第1362話 外なる神の欠片
「ただいま、もどりまちた!」
元気な声をあげながら、モフリーナも元へと帰って来たもふりん。
その猫耳幼女の背後には、人と変わらぬ大きさのひよこ達がずらりと並ぶ。
「ぜんいん、こちらにくることをりょうしょうちまちた!」
何故かは分からないが、元気いっぱいに敬礼をするもふりん。
いや、元気いっぱいのではなく、むしろ目的を達成した事を誇り、胸を張っているだけなのかもしれないが。
彼女がダンジョンマスター達からの指示で出かけていたのは、このひよこ達を説得し、パンゲア大陸へと連れ帰る事だった。
トールヴァルド達が住むグーダイド国王の北側に高く聳え連なる山脈。
この山脈は、ナディア達の大陸の地図作成時に、その長大さは判明している。
一体どれほどの長さなのか?
この辺はあまりトールヴァルドが気にしていなかった事なのだが、実は大陸の1/4を他の国々と隔絶する様な形で続いている。
分り易く言えば、ホール・ケーキを1/4にする様にクリームで線を引いたと思っていただければ、少しは分り易いだろうか?
隔絶とはいったが、実際には山脈には何か所かは越える事が出来るポイントもあるのだが、頻繁に行き来できる程低いわけでは無い。
何故ならば、越える事が出来るポイントとは言っても、その標高は日本の富士山程度には高いのだから、行商などで行き来する者はまず居ない。
何らかの理由で国を追われたり、新天地を求めた者、あるいは単に山越えにロマンや冒険を求め目指した者達だけが、隔絶された地へと辿り着いたのである。
やがて長い年月を経て徐々に人が集まってゆき、やがて人知れずその隔絶された地に国が出来た。
決して豊かとは言えない地ではあるが、そこで人々は何世代も生きていた。
そして、ある時…管理局長の企てか、はたまた悪戯なのかは分からないが、とある世界から竜人が送り込まれた…っと、ダンジョンマスター―達は考えていた。
実際には、サラとリリアが運用を任されていたとある星の竜神を、時間も次元も全てを無視し、現代兵器を手渡してこの世界に放り込んだだけなのだが…。
とんでもない力を有した竜神は、己の力を元にして、無数の分身である竜人を作り上げ、この隔絶された地で長い年月を掛け人々が作り上げた国を蹂躙した。
当然だが、直接的な殺戮も数え切れぐらいあった。
人々がこの地に流れ着いてより長い間、他国との戦争など経験した事が無かった人々が、この暴力に抵抗する事など出来なかった。
人々は絶望と言う言葉の、真の意味を知った。
しかし、そんな竜神や竜人の横暴を許さない者達がいた。
それが、今回もふりんが連れ帰ったひよこ達である。
ひよこ達は、あらゆる世界からこの地の危機を察知して集まって来た。
そして、やって来たひよこ達は、一致団結して人々が決して踏み入れない様な森の奥深くに巨大な魔法陣を作り上げ、そこに竜神やその分身の竜人を追い込んだ。
無論、現代兵器を装備し、人の数倍…いや、数十倍の戦闘能力を持つ竜神や竜人との戦闘が激しいものであった事は想像に難くない。
竜神や竜人達の戦闘能力は凄まじいものがある。
しかも、現代兵器…つまりは銃器を装備していたのだ。
もふりんが単体で向かったところで、瞬時に命を絶たれるだろう。
そんな敵を数百数千も同時に相手をし、魔法陣に追い込んだひよこ達の戦闘能力は如何ほどだろうか。
そして追い込まれた竜神や竜人はひよこ達が作り上げた魔法陣の力により、次元の彼方へと飛ばされたのである。
まあ…竜神だけは、流石に神でもあるし、局長の助力もあって元の世界に帰還した様なのだが。
さて、その魔法陣で飛ばしきれなかった極一部の竜人達は、ひよこ達を恐れて高い山脈を越えてグーダイド国王へと雪崩れ込んだ。
これを迎え撃ったのが、ヴァルナルが功を認められ、ウルリーカとの結婚をする切っ掛けともなった、昔の戦での真相だった。
よくよく考えると、そんな竜人に立ち向かった若かりし頃のヴァルナルは、かなり無謀で馬鹿であったともいえるのだが…。
なので、ダンジョンマスター達は下手に従わせるのではなく、説得を試みたのだ。
ひよこ達…すなわち、数多の次元に存在するトールヴァルド…もっと言えば、大河芳樹の異次元同位体なので、普通に会話もできるはず。
しかも、交渉役が猫耳の幼女であれば、あのアホの異次元同位体であるならば、容易に話に乗って来るだろうという、これまたアホな理由でもふりんは派遣された。
あのエロ男の異次元同位体ならば、巨乳ネコ耳美女のモフリーナが行けば1発じゃね? っとも考えられたのだが、如何せん理知的過ぎて、逆に何か企んでいると思われかねない容姿をしているので却下。
ボーディは、偉そうな口調と態度で、即却下。
モフレンダは…不愛想すぎて却下。
カジマギーは緊急事態でトールヴァルドと共に王都行き。
ロリコンの油断を誘う為とか、幼女だとたかをくくらせる為だとか、さももっともらしい理屈をつけて派遣をしてはいるが、実はもふりんしか人材が居なかっただけなのだが…。
「よくぞ無事戻った、ご苦労じゃった、もふりんよ。そしてよくぞ我らの招聘に応じてくださった、外なる神の欠片の皆様方」
ひよこ達の前に立ったボーディは、深く腰を折って頭を下げた。
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