消えぬ心のヨリドコロ

@rin_yamatogawa_

第1話

『なつめ…私ね、好きな人出来たの。』

 ふとした瞬間に思い出されるその言葉は、度々私を深い闇へと陥れてゆく。彼女の、少しばかり恥ずかしそうな、けれど幸せそうな微笑みに、キュッと奥の辺りが締まる感じがした。


 ああ、やはりあの頃の私は篠葉(しのは)の事が好きだったのだろう。


 高校時代、知り合いのほとんどいない学校で初めて出来た友人が、篠葉だった。

「は、初めまして、宮一夏芽です…。」

「はじめまして、園崎篠葉です。」

 隣の席に座っていた篠葉に、私が声をかけた。理由は特になかった。強いて言うなら、私同様に1人でぽつんと、つまんなそーな顔をしていたからってとこだ。

 なんとなく話していくうちに、篠葉とは段々仲良くなっていった。お互いの趣味、家族、昔話…今までも様々な人達に接してきたが、こんなに素直に楽しそうに喋る子を私は初めて見た。特に、好きな事を語らせると止まらなかった。目をキラキラと輝かせて、身を乗り出して語り尽くし、終いには私にそれを布教してきた程だ。

 一緒にいて、めちゃくちゃ楽しかった。あんなに心地の良い思いは、今までした事がなかった。更に篠葉のスキンシップは異常なほど多かった。最初は恥ずかしかったが、今では私から迎え入れているくらいだ。それだけ、私は彼女色に染まってしまったようだった。

 時に、私から触れたくなった。触れれば暖かく迎えてくれる。太っている訳では無いのに、抱きついてくる感触はふわふわして、綿あめのような、なんとも言えぬ心地良さがあった。

 一学年上がり、クラスが別々になった。それでも私は篠葉に毎日会いに行った。あの楽しい感覚を、幸せな感覚を、忘れたくなかった。

 気付けば、私は彼女のことばかり考えていた。

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