予定通りで構わないかと。

 我が方を半包囲する敵勢に対し、我々は中央の本陣を目指す。

 左翼は防戦に徹し、右翼は混戦になる前に

 ジョンの魔砲車部隊を先行させ敵左翼を蹂躙し、

 我が方の先陣の負担を軽くさせます。

 敵軍には未だジョンの部隊は見つかっていないようですから

 かなりの効果が上がるかと。

 敵軍のプレイヤーも轢き殺してくれれば最上なのですが、

 こればかりはやってみないと…」

 彼女が語り終えるのを待ち。


「敵軍は数の多さを頼みに弛緩している可能性があると思いますか?」

 ボクはこの場にいる指揮官級以上の者達に問う。


「それはありえないでしょう。」

 姉のライバルだった獅子人族の男性が威厳のある声で応えた。


「敵軍は大軍なれど個人で実戦を経験した者は少なく、

 指揮官は街の治安を守ることはできても、戦場で効率よく自分達より強い者を

 殺した経験はありません。それ故我らを恐れこそすれ油断はないかと。

 ですが味方が倒れるのを見た直後混乱が起きる可能性はあります」

 確かこの人は現実世界で戦争した経験があったと言ってたな…


「NPCを参戦させるとは魔王め狡すっからいプログラムの改ざんをしてきおって!」

 誰が言ったのか怒りを込めた呟きが聞こえる。


「今頃はうちの裏方さんが手を打っていると思いますので、次の戦には徴兵できないでしょうし、何ならこの戦でも機能しない可能性はあります。ただそれをあてにするのはやめた方がいいと思いますが…」

 指揮官たちに釘を刺し、

「この仮想世界で初めての戦争です、皆さんは致死プログラムを外されていますが、

 それでも殺し合いをすることに変わりありません。皆さんも指揮下の方々も

 精神的に追い込まれている可能性はありますので、十分注意を払って万全の形で

 戦に臨んでください」

 そういって連絡事項や報告を交換し、開戦前の最後の軍議を解散させた。


「姫様、お加減はいかがですか?」

 優しげにギルマスマスターが問いかけてくる。

「姫ちゃんは戦うと決めてからほぼ休みなく、いろんな人と交渉してきたからね。

 気疲れはしてるんじゃないの?」

 キキさんも心配してくれる。

「ちょっと疲れてるけど、ここでの決戦が終わったら王都包囲戦でしょ?

 それまでボクのすることは極端に減るし、二人に任せることは増えるけど

 その間にきっちり休ませてもらいますよ」

 軽く微笑みながらそう答える。


 二人としばらく談笑し、夜が更ける前に床に就く。

 明日はこの世界始まって以来の異変が起きる。

 そう思うと緊張が増すが、ボクは

「アリス、明日の朝に起きられる程度の睡眠導入剤を打ってもらえるかな?」

 ボクの肉体を保護してくれるAIにお願いする。

「承知しましたご主人様♥」

 相変わらず蕩けそうな甘い声で返事をしてくれる。

 そんなことを考えているうちに眠っていたのだった。




 銅鑼の音が鳴る。

 我が軍の右翼の外周を回って巨大な馬型のゴーレムに引っ張られた

 魔砲車から彼らの前方に位置する敵左翼陣の真ん中に大火力が集中し、

 閃光と爆音とともに敵指揮官や魔族、敵兵が吹き飛ばされる。


 この魔砲車はジョンさんが

「術兵は火力があるが突撃力がない。だから移動手段に術兵を乗せることで

 火力と突撃力を併せ持つことができる…はず」

 と言い出したことで開発を進めたものだが、

 今のところ欠点もなく、それどころか敵陣を砲撃で蹂躙しながら駆け抜け、

 敵後方で方向転換したと思えば戻って又敵を蹂躙しつくすという

 敵にとってまさに悪夢の部隊として活躍している。


 そして敵左翼が崩壊したところで、

ヤシャシーン突撃

 太鼓の音と共に先陣の綾芽の叫び声が聞こえる。


 綾芽の率いる我が軍の先陣最精鋭部隊はジョンの蹂躙によって陣を崩された敵軍に楔のように撃ち込まれ、その猛撃によって敵軍は完全に崩壊したのだった。


「あとはどれだけの魔族や敵プレイヤーを削ることができるか?が問題かな?」

 そう独り言ちると、床几に座り逃げ惑う農民NPCは出来るだけ殺さないよう指示を出す。

 それでも被害は出るだろうが、この指示によって消滅しなくていいNPCがいるならその方がいい。

 自己満足でしかないかもしれない、全てを救えるなんて傲慢でしかないかもしれない。

 でも何もしないままよりはましだとは思う。


 この後しばらく戦闘は続くが、仮想世界初の戦争において大勝したボク達は

 更に勢力を増し、王都包囲戦に向けて移動するのだった。


 全ては姉を殺した71人の支配者ラビとそちら側にいるものを皆殺しにする為、

 そして人類を支配者ラビの頸木から解放する為。

 あらゆる手段を用いて奴らを滅ぼすと決めたのだから…


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