第4話
目を覚ますと、そこには立派な尻があった。
……え、なんで?
しかもこの人……スカートを履いている。やべぇ、鼻血が――
「……なんなんだよ」
なんてスケベ心は一瞬にして吹き飛び、現状を把握した俺は背筋に悪寒が走る。
「邪魔だ、どけぇ!」
「そいつは殺すべきだ!」
「関係性走らねぇが、そのまま盾になるってんならてめぇも殺すぞ!」
何十人と囲まれた俺を庇うようにして、一人の女の子が立っている。
その何十人は今にも能力を使って俺を殺す気満々だが、女の子一人でどうにか持ちこたえている状況だ。
「今は殺し合いよりもみんなが助かる方法を探そうよ! きっと何かあるはずだよ!」
まだ十代前半だろうか。
声は若々しいが切羽詰まっているのは見て取れる。
そんな中――
「目を覚ましたぞ! ぶっ殺せ!」
「――は? 嘘だろッ!?」
「『バリアフィールド』ッ!」
炎、氷、雷、銃弾に剣技と様々なモノが飛んできたが、彼女がどうにか抑えてくれた。
だが、そんなのが何度も通じる訳もなく。
「に、逃げて……はや、く……」
何が何だかさっぱりだ。
状況把握が得意な奴でも、この状況下に置かれれば混乱するだろう。事実、俺もそうだ。
そんな中でも一つ、たった一つだけ把握出来る事がある。
「――ッ!」
「な、何して……ん、の……?」
俺がおもむろに取り出したカッターで指を切り裂いたのを見て、少女が声を絞り出す。
何故殺されそうになっているのか。何故少女は護ってくれるのか。わからないことだらけだ。
――だからなんだ?
わからないから少女に助けてもらう?
命が惜しいから逃げる道を考える?
バカ言うな。
今の俺は――『能力者』なんだぜ!?
「突き刺され――『雷弾』ッ!」
弾丸の形をした雷が、光速でヤツらの肩を突き刺す。……流石に殺すのはね!?
「ぐっ……」
「てぇ……」
「今だ、あっちへ!」
俺を庇ってくれた少女を連れて、人気のなさそうな道を走り進んだ。
*
「はぁ……はぁ……」
息を整えて辺りを見渡すが、まったく見知らぬ地だ。
死後……か。つまりは日本じゃねーよな。……ふむ、どこ!?
…………いや、それよりも。
「なんかわかんねーけど、ありがとう。多分俺を助けてくれたん……だよね?」
「助けた訳じゃないよ」
少女はそうつぶやく。
俺の脳内を疑問の二文字が埋めつくした。命懸けで庇ってくれてたのに?
……更なる混乱が押し寄せたが、更に少女は紡いだ。
「もう人が死ぬのはこりごりだから」
「ツンデレ?」
「ツンでもないしデレてもない」
ふんと明後日の方を向いてしまった少女を宥めて、俺は状況確認を行った。
「まず、なんで俺狙われてんの?」
「それは……君が殺人犯だと思われてるから」
「…………は?」
どういうことだ? 何が起きてんだよ……。
俺は誰かを殺したことはないし、生前もきっとないはず。
なのに俺が……殺人犯? バカバカしい。
「何かの間違いだ」
「じゃあその左手首、見せて?」
「こんなもん幾らでも見せてやる」
見せびらかすようにして左手首を晒すと、少女は生唾をゴクリと呑み込んだ。
……さっきからなんなんだ? 訳わかんねーよ。
「やっぱり……」
「やっぱりってなんだよ。ほらちゃんと〝1〟じゃねーか。……1、だと?」
そこまで言って、数分前の思考が光の速さで駆け巡る。
確か、BO3で俺を倒したアイツ、レベルが2に上がっていたはず。
結果として勝った俺は1のまま……なんでだ?
「き、君は?」
「
「……そっか、志賀さんは?」
言うと、スっと左手首を見せてくれた。……よかった、リスカしてなかった。いや、見るとこちゃうだろ。
「〝3〟……? なんでだ? なんの差だよ……」
「BO3……それはつまり、2勝したら終わりのデスゲーム。でも君は〝1〟のまま。それはつまり……対戦相手を殺すことでバトルの強制終了を行った――それが総意見」
「俺が殺人を行って早くゲームを終わらせた、そう思ったからヤツらは殺しに来たってのか……?」
俺の問いかけに、コクリと少女が頷く。
怒り心頭な俺だが、爆発しないのには理由がある。それは――どこか納得してしまっているからだ。
もちろん殺しは行っていない。自分が一番理解している。
だが、立場が入れ替われば俺もそいつを殺人犯扱いしたかもしれない。
……クソ、弁明のチャンスは無いのか?
「さぁ……ゲームを始めよっかー!」
チャンスは訪れることなく、新たなデスゲームが幕を開ける――
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