銃と魔法の交響世界
明日葉晴
第1章 価値の証明
第1話 知らぬ間の夜に
衝撃を受けた。物理的に。
(いってぇ…!?)
黒髪黒目、身長170cm丁度の青年、
少し前の記憶にある空は、眩しい太陽が輝いていたはずだった。
「貴方は何者ですか?」
衝撃を受けた。今度は精神的に。
(は…!?)
夜空のような濃紺に近い黒髪が特に印象的で、ふいに射し込んだ月明かりで映し出された白い肌と対照的で良く映える。
凛々しくも、幼さを残した外国人のような顔は無表情で読めなかったが、深い藍色の目が、
(てか、何者かって…俺が聞きたいんだけど…?)
突然現れた少女に目を奪われている場合ではなかったからだ。
(落ち着け…まず落ち着け…)
(俺の名前は
しかし状況が状況なだけに、冷静になりきれない
(…ってそうじゃねぇよ!?)
重要なのはそこではないと
サバイバルゲームの途中で、
必死に自らの悪友に救援を頼んでいたが、通信機の向こうからは甲高い笑い声しか聞こえてこなかったことを思い出した。
(アイツ、今度会ったら絶対殴る…!)
また
間違っても夜の森で少女に追われていたわけではない。
ましてや押し倒される理由なんて
(こちとらほぼニートだったんだよ…美少女に押し倒されるほど恨まれる記憶ねぇぞ…?)
「もう一度聞きます。貴方は何者ですか?」
「…っ!?」
ずっと黙っていた
そして同時に、
さっきまで似たようなものを突き付け合っていたソレを見て、
(おいおい…まさか本物じゃないよな…?)
拳銃、鉄砲、あるいはハンドガン。
確かな重厚感と命を奪える冷たさが、少女が突き付けたモノから放たれている。
「ま…待とうぜ…?」
「すでに待っています」
状況は全く笑えない為、実際には笑ってはいないが。
「お、おぅ…そうだな…お、俺は
「ジュージョー…ソーマ?聞きなれませんね。それに質問の意図が不明です。本物とは何がしょうか?」
「それだよそれ、銃のこと」
「本物ですが?ここは戦場。本物以外を所持する道理がありません。貴方も所持しているのに、何を当たり前なことを言っているのですか?」
(外国人さんには日本の名前が聞きなれなくて当然だろ…いやハーフ顔ってだけで日本人か?日本語がめっちゃ上手いし。それよりこの子なんて?サバゲのフィールドを戦場と言っちゃう系の子か?)
短いやり取りだったが、それだけで
それだけ、少女から得た情報が理解出来なかったのだ。
「いやいや、俺のはおもちゃだぞ…?それに戦場って、サバゲのフィールドだろ?それに現代日本じゃ、本物の銃の所持は犯罪だぜ…?」
「サバゲ…?ゲンダイニッポン…?聞き覚えのない単語ですね。理解できません…この状況下で玩具などと、杜撰でふざけていて人を馬鹿にしてる嘘を言ったことを含めて、怪し過ぎます」
(言い方酷くね…?じゃなくて!)
サバゲは知らないにしろ、現代日本も知らないと言われたことを
しかしそれ以上に、
その上さらに警戒を強められ、銃口をより近付けられたことで
「まてまて!ホントだって!向こうに向かって撃ってみるから見てくれよ!」
「…わかりました。少しでも不審な動きをしたら即座に処分します」
「お…おう…」
(こっわっ…!でもこれで誤解が解ける…!)
格好いいという理由のみで調子に乗って購入したガスブローバック式のM9ピストルだ。
(今日が初陣だったが、残念ながら一発も撃ててない…まさか記念すべき初撃ちが、脅迫されながらとは思わなかったけど…)
そうして押し倒されたまま、
パァァン……!
乾いた破裂音。
手から伝わる重い反動飛び出す薬莢。
嗅ぎ慣れない硝煙の臭い。
(ちょ…!?は…!?え…!?)
人間は許容量を越えた衝撃を受けると語彙力が無くなるらしいと言うことを、
「………弁解は?」
「俺も驚いてる」
「信じると?」
「思ってはない」
「では」
「待って!ホント待って!では。じゃない!せめて俺が理解するのと遺言考える時間を頂戴!?」
しばらくの沈黙の後、呆れたような少女からの問いかけに
諦めだけは認め潔しとでも言うように拳銃を構えた少女に、
少女の拳銃を本物とは半分思ってないが、口から出た言葉は紛れもない命乞いで、情けなさすぎると言った本人も感じていた。
「ふむ…最期の言葉を聞くのはやぶさかではありません。考える時間を…っ!?」
「え?え?なに?どうしたの?」
だがいきなり少女の態度は一変し、かなりの勢いで立ち上がり周囲を見渡した。
しかし銃口は依然として油断なく
「貴方…仲間が来るまでの時間を稼いでいたのですね。なるほど、先ほどの発砲は位置を知らせるためですか」
「ちょっ!?待ってって!?なんのことかさっぱり…」
先程までの無表情から、幾分か焦った様子を見せる少女。
リィィン…
パンッ!パァァン!
パリン…
耳鳴りのような、鈴の音のような、不思議な音が
その後すぐに何かが割れた感じの音が
「立ちなさい。人質、もしくは盾にさせてもらいます」
「うぇっ!?」
時折、
「な…!なぁっ!何がどうなってんのっ!?」
「まだシラを切るつもりですか?」
「だから何の話だって!?」
「貴方が…っ!?」
「ふべっ!?」
納得出来ず質問を重ねるが、すぐに急停止され、引っ張られてただけの
「そうやって気を散らせる作戦でしたか」
「だから何の話だよっ!?」
「反応するのは少し遅れてしまいましたが、囲まれたのにも気付かないところでした」
「かこっ…!?はぁ!?何に!?」
「貴方のお仲間に、ですよ」
「俺の仲間に…?」
未だに状況が掴めない
かろうじて成立してる会話で
そして少女の言う通り囲まれていたのが、周りから聞こえてきた足音でわかった。
「みんっ…って!いやいや!おかしくね!?」
出てきたのは悪友でもチームの男性達でもないと
ソレらは小学生並の身長に緑の皮膚とボロボロの腰巻きという様相。
「どこをどう見たら俺の仲間に見えるんだよっ!?」
「二足歩行で目と耳と鼻と口が付いている。あと小癪な策を巡らせるところですね」
「最後以外は君も当てはまってるからな!?あとその最後はただの思い込みだろ!?」
「嘘を付いて発砲。仲間に位置を知らせてこの状況に追い込んだ。これを陰湿な策と言わずになんと言えば?」
「酷くなってね!?てかそれが思い込みだって!もっと全体見て!?仲間を助けに来たって顔してないから!」
(この子、意外とバカなんじゃね…?)
それよりも
未だに考えを変えない少女に対して、
「だから協力しようぜ?この状況を抜け出して、落ち着いて話し合わないか?」
「貴方が裏切らない保証がどこにありますか?」
「ないけど!裏切られなかったら協力した方が生きる確率は高いだろ!?てか本音言うけど俺が君に助けて欲しいわ!あんなのに勝てる気しねぇから!」
現在の状況で言い争ってる場合ではないと誰でも分かることは
冷静でなくとも情けないと思える叫びだが、見栄やプライドなど、命の危険の前では無価値だ。
それを理解した
「……見捨てて逃げる方が生きられる気がしてきました…」
「ひぃっ…!?」
少女は呆れたような言葉を吐いた後、少しばかり顔をしかめて
(あ、死んだ…)
パンッ!パァァン…!
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