軍学校へ転入編

第19話 ふくよかさんを助ける

馬車に揺られ、やっと到着した軍学校。

俺は早速、これから世話になる寮に向かう。

荷物は大きめのトランク一つ、身分をひけらかすのはあまり良くないとオーズさんから聞いてたから簡素なつくりの衣服が数枚入ってるだけ、学校には指定の制服(断じて半ズボンじゃない)があるから着る機会はそんなにないだろうが。


「では吾輩も職員用の宿舎に荷物を置いて来るのである、明日からの学校生活楽しみにしておくのである」


大きな荷物を幾つも担いだオーズさんとはそこで別れて、俺は事前に通知された寮への地図が描かれた紙を片手に歩いていると、


「アンタってほんっとにグズよね!!」


遠くから聞こえて来た声のした方に目を向ける、そこには軍学校の制服に身を包んだ女生徒たち四人が何かもめてるようだった。

三対一か?女の喧嘩とはいえ見過ごせねーな。

俺はそこに向かってふらりと歩き出した。


「シルヴィオさまとペアになれなかったらアンタのせいなんだから!!」


「ご、ごめんってばぁ……………」


近付くにつれ、状況が何となく見えてくる。金髪のう〇こみたいな髪型をした女児が、黒髪のロング三つ編みのふくよか女児を罵倒していた。

その金髪う〇この後ろには他に赤髪ツインテールと青髪おかっぱの二人女児が居て、止めるわけでもなくニヤニヤといけ好かない顔をしていた。

喧嘩じゃなくて虐めかよくだらねぇ………俺のさっきまでの気分が台無しだわ。

最初から喧嘩する気の無い奴を攻撃して嗤うとかクソ過ぎんだろうが!!


「ガキのくせに気持ち悪ぃ笑い方してんじゃねーよ」


転入初日早々問題を起こすわけにもいかないからその言葉は聞こえないよう小声だ。

何か良く分からんが、金髪う〇こがシルヴィオって奴と何かのペア?になりたいけど、ふくよかが何か失敗したって事か?

あと、どうでも良いけど金髪う〇こよ?その髪型、致命的に似合ってねーのな?近付いて流行だとかに疎い俺でもビビるわ。

内心そんな事を思いながら、彼女らの間に何食わぬ顔をして割って入り。


「あの、すみません。此処に行きたいんですけど、どうやっていけば良いですか?」


空気読めない奴を装って、ふくよかに地図を見せて尋ねる俺。


「え?あぁ此処って男子寮だよ?ええっとね?この道を真っ直ぐ――――――……」

「ごめんなさい、迷っちゃいそうなんで案内してもらえますか?」


ふくよかはそんな場面なのに俺に道を教えようとしてくれる良い奴のようだった。

俄然俺はこれ以上この場に彼女を留めておきたくなくて連れ出そうとしたんだが、


「ちょっと!?貴方一体何なんですの!?わたくしたちの邪魔をしないでくださいませんこと!?」


金髪う〇こが耳を突き刺すような声でキャンキャン喚いて来る。

ミレイユといいコイツといい、どうして自分の声が喧しいって気付かねーんだろう?

録音できるならそれを耳元で同じ声量で流してやろうか?


俺は今気づいたという何食わぬ顔を装って後ろを振り返った。

顔には情けない感じの笑顔を貼り付けてはいるが、いつ手を出されても良い様に油断はしない。


「ごめんなさい、お取込み中でしたか?」


「この状況を見て良く入って来れますわね!?」

「全くですわ!!信じられませんわ!!非常識ですわ!!」


赤髪ツインテールが威勢よく言葉を吐き、青髪おかっぱがそれに同調する。

そりゃあ俺はお前らの邪魔するつもりで来てるからな?これ以上ふくよかに口出させねーよ?


「すいません、後にしてもらって良いですか?僕、寮に早く挨拶しに行かないと」

「そんなものわたくしたちの知った事ではありませんわ!!」

「あとギャーギャーうるさいんで静かにしてもらっても良いですか?耳がおかしくなりそうだ」

「失礼ですわね!!それよりもわたくしの話を聴いてますの!?」


「それじゃあ宜しくね?」


「無視するんじゃありませんわ!!」


ふくよかの背中を押してこの場を離脱しようとしたんだが、三人に阻まれてしまった。チッ!そのまま見逃がしておけばいいものを――――――……。


「はぁ?さっきから一体何なんですか?僕の邪魔をしないでもらえませんか?」


「そもそも貴方がわたくしたちの邪魔をしてるんですわ!!わたくしたちの話はまだ終わっていませんのよ!?」


俺がジト目で見ると、金色う〇こはその場で地団太踏んで怒りを露わにした。

……………分かり易い奴だなー、挑発のし甲斐がある。


「そんなくだらない事どうだって良いよ、行こう」


今度は俺がふくよかの手を引いて駆け出した。

早朝森ダッシュで鍛えた足腰と瞬発力をナメんなよ?

ふくよかの重さだって気にならない。寧ろ良いウェイトだ。


背後から「ムキー!!!」とか猿が癇癪起こしてるような声が聞こえて来たが、育ちの良いお嬢様だったのか、走って追いかけてくるようなことは無かった。

適当に角を曲がり追って来ないのを確認した俺は脚を止めて、手を引いて来たふくよかを見た。

軽く引くくらい必死の形相で、大きく息を整えていた。


「……………何か、ごめん」


俺としては颯爽と助けたつもりだったんだが、ふくよかにとって一番辛い結果になってしまったかもしれない。


「いっひいぇ。たっすけてぇ」

「無理して喋らなくて良いから!それくらい待つから!」


まだ息が上がってるのに喋り出そうとするふくよかの言葉を遮って、俺たちは手近にあったベンチに腰を下ろした。

どうやら適当に走ってきたこの場所は何処かの庭園らしく、綺麗に整えられた樹々と花壇が見てて心地よかった。

それは彼女にしても同じだったようで、息も絶え絶えだったのが漸くマシになって来て大きく深呼吸を繰り返すと、


「あの、助けてくれた………んだよね?本当にありがとう、私はモア宜しくね?」


やっぱきつかったらしい、助けた事を疑問視されてしまった。


「宜しく、モア。僕はルシード、明日からこの学校に転入する予定だよ」

「あ、そうなんだ?ルシードくんが噂の転入生なんだねぇ」


モアは俺の顔を見て、何か納得したような声を上げた。

噂ってなんだ?碌な事じゃなさそうだが、モアに訊けば教えてくれるか?

そんな俺の疑問が顔に出ていたのかもしれない、モアは朗らかに笑って、


「大丈夫。噂って言ってもこんな時期に転入生が来るなんて珍しいね~?くらいのものだから心配しなくて良いよ?」

「なんだ、そっか。教えてくれてありがとう」

「ううん。どういたしまして」


そこで言葉を区切ると、モアはベンチから立ち上がり俺に手を差し出してきた。


「それじゃあ、寮まで案内するねっ?」


手を繋ぐとか咄嗟じゃなければ恥ずくて出来るか!?と思ったのでしばらく見ていると、モアが不安な顔をして「ダメかなぁ?」みたいな泣きそうな目で見つめて来たので俺は仕方なくモアに手を引かれて寮への道を一緒に歩いた。





「此処が男子寮で女子が入るには許可を取らないとダメなの」


そしてモアは男子寮の隣にある建物を指差して説明してくれる、時刻は夕暮れ時となり、空は赤く、寮の敷地内にある街灯が灯りをともし始めていた。


「そしてあっちが女子寮、男の子は基本的に入っちゃダメなの」


「許可を取っても?」

「みんなからえっちって言われちゃうよ?」


何気なく訊いただけだったんだが、モアは頬を赤くしてもじもじしながらそんな事を言った。

…………待ってくれ、俺は何か変な事を言ったか?


「わかった、そう呼ばれたくないから近付かないようにする」

「うん。それが良いと思う」


まあ相手はガキだしな?何かするつもりも無い。

サリアくらいの美人さんが居るなら考える、考えるだけな?

俺の返事に穏やかな笑みを浮かべたモアは何かを思い出したように、


「そういえば、ルシードくんは何年生?」

「一年生だよ」

「そっかぁ!同い年なんだね?同じクラスになれると良いね?」


爛々と目を輝かせて、そう言ってくれるモアを見て俺は安堵していた。

虐められてたっぽいから心配してたが、これだけ良く笑えれば大丈夫だな。

活発で良い奴そうだから同じクラスになれたら面白そうだ。

またアイツらから虐められても助けてやれるしな?

そう思った俺は素直にそれを言葉にした。


「うん、同じクラスになったらその時は宜しく」

「えへへぇ……うん。こちらこそ!それじゃあまた明日ね?」

「あぁ、また明日」


そうしてモアと別れた俺は、男子寮の扉を開けて中に入るのだった。

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