第20話 酔っ払いお姉さんと、男子寮の女の子!?

寮のエントランスに入ると、ホテルのフロントの様な受付が目に入った。

部屋の番号は聞いていない俺は、誰もいないフロントに近付き呼び鈴を叩いた。


誰も出てくる気配が無えな。


俺はひたすらに呼び鈴を連打してみる事にした。

無人のフロントに”チーン”という軽快な音が連続で鳴り響く、途中ちょっと楽しくなってきた俺はリズムを意識してみたりと無駄にこだわって連打していると、


「誰ですか!?さっきから卑猥な音に聞こえる様に工夫を凝らして連打してる子は!?一回鳴らせばわかります、私にも準備があるんですからね!?」


黒く長い髪がぼっさぼさの眼鏡のお姉さんがほぼ下着姿で出て来た。

なるほど、この呼び鈴はエロいお姉さんを召喚する機能付きか。

ところでその恰好で何を準備してきたんだよ?

お姉さんは眼鏡を手で抑え、「むー?」とか言いながら俺を凝視している。


「はじめまして、今日からお世話になります。ルシードです」


「………………………………あぁ~…………ルシードくんね?話は聞いてます」


お姉さんは視線を泳がせて、頬を掻いた。

たぶんだけど、忘れてたくさいな。

そして酒臭いな。

お姉さん登場から今になって、フロントを挟んでいるにも関わらず酒の匂いが漂ってきている。

昨日深酒でもして今の今まで寝てたんだろう、慌てて出て来た感じがするし。

準備してそれって事は、さっきまで全裸で爆睡してたって事だろ?


「私が寮の管理人のファナルよ、宜しくね」


下着姿にカーディガンを羽織っただけという独特なファッションをしたファナルさん、カーディガンの前も開いたままだからもう黒いセクシーな下着が見える見える。

こんな人が本当に男子寮の管理人なんてやってて大丈夫なのか?

俺の疑いの視線を感じ取ったらしいファナルさんが、


「ふ、普段はこんな事無いんですからねッ!!今日はたまたまお酒を飲んでしまっただけで――――――……」


顔を赤くして弁解しようとするがそれも尻すぼみに消えて行く、まあそうだよな?昨日深酒したんじゃなくて、今日まで飲んでたんだからそりゃ寝過ごすわ。

ファナルさんも今の自分の姿を含め、説得力に欠けると漸く判断出来たらしい。

つーか生徒に下着姿見せといて、顔を赤くして涙目で俺を責める様に見てくるんだが、そんな目で見られてもな。


「と、とりあえずルシードくん、此処じゃなんだからこっちへ来てくれる?」


ファナルさんが飛び出してきた部屋の中へと入るように促されるが、何故だろう…………サリアが「行ってはいけません!!」と叫んでる気がした。


「いえ。部屋番号さえ教えて貰えれば」


俺は素直にそんな直観に従って、きっぱりとお断りする事にした。

だってあれだろ?目の前にエロいお姉さんが居ても手出し厳禁生殺しなんだろ?そんな拷問のような場所へ行きたいとも思わねーわ。

断られるとは思っていなかったらしく、ファナルさんは明らかにショックを受けた顔をして、


「あぁ………私がこれまで築き上げて来た真面目だけど優しい美人の先生っていうイメージがぁぁぁ………」


と、何やら燃え尽きた様にがっくりと項垂れて目が虚ろになっていた。

自分で美人の先生って言うか?と思ったが敢えて突っ込まない。

つーかファナルさんって先生でも在ったのか、確かに今回だけの失敗だとしても俺はファナルさんに対してはもうエっロい黒い下着のお姉さんとしか思えねーわ。

何故なら俺はファナルさんのこのセクシーな姿を忘れるつもりがない!!

既に脳内メモリーに焼き付けてしまっている、ごっつあんです!!


「ファナル先生?部屋番号は?」

「3074号室よ」


項垂れたまま力なく答えるファナルさんに、少し気の毒になった俺は、


「ファナル先生気にしないでください、僕は何も見なかった事にします。先生は同じ過ちを繰り返さないように気を付けて下さい」


一応、フォローのつもりで声をかけたんだが、


「天使………?」


ちょっと、何言ってるかわかんねーんだけど?

まぁ虚ろな目に光が戻って来たので、俺はそれ以上何も言わずに部屋へと歩き始めた。



途中廊下に掲示されていた地図によれば、この寮は三階建てで一年から六年生まで約五百人ずつ、計三千人の男子生徒が生活しているらしい。

一、二年生が三階部分、三、四年生が二階部分、五、六年生が一階部分の部屋になるようだ。

三階に着いた俺は開けっ放しのドアから部屋の中を少し見ると、何処も二人一部屋という事は俺にもルームメイトが出来るって事か………良い奴だと良いなと思う。

これ以上転校する羽目にならないように、俺も出来るだけ真面目な奴になっていかねーとなぁ…………努力目標として。

そんな事を考えていたせいで、俺は部屋番号を確認してノックもせずにドアを開けてしまう、


「へっ………?」


すると何故かそこには腰まである銀髪を靡かせた可愛らしいピンクの下着姿の女の子が、此方を振り返り間の抜けた声を出していた。

今日はよくよくパンツを見る日だなーとか、考えていたのがまずかった。

女の子は徐々に顔を真っ赤にしていき、ヤバいと感じた俺はドアを閉めて出て行こうとするより早く、女の子が俺の手を引き部屋へと引っ張り込んでドアを閉めた後、かちゃりと施錠する音が聞こえた。


此処が男子寮で女の子が居ない筈だと思う一方で、見てしまったのならその事を潔く謝った方が良いのではないかとか考えてしまう。


「見た…………よね?」


だから俺は彼女のそんな問いかけに、すぐには応えられなかった。

女の子は不穏な空気を出すと俺に向けて手を翳し、


「ごめんなさい。完全に僕の不注意だけど、見られたからには生かしておけない」


いきなり魔法を詠唱し始めた。

真面目に生きようとした矢先にこれだが、喧嘩売ってくるってんならまずは止めねーと――――――。

わざわざ詠唱が終わるまで待ってやる必要はないので、俺は彼女の親指を握り曲がらない方向へ無理矢理力を加える。

彼女が痛みから逃れるために体勢を崩したところで足を払い、床に俯せに押さえつけ、背中に体重をかけてちょっとやそっとでは起き上がれないようにした。


制圧完了っと。


オーズさんに教わった通りに出来たはずなんだが………傍から見ればパンイチの女子を上から抑えつける俺という図になっちまった。


「魔法は止めて穏便に話し合おう」

「言ってる事とやってる事が違いすぎるんだけど?」


いや、それは申し訳ないとは思うが、正当防衛を主張させてもらおう。

あのまま魔法を撃たれてたら俺の方がヤバかった、それくらい威力のある魔法を彼女は放とうとしていた。


「パンツ見たのは悪いと思ってる、けど何も殺しにかからなくても良いじゃないか」

「……パンツ見られたくらいで殺したりしない」

「いや、今現に殺そうとしてた奴が何言ってるんだよ?」

「それは………キミが……僕の裸を見ちゃったから仕方なく………」


一応恥じらいは持ってるらしい、パンイチで襲いかかって来るからその辺かなぐり捨ててるのかと思った。


「安心してくれ、こっちに背を向けてたから丸見えでは無かった」

「それってさっきまでは、でしょ…………?僕が魔法を撃とうとした時にはバッチリ見えてたはずでしょ?」

「…………魔法を止めるのに必死で、そんなの気にしてる暇なんてなかったよ」


本当はオーズさんの教えを反復できるくらい余裕だったけど、俺は取り繕うためにそう言った、やっぱ女の子からすれば好きでもない男に見られるのは嫌だろうしな?

俺だってその辺りの気遣いは出来るんだよ、普段やろうとしないだけで。


その後も羞恥に顔を赤くしながら諦めきれないのか、暫くじたばたと抵抗を続けていたが、


「……わかった。もう魔法は撃たない、殺そうともしないからとりあえず服を着させて――――――」


疲れ果てた声でそう言った。


「じゃあ僕は部屋を一旦出て行くよ」


彼女を抑えていた力を弱めても、何かしてくる素振りは無い。

俺は彼女に対して警戒をしたまま後退りして部屋を出た。

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