第80話 花丸
俺が首を吹っ飛ばしたのと同じようなタイミングで、ロウファが緑の頭を勝ち割るのが見えた。
そのままゆっくりと倒れる緑を背に、ロウファと目が合った。
「お疲れさん」
「オメーもな?」
お互いにそう言って、武器を合わせる。
金属同士の甲高い音が短く響き、それを合図に周囲から歓声が起こる。
拠点で援護してくれていた仲間も駆けて来て囲まれ、俺とロウファが胴上げでもされそうな勢いだった。
その人垣を掻き分け、オーズさんがゆっくりと近付いて来た。
なんかちょっと目が潤んでる気がする。
周囲は鎮まり、オーズさんの言葉を待っている。
完全に静まり返った俺たちに囲まれ、オーズさんは口を開いた。
「皆良く戦ったのである!!見ているだけだった吾輩がこれ以上語るは無粋であろう――――――」
そう言って、オーズさんは俺を軽々と担ぎ上げて肩に乗せた。
全員の視線が俺に集中する、つまりこれは俺が締めろって事か?
またガラじゃねぇのが来たなぁ…………けど、
「俺たち全員での勝利だ!!この勢いで巣もぶっ壊しちまおうや!!」
俺が拳を振り上げると、戦いの前と同じく全員が拳を高々と挙げて吼えた。
それはまるで自分たちが樹海を制覇したかのような気分にさせてくれる、爽快な勝鬨だった。
「みんなおつかれー、凄かった!うん、もう何て言うか凄かった!」
興奮し過ぎて語彙力の死んだベルタが俺、ロウファ、ヨードに駆け寄って来た。
「何言ってんだ?ベルタだって充分凄かっただろうが!」
「そうそう、拠点に近付くにつれ強化が強まって行くのを感じて心強かったよ」
こっちも興奮してるのか、ロウファとヨードが素直にベルタを称賛する。
確かに凄い強化だった、あれがなけりゃダメージが通らないままだっただろう。
俺も素直にそれを伝える事にした。
「ベルタたちの強化がなかったら、決め手を欠いて撤退してただろう。あの二匹を仕留められたのはベルタたち援護をしてくれていたみんなの力が大きい、ありがとう」
「べ、別にウチはウチに出来る事をやっただけだし?みんなだってそうじゃん?みんな頑張った!みんなみんな出来る事を頑張った結果だよ!」
ベルタは頬を赤くして、早口で捲し立てる。
そうして四人で誰からともなく笑い合い、勝てた事、無事だった事を喜んだ。
その日の深夜に目が覚めた。
まだ気分が興奮してるのか、すっきりと目覚めてしまった俺は男子全員を起こさないように宿舎から出て櫓の上へと昇った。
「夜更かしは感心せぬのである」
結界に守られてるので見張りなんて必要ないはずなのに、オーズさんは起きて居た。
俺に背を向けたまま、そう言ったオーズさんだが、ぼんやりと櫓から空を見上げているその声色は優しかった。
「すみません、何か目が覚めてしまって……………」
俺はそのままオーズさんの隣へと腰を下ろし、同じように空を見上げた。
オーズさんの傍らには瓶が置かれていた。
微かに香って来た甘い匂いは酒だろう、あまり飲まないオーズさんが酒を飲んでるのは珍しいこともあるもんだ。
「ルシード、貴様とはもう長い付き合いであるな…………」
「そうですね」
俺がこのクソガキになってから出会い、ミューレさんと同じくらい信頼のおける人だ。
「………………貴様に、逢わせたい人物が居るのである。誰――――とは事情があって名前は言えぬが、吾輩の師匠である。今年の模擬戦闘試験大会を観に来るそうなので先に伝えておくのである」
オーズさんが俺に逢わせたい人?しかも師匠?
オーズさんの師匠と言えば俺も教わった神威の使い手だろ?
メチャクチャ強ぇんだろうな!?ワンチャン俺にも直々に何か教えてくれたりしねーかな!?
やたらとテンションが上がった俺だったけど、オーズさんの纏う雰囲気からあまり追及はしてほしくなさそうだったので止めておいた。
模擬戦試験大会で逢えるんだろ?だったらその時のお楽しみに取っておこう。
そん時にはもう忘れてるかもしれねーけど。
「今日は、危ない部分もあったがよくやったのである」
「あの時にも言いましたけど、全員で掴んだ勝利です。俺一人が言われるのは違うと思います」
「ふっ、言う様になったのである。だがそれで良い、驕るな。腐るな。そうすれば人は無限に成長できるのである―――――説教クサくなったであるが、今日の貴様は褒められるだけの事をしていると吾輩は思った、そこは素直に受け取ると良いのである。仲間を奮い立たせ、仲間を想い、仲間と共に駆けるその姿に、不覚にも泣きそうになったのである」
オーズさんは俺がエンルム家に居た時の状況を知ってるからこそ、そんな風に思ってくれたんだろう。
その気持ちは素直に嬉しく思うし、感謝もしてる。
けど照れくせーのはどうにもならない。
「何言ってるんですか?将来俺が結婚して子どもが産まれたら、オーズさんに抱っこさせるのが夢なんですからね」
「むぅ、吾輩は貴様の父親ではないのである」
「オーズさんとリズ先生との子どもと一緒に訓練するのも密かに期待してます」
「さりげなくプレッシャーをかけるのは止めるのである」
そうして揶揄った後、静寂が訪れる。
眠気がやって来てくれたのを感じて、俺は立ち上がる。
櫓から降りようとしたところで、オーズさんから声をかけられた。
「貴様は吾輩にとって、花丸の生徒である」
相変わらず背を向けたままだったが、俺にとってもそれくらいで丁度良かった。
「俺にとっても、オーズさんは花丸の師匠です」
顔を見ていない分だけ、こうして素直に言う事が出来るってもんだ。
やっぱ恥ずか死ぬ気分なのは変わらないけどな?
翌日行われた巣の殲滅戦では、最大戦力を欠いたバ・アントに手ごたえは無く、あっという間に女王以下バ・アントたちを殲滅駆除した。
図体がデカいだけの女王なんて、俺たちの敵じゃなかった。
壊滅した巣を背にオーズさんが全員に対し、
「うむ!皆良くやったのである!!花丸であるッ!!」
その言葉と共に、こうして俺の校外実習は幕を閉じたのだった。
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