第47話 イザベラの不満は俺に言え!?

大会の全日程が終わった。

町は普段の穏やかさを取り戻し、俺たちも通常授業に戻った。

あれからイザベラから仕返しが来ると思ってたんだが、何もしてこない。

学校には普通に通っているけど、以前の様な女王様気取りでは居られなくなっているから、それどころじゃないのかもしれない。

けど俺やデラのように逃げずに、ずっとこの学校に通い続けている根性は素直にスゲーと思った。

そういう気合の入った奴は嫌いじゃない。


イザベラは教室で完全に孤立していた。

今までの傲慢な行い、不遜な振る舞い、それらをこの間の大会という公の場で断罪されたイザベラにもう擦り寄る奴なんて居なかった。

シルヴィオも周囲の連中に止められて、手が出せないのをもどかしく思っているようだった。


「ねえねえルシードくん、マリーちゃん。イザベラちゃんを助けてあげられないかな?」


昼休みの食堂で俺とマリーと一緒に食事をしていたモアが、困ったような顔で訴えかけて来た。

それを聞いたマリーは明らかに嫌そうな顔をする、まだ大会でのことが許せないんだろう。


「自業自得でしょ?どうして助けてあげないといけないの?モアだって彼女に散々悪態吐かれてきたでしょう?」


マリーはモアの訴えを切り捨て、更に問いかける。


「うん……それはそうなんだけど………教室でイザベラちゃんの事知ってるのに無関心で居るのは虐めてるのと同じじゃないかなーって思っちゃって………」

「それは――――――………」


モアの言葉にマリーも言葉に詰まる。

関わり合いになりたくないだけであっても、事情を全て知っていて無視を行うのならそれは虐めと変わらない。

モアはそれに気付いちまって、悩んで相談してきたのか……。


「けど、俺が何かするのは逆効果にならないか?」


結果として漏らしたのはイザベラだが、原因は俺の腹パンだろう?

何で試合前にトイレに行かなかったんだ?なんて今更言ったって意味がないからな。

そんなイザベラが馬鹿にされてる原因を作った俺が、何か言ったところで神経逆撫でするどころか神経千切りに行ってるだろ?


「それはきっと大丈夫だよ。だってルシードくんはだから!」


ちょっと待て!誰がたらしだ!前世では女っ気なんざ無かったっつーの!


「確かにルシードはたらしだけど、幾ら何でも自分を嫌悪してる相手に通じるのかしら?」


マリー!?お前もか!?


「イザベラちゃんってああ見えて結構寂しがり屋さんだから、話しかけてくれるのは嬉しいと思うよ?」

「それが嫌ってる相手でも?」

「うーん………そこはわかんないけど、ルシードくんなら大丈夫だよ」


根拠が無ぇ!!

これってあれだろ?話しかけたら「気安く話しかけんな!」的な罵倒を俺だけが浴びるパターンなんだろ?


「俺じゃなくてモアかマリーが行けば良いだろ?」


「それじゃダメなの、私が行ったらきっと「ルシードくんの差し金か!!」的な事言われて終わっちゃうから」

「私も無理、まずは彼女に謝ってもらわないと話しかける気にもなれない」


めんどくせー。

めんどくせーけど、一人必死で突っ張ってるイザベラがこのままなのは確かに嫌だ。

友だちは無理かもしれねーけど、アイツの内にある俺への不満やイライラを聞いてやる事くらいはできるだろう。

ルシードへの不満は俺が聞かないとな?



その日の放課後、俺は早速気合を入れてイザベラに話しかけた。


「イザベラ、この後暇か?もしよければ俺と一緒にオーズさんの訓練を受けないか?」


我ながら色気もくそもねーセリフだと思う。

けど気晴らしに遊びにでも誘うつもりだとモアとマリーに言うと、


「「二人っきりで遊びに誘うのは絶対にダメ!!」」


と、言われたからな。

きっと嫌われてる俺が遊びに誘えば、イザベラの地雷を踏み抜くと思って止めてくれたんだろう。

その辺俺は鈍いからな、二人に止めてもらって感謝しかない。


「どうして私が貴方とオーズ先生の訓練を受けねばなりませんの?」


てっきり無視されると思ってたんだが、予想外にも返事が来た。

その声に以前の様な張りは無く、弱弱しさを感じた。


「今、絶対に暇そうだからな、うじうじしてるくらいなら身体動かせ、多少気晴らしにはなるぞ?」


いつかオーズさんに言われた様な事を尤もらしく言ってみる。

いつの間にやら俺も超筋肉論に毒されてるな…………。


「――――――誰のせいだと思ってますの!?」

「三割くらい?は俺のせい、残り七割お前のせいだ。そんだけ声張れりゃ元気は有り余ってんな?行くぞ?」


俺は尚もギャーギャー喚くイザベラの言葉を聞き流しつつ、手を取って訓練場へと強制連行する。

俺の手を振りほどこうと藻掻いたりもしたが、はっはっは逃がさねーよ。



訓練場に現れた俺とイザベラを見たオーズさんは一瞬驚いた顔をした後、白い歯を見せて笑った。

その隣に居たリズ先生も口に手を添えニコニコとしていた。


「ルシードよ。いつの間に仲良くなったのである?」


「オーズ先生!!私たちは仲良くなどありませんわ!!」


オーズさんも解ってて言ってる。

けどイザベラも一々律儀に反応するなよ、欲しがりか?


「今日から一緒に練習に参加します、問題ありませんよね?」

「えぇ勿論です。己を高めようとする自主性のある生徒が居てくれるのは嬉しいものですもの。ね?オーズ先生?」

「う、うむ………」


俺の質問にリズ先生が答えて、オーズさんを見つめる。

デートに密かに付いて行くなんて野暮な真似はしてないが、二人の雰囲気から察するに悪くないんじゃないか?

オーズさんがタジタジなのも見てて微笑ましいもんだ。


「ではリズ先生にはイザベラの指導をお願いするのである。ルシードは吾輩といつものトレーニングである」


「はい!お任せください!」

「宜しくお願いします!」

「まったく………どうして私がこのような事…………」


ブツブツと文句を言いながらも、運動着に着替えに行くイザベラの背を見た俺たち三人は、顔を見合わせて笑い合った。

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