第3話

ふぅ、一旦落ち着け俺。

冷静になれ。落ち着いて考えればあの脳筋に勝つのは容易い事だ。

あいつの能力は確か……『半径百メートルにいる人物の能力を無効化する』だった。

「おいどうした兄ちゃん、来ねぇのか?」

能力使用時には両手を合わせた状態、どれだけ肉体的に強くてもやはり両手が使えないのは不便なのか、あっちからは全く攻めてこないな。

つまりカウンター狙いの一撃があいつの攻撃手段という事か。

「試してみるか」

俺は切り裂いた指をリングの外に振り、血を飛び散らせた。

リングから本の数メートル離れた所で飛び散らせた血は小石へと姿を変えた。

レベルが上がったからと言って能力が急に向上すわけじゃないってことか。

なら、勝てる。

俺は脳筋野郎目掛けて走り出した。もちろん、攻撃はしない。あのクソピエロも言っていた通り元あった技術や能力はそのままだと。

つまり、俺は肉体戦ではあいつに絶対勝てない。ならやることは一つ。能力を使用しあいつをねじ伏せる。

「おいおい兄ちゃん走り回って逃げるだけが勝負じゃないぜぇ!」

「なら、両手を合わせてその場から動かないのも勝負じゃないな、このチキン」

「へっ、言ってくれるじゃねぇの」

煽りは通用しないか、以外と冷静クールな奴だな。脳筋と言ったことは謝ってやろう。すまん脳筋。

俺は、脳筋に近付きながら離れてという行動を繰り返し、血を振りまいた。

「よし、このくらいでいいか」

俺は脳筋から一番離れたリングの端から飛んだ。

「「はぁ!?」」

同時に声が聞こえた。一人は脳筋、もう一人はピエロ。

そんなことお構い無しに俺は思い切りジャンプした。

「ふざけてんのか兄ちゃん!」

は、まるで勝ちを確信したような表情だな。

「ふぅ、どう足掻いても勝てないと思っての自殺かにゃぁ。期待外れだよ」

勝手に失望してろ。

俺は振り返りリングの端にも飛び散らせていた血を使い、能力を使用する。

「足場」

すると血はみるみる俺と足元へと伸びて行き、俺の足場となった。

「「はぁ!?」」

さっきとは変わった「は?」だな。これは能力でリングと繋がってる。場外には当たらない。

「おいおい管理者!あれは場外だろう!あいつを殺せ!」

「うーん、残念だけど能力を使用しリングと繋がってるから場外じゃないねぇ」

「ふざっけんなぁ!」

「ここの差だったな」

俺は頭を指さし、脳筋を煽り。一言。

「槍」

リング上に撒き散らした血が形をとり、足元から槍が生えた。

「なっ、うお、おっ」

槍は脳筋を串刺しにした。

「な、んで、能力がつか、えだぁ」

「お前の能力、能力を無効化するけどそれは能力を使用する対象がその範囲にいた場合のみに制限されるって感じのやつだろ?現に今、俺は範囲100メートルから少し離れた場所にいる。勝負ありだ」

「はぁ、あ。ふざけやがって、まだ復活できる、だろう?」

「そんなもん、出来るわけないだろう」

最初から何となくだが分かってた。生き返らせることができるのなら何百人とここに呼ぶ必要は無い。

「あれは、俺達が本気で能力を使用するための嘘だ。そうだろ?ピエロ」

「ふぅ~面白いねぇ君。そうだよ正解正解だいせーかい!君たちは死んだらそこで終わり。生き返る事なんて出来るわけないじゃぁ~ん!最初に言ったでしょ?これは私達の遊び。壊れてもまだまだ玩具はいっぱいあるんだから、一人や二人、三人や四人死んだ所で全然困らない残念だったね、脳筋くん♡」

相変わらずの煽りだ。

脳筋は絶望した顔でピエロを見る。そして眉間にシワを寄せ、怒り狂ったように叫び出した。

「ふざけるな!ふざげるな!俺はまだ!まだ戦える!生きられる!死んでたまるか!俺は生き返って!いき、帰って……」

「あははは!醜い醜い!生き返ろうにも自分の事が分からないからどうしたらいいか困ってる!いいねぇいい顔だよ、その顔を見るためにこのゲームをやってるんだよ。あぁ楽しい。最高だよ。その顔見るだけでもう、イッちゃうよ♡」

狂ってる……頭がおかしい。なんだあのピエロは。

「はぁ、はぁ、気持ちいいよォ~。うん、いいもの見せてくれたお礼にいい事教えてあげるよ、もう死んじゃうもんね!脳筋くんの本当の名前、気になるでしょう?君がどんな人生を歩んでどんなふうに死んだのか、名前を言うだけで全て思い出せる!けどそれと同時に、死ぬけどね♡」

「は、は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ」

この場に冷静なものはいない。ただ狂ったピエロと、狂わされた囚人と、それに勝った俺。

そしてピエロは口にする。

「羽山 はねやまさとりそれが君の名前だよ」

「やめろおぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおお!!!!!!!」

パァン!!!!!

叫び声とともに、寝転がっていた脳筋が、爆発した。

肉は爆ぜ、臓物は飛び散り、人としての形の亡くした脳筋だったものが、リングのそこかしこに飛び散った。

「う、うヴォエェェェェェェ」

あんなものを見せられて、気持ち悪くならないわけが無い。初めて見た大量の血、臓物。人が人でなくなる瞬間。それを分からながら見ているピエロ全てが狂っている。こんな、ゲーム、俺が壊してやる。

俺はその場で倒れ、気を失った。手首に刻まれた数字は、1のままだった。

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